第65話、魔王、思えば初めて同種族、同名同役の御方と邂逅する
「ふむ。……この雪原地帯、匂うのう。『ユキアート』に来てからというもの、そこかしこに同胞の気配を感じてはおったが、ここに来ていっそう強くなった気がするぞい。……わぶっ」
「もう。ぼくだって寒いのは苦手なんだけど。すごく見た目寒そうなんだけど。ちょっとごめんね」
『リリー』ダンジョンの醍醐味というか、出現モンスターや得られるアイテムにお目にはかかれなかったけれど。
俺から見ると、雪原に潜り込んで突っ込んでいるように見えるチューさん曰く、この33階層に魔王というか、ダンジョンコアの気配がするらしい。
つまるところ、これもリィアラさんのシナリオ通りなんだろうな、なんて思っていると。
そのまま埋まりきってもごもご言っているチューさんを、フェアリがその頭の上に乗せる形で助け出してくれて。
俺からすれば橙色の透ける頭の上にその殆どを制覇するほどにもふふわなチューさんがぐでんと乗っかっている感じだけれど。
その一方で、茶色髪ツインテールのお姉さんぶりたい娘と、黒髪三つ編みの大人しいけどみんなのまとめ役な二人の少女の、仲睦まじい触れ合いを幻視してしまうくらいには、なんだかんだでフェアリとチューさんって仲良しだよなぁ、なんて思っていると。
先行偵察をしてくれていたシラユキとユウキが戻ってくるのが見えて。
「マスターっ! 勇者ちゃんたち、見つけたよっ」
「すぐに会えるって、こう言うことだったのかぁ。魔王の……ミゾーレさんだっけ? 同じようにお仲間さんを引き連れて現れて、今勇者パーティーと魔王パーティーが面と向かってにらみ合ってる! 急ごう!」
何とも展開が早いというか。
もしかしなくても魔王がいる階層に勇者パーティーは基本的にワープできる感じなのだろうか。
お互いが惹かれ合い引き寄せ合っている結果なのか。
あるいは、その方が物語の進行の都合が良いからなのか。
とにもかくにも、勇者対魔王の場に導かれ招かれたのならば、急がなければと。
すぐに踵を返すシラユキとユウキの後についていって……。
辿り着いたのは。
フロアで言うのならば四分の一程度の、決戦にはもってこいな雪の真白一色の世界だった。
「フハハっ。いい加減悪戯に剣を交えることに飽きてきた頃合だろう! 本日は趣向を凝らし雪が融けるほど白熱する合戦とゆこうではないか!」
どうやら一戦前に間に合ったらしく。
ミゾーレと呼ばれていた、魔王らしき青白髪を凛々しく短く纏めた、歌劇の男役めいた雰囲気を持った少女の、朗々と通る声が聞こえてくる。
そのすぐ背後には、配下らしき魔物娘……じゃなかった、人型の魔物が三人。
『ヴァレス・ハーピー』、風魔法を扱う有翼人、歌の得意なモンスターに。
『ルフローズ・アイ』、モフモフさで言えばチューさんにも引けを取らない氷魔法を扱う毛玉の如きモンスター。
『ウルガヴ・スライム』、スタンダードな、水色スライムだけど、水の精霊のごとき姿のモンスター。
野生で出会ったのならば、是非ともゲット……テイムチャンスに望みたくはある魔物たち。
だけど、何故か綺麗に横一列に並んでいて。
そのような余地など一切なさそうではあった。
その一方で、そういった手法であるのか。
リザヴェートさんたち勇者一行も、きっかり対面できるように横一列に並んでいた。
朗々としたミゾーレさんらしき台詞には、特段異存はないらしく。
リザヴェートさんたちは続く言葉を待っていて。
それに満足げに頷いたミゾーレさんは。
指をパチンと鳴らしたことで、真白なフロア……地面が音を立てて揺れだして。
それまでほとんどなだらかであった雪の大地が、高さも横幅もほどよくずれながら隆起していくのが分かる。
「あ、これって雪合戦のフィールドだ、見たことある!」
なるほど、合戦って雪合戦のことだったのか。
確か、世界大会とかもあったりするんだよな。
こっちの世界にもあるんだなぁと思いつつも。
せっかくこんなにたくさん雪があるのだから、そういった手法もありなんだろう。
どうやら……何とはなしに予想はしていたけれど。
『ユキアート』の勇者と魔王も、お互いを何としてでも滅そう、などといった険悪な感じではなさそうで。
俺もユウキも、実際そうだったし、話せば分かってもらえそうと言うか。
勇者の願いや、魔王について、同じようなものはあるのかとか。
色々教えてもらえるかも知れないなぁ、なんて思ったりしていて……。
(第66話につづく)
次回は、8月15日更新予定です。




