第69話、ダンジョンマスター、壊れると見越して(願望)呪いの品を装備する
残していったみんなの心配、というよりも。
自身の能力の想像をあっさり超える暴れっぷりに、そこはかとなく心配な部分はありつつも。
チューさんの鼻により示された場所は。
みんながこれから手に汗握るであろう合戦会場となっている四分の一フロアと、その隣のフロアを隔てる、青白く塊に固まって奥の方などちぃとも見えそうにない、それでも氷らしきものでできた壁のある場所だった。
「……ダンジョンを滅しないとはいったけど、実は『ディネン(掘削破道)』のカード、壁を掘るのと並行で固定ダメージが入るんだよな。マイダンジョン内では微々たるものだけど、正直とっても嫌でいやーんな予感がするので、ここはひとつ原始的につるはしでで行くとしますわ」
「お、そうか。確かに掘った先にコアがおったのならば、ひとたまりもないかもしれぬしの」
わしなら、くらったらそれこそあの世行きじゃわい、と。
俺とは少しずれた危機感を覚えたらしいチューさんが、つるはしを使うことを許してもらえたので。
(実際『ディネン』のカードやダメージのあるものを食らってしまって、そのダメージがチューさんのHPを超えたとしても、『リヴァ(復活)』の薬をこっそりきっかり持たせているので無問題ではある)
こんなこともあろうかと、転ばぬ先の杖、拾えるモノはなんでも拾って使えの精神で。
今の今までほぼほぼ使っていなかった、『デポッド(配送倉庫)』バッグの中にあって、こやしになっている『プレサーヴ(保存収納)』のバッグの中から、なんの魔法効果もプラスもないけれど、きっちり呪われているつるはしを取り出した。
ちなみに、その拾い集められるだけ集めたバッグの中には、ダンジョン計算で2マスぶんしか届かない投石用小石が。
消費期限ぎりぎりで腐りかけの携帯食料が。
仲間になってはくれなかったモンスター(実はアイテムなどを落とすとテイム……契約にもっていけないのだ)が落とした錆びたナイフなどが入っている。
『異世界への寂蒔』の鬼仕様で、アイテム能力武器防具は一度使うなり装備しないと詳細は分からないことから。
特にバッグの効果を識るために試しに入れてみる……そのためのアイテムたち。
要はゴミであろうとは言うなかれ。
今こうして使えるように、他のカードやバッグを併用すると思わぬものに化けたりするのだ。
それこそ、マイダンジョンの楽しみの一つでもあって。
「むむっ。主どの、そのつるはし嫌な匂いがするぞ。呪われでもしているのではないか?」
「お、チューさん識別もなしにわかるんだ」
「当然じゃ。我がダンジョンからの獲得品じゃろう? わしの一部……のようなものじゃからな」
「そう言われればそうか。これから使って壊しちゃうけど、そのへんは大丈夫なのか?」
「うむ。特に問題はないぞ。ぱぱっとやっとくれ。……しかし、そうか。耐久度が著しく低い品であるから、呪われて外せなくなってもたいして問題はない、というわけじゃな」
「そういうこと。……ええと、この辺りでいいかな」
「うむ。もう少し左じゃ。そっちの壁の方が柔らかそうじゃぞ」
ある程度使っていればロストしてしまうのはカードや薬などのアイテムも同じだが。
これは、呪いが付加されているとはいえ、普通のつるはしであるからして、能力系アイテムのように荒ぶったりせず、使っているうちに壊れることだろう。
そんな軽い気持ちで装備すると。
ぞわっとぬとっと手のひらに吸い付く感覚とともに、お約束のデロデロ音が聴こえてくる。
マイダンジョンにて識別するために装備する以外で、敢えて呪われるような機会はなかったから。
チューさんが毛を逆立てて飛び上がるくらいには貴重な体験ではあって。
「大丈夫かの? ここはわしのはらの中ではないし、他のアイテムのようにおかしくなっていなければよいが」
「いや、至って普通のつるはしだし、大丈夫、だと思うよ」
何故だか、効果の持続時間が増えていたり思わぬ効果があったりするカードやブックなどと違って。
つるはしには掘っても掘っても壊れない上位互換が存在するのだ。
あるいはカードを使っても同じような物が作れるが、名のある鍛冶師が作ったとされるその名は『ムロガのつるはし』。
煌びやかに金メッキが施されていて、普通のつるはしのように使っていて壊れることはない。
(それでも、罠やモンスターの特殊攻撃、自身のミスなどでいくらでもロストする可能性があるのが『異世界への寂蒔』ではあるが、ここでは割愛する)
逆に言えば、普通のつるはしにとってみれば使っていると壊れる……呪いなどの効果から逃れられることこそが特性とも言えるわけで。
結果的に、チューさんに脅される形で、そうは言いつつ内心焦りつつも、言われた場所をさくさくと掘り進めてみる。
「ううむ。いつ見てもぞっとするというか、主どのの言うちょうど一マスぶんが実に綺麗さっぱりなくなるものじゃのう」
「よく考えたら、ダンジョンコアにとってみればお腹の中をちくちくされているようなものなのか」
「いや、掘れる部分はあえてそう言う仕様にしておるから、特には気にはせんよ。わしは主どのの凄さを改めて実感していただけじゃし」
「はは。チューさんってば褒めても今は携帯食料(新鮮)しか出ないよ?」
そんなやりとりをしつつ、さらにさくさく。
そのままチューさんが言うところの6マスほど掘っていくと。
それまでほとんどなかった抵抗が、ふっと無くなる感覚。
お、案の定隠し部屋かなどと思いつつもつるはしが壊れずに残っていたので。
もしかしたら壁の中にあるアイテムが見つかるかも知れないと、辺りの壁を掘り続けて。
今まさに熱き戦いが繰り広げはじめているであろうフロアとは反対側にあるいくつかの小さなフロア……
そちらの方へと貫通する勢いで掘り進めていく。
結果、アイテムの収穫がなかった代わりに、がしゃんと音を立てて呪い付き普通のつるはしが壊れてなくなっていって。
それにこっそり安堵していると。
いつの間にやら俺の元から離れてしまっていたらしい、チューさんの声が少し遠くから聴こえてきて……。
(第70話につづく)
次回は、9月5日更新予定です。




