第66話、魔王、これ以上この場にはいられぬと、ヘタレムーブする
あるいは俺達と同じように、一般的にイメージされるような魔王と勇者の関係というわけでもなさそうに見えたから。
勇者の願いや、それに対する魔王の意義的なところを聞くことが出来るかも知れない、なんて思っていると。
今日はいつもと違って『ユキアート』の勇者と魔王の戦いにギャラリーがいることに気づいたらしい。
心なしか驚いているような気がしなくもないミゾーレさんと目があった気がしたのは、気のせいなのだろうか。
反射的にオレンジ色に透けている(少なくとも俺にはそう見える気がする)フェアリの後ろに隠れたけれど、あまり意味はなかったようで。
「ほほう! いつものメンツでは明確なる勝敗がつかぬと見て助っ人を呼び寄せたか! ……あぁ、それがいかんと言っているわけではないのだ。そうであるのならば公平を期すためにこちらも増員しなくてはなるまいな! 【ルフローズ・リエッタ】!!」
「え? あ、ちょっと」
リザヴェートさんとしては、連携の問題もあるだろうし、あまり俺たちを巻き込むつもりはなかったのだろう。
脚本家なリィアラさんとしては、むしろその間に入り込んでもらってオーケー的なスタンスなのだろうけれど、ぶっちゃけ女性どうしのお話であったことは聞いていなかったから。
及び腰で隠れ逃げ出しそうな勢いであることに業を煮やしたのかもしれない。
僅かばかりの不自然さ……どこからともなく指令、指示でもくだされたかのように、改めてそう叫んだミゾーレさんは、魔法を、氷のゴーレム等々を作り出す魔法を発動する。
するとすぐに、雪山の裏側から3体の、青白い氷でできたゴーレムと、まんま雪だるまの形をした、何やらご丁寧にも雪玉のたくさん入った籠を抱えた小さめなゴーレムが二体、ばりばりと雪を踏み鳴らしつつやってくるのが見えて。
「雪玉の補給にはうちの雪だるさんを貸そう。増員メンバーは三人までだ、良いかな?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! そんなつもりじゃぁなかったから、少し相談させて欲しい!」
二体の雪だるさん? のうち、鼻がムラサキにんじんになっている方が、そんなミゾーレさんの言葉とともにぼふぼふ跳ねながらリザヴェートさん側につく。
そのまま今すぐにでも合戦が始まりそうな流れに、焦って声を上げたのは、案の定リザヴェートさんで。
雪だるさんたちが融ける前には始めさせてくれ給えよと、相談することを了承したミゾーレさんを脇目に、大分戸惑った様子で、だけど迷うことなくフェアリの後頭部に顔を埋めて、いないものとしていたはずの俺の元へとやってくるリザヴェートさん。
「……って、こんな時にな、何をしているんだキミは!」
「ご主人さまこう見えてかなりの照れ屋さんなんだ。こう見えても隠れているつもりなんだよ」
「って、て照れてなんかないし! つもりじゃなくて存在を消そうとしてたしっ」
そんないいわけをしつつも、実際のところうまくはいってなかった……頭の上にいるチューさんの、シャンプー完璧な毛並みの香りなのか、うっかりすると気絶してしまいそうなほどにいい匂いから、慌てて離脱した俺は。
ごほんと咳払いをしつつ、気を取り直して言葉を紡ぐ。
「此度の魔王……ミゾーレさんたちとの合戦に、俺たちも参加してもいいってことなのかな?」
「っ、すまない。急にこんなことになってしまって。頼めるだろうか」
「もちろん、そのつもりではいたからな。選抜メンバーはこちらで決めても?」
「あぁ、それで構わない」
「それじゃぁ、俺たち『ジエン・ド・レギオン』からはフェアリ、ユウキ、シラユキのメンツでお願いするよ」
「「えっ」」
我がパーティーはそんなことだろうと思っていた、とばかりに頷いて納得してくれたけれど。
さすがのジョブ、魔王といったところか、地獄イヤーでばっちり俺の言葉が聞こえていたようで。
それでも何故か示し合わせたみたいに疑問符を浮かべているリザヴェートさんとミゾーレさん。
むむ? 何か問題があっただろうかとしらばっくれて首をかしげていると。
そんな俺を見て仕方がないなぁ、とばかりにフェアリが口を開く。
「あぁ、さっきも言ったけれど、うちのご主人さまは極度の人見知りで恥ずかしがり屋なんだ」
「わたしたちですら、慣れてくれるのにだいぶかかったもんねぇ」
えっ? な、なにですか? 存在しない記憶!?
そんなことはなかったでしょうと。
ユウキやチューさんの方を見れば、チューさんは全く主どのはしょうがないのう、と優しく呆れられ。
ユウキにはやっぱりそうだったんだと妙に納得されていて。
「あ、そうだったのですね」
「ふむ。聞いていたものとは少々異なるようだ」
当然俺も魔王のはしくれであるからして、そんな『ユキアート』の勇者魔王の二人の通じ合ってる感じのやりとり……じゃなかった、声もしっかり聞こえてきていて。
こりゃぁいかんと、リィアラさんの物語、その新作に存在を抹消しなくてはいけないくらいの存在が出てきてしまうと。
決死の思いでフェアリから離れ、ずずいっと前に出て。
「俺は、よその勇者と魔王の間に割って入る趣味はないんだ。むしろそんなやつ(男)がいたらって考えるだけで腹が立ってしょうがないのだ! ……よって俺は今回、ふところマスコットなチューさんと大人しく見学していることにするぞ!」
「主どの……いや、まったくもってかっこわもががっ」
そう、ここは正しくも極寒の地とはいえ、今まさにこれから手に汗握る、俺が到底入ってはいけないアツい熱戦が始まることだろう。
せっかくダンジョンに合わせて新調した装備も、熱気と雪玉が当たったりして、外さなくてはならない事態も起こりうるはずで。
そうなってしまっては、この戦場にいられるはずもないと。
ここを離れる理由も取り急ぎ考えつつ。
結局のところ、へたれに逃げる手段ばかりを、その時の俺は考えていて……。
(第67話につづく)
次回は、8月20日更新予定です。




