第62話、魔王、おっかない? 勇者さまがやってきたのでマイ勇者さまを盾にする
そんなわけでダンジョン『リリー』に潜るメンバーは揃っているとのことだけど。
魔王側にも準備があるのか少し手間取っているというか入口でも待機時間が続いていたから。
今回のイベントに参加する主だった探索者たちについても周りのギャラリーな皆さんから聞こえてきたので俺なりにおさらいしてみることにする。
まずは、『ユキアート』探索者ギルドにおいて上から2番目のランクとなるAランクパーティー『雷獣の一撃』。
勇者パーティーを除けば実質トップである、とのことらしい。
何かと特別扱いされているSランクな勇者パーティーより実力は上なのでは、なんて言う人もいるとかいないとか。
ぽっと出な俺たちが此度のイベントに参加できたのは。
前々からダンジョン『リリー』を勇者パーティが独占しているのが気に入らないと彼らからの不満が上がっていた事もあったのだろう。
そんな彼らの職業は、騎士、重戦士、格闘僧に盗賊といった物理攻撃特化型で。
騎士がデラスさん、重戦士がジンさん、モンクのモロオさんにローグのヒュンスさん。
全員男性で、確かに実力は確かなのだろうけれど、多分リィアラさん的に物語の登場人物として映えない、なんて思っているのかもしれない。
続いては、Bランクパーティーの一つ、『雪化粧』。
その名の通り、『ユキアート』出身の若者四人組で。
剣士、盗賊、回復士、魔法使いといったテンプレだけど鉄板な組み合わせで、パーティーを結成して比較的早くBランクまで上り詰めたらしい。
イルドさん、ドーンさん、イグサさん、ステファンさんのこちらも男性四人パーティー。
同郷で、男友達の幼馴染みとのことだけど、リィアラさん的にはそれこそ男女パーティー二対二であったのならば、それこそテンプレートなラブコメディ話が浮かんできただろうに、といった感じで。
とはいえ『雷獣の一撃』とは違い、受付嬢時代に面識があったようで。
言うほどつっけんどんでおざなりでもないことはここに記しておこう。
そしてもう一組、Bランクベテラン探索者パーティー、『フローズン・ネバーランド』。
軽戦士にのジョセフさん、格闘家のゴードンさん、盗賊のステラさんに魔法使いのマジェスさん。
それこそ男二人女二人の組み合わせで、リィアラさんにとってみれば物語の登場人物して十分そうだけれど、それぞれが夫婦であるのはいいとしても、探索者現役ながら4人ともけっこうなお年であるらしい。
この世界には寿命の長い種族がいるから、少なからず臆面通り受け取ることもないんだろうけれど。
見た目はどう見てもお師匠クラスのおじいさんおばあさんなので、リィアラさんとしては物語を作らんとする欲が沸かなかったのかもしれない。
その他にもCランクの参加者が何チームかいたけれど、『リリー』ダンジョンに潜るとしても低階層のみで、本当にお試し、潜ってみるだけの人がそれなりの数いる、とのことで。
それこそ『リングレイン』にてユウキが勇者だった時はAランクに届きそうなBランクだったそうだけど。
今回は数合わせのゲストとして、俺たちもそのCランクの集まりに混じっていた。
そんな俺たちを、リィアラさん以外に注視していたのは以外にもAランクパーティーの『雷獣の一撃』の皆さんだった。
まぁ、そうは言っても、正にテンプレなよそ者を訝しげに見てくるような感じではあったけれど。
そのおかげなのか、あるいはリィアラさんがけっこうこちらに何やら良く分からないサインを送っていたからなのか。
続いて『フローズン・ネバーランド』の皆さんが田舎から出てきた若者を見守られていると。
それなりに目立ってしまったようで。
こちらからは敢えて接触しないつもりでいた……というか全員女性でリィアラさんとは違って正直腰が引けていた俺の前に、勇者パーティー御一行が近づいてくるのが分かる。
あまりに自然な流れでユウキの後ろに隠れようとしてできないでいる俺は。
そんなユウキとチューさんに対応を頼むと一言置いて、少しばかりユウキを押し出すと。
それにちょっと戸惑いながらもユウキは仕方ないなぁと頷いていて。
「あなたが『リングレイン』から来た探索者……いえ、勇者ナイルとそのパーティーの皆さんで街がないですか?」
「えっ? あ、ああ。そうだよ。オレが『リングレイン』の新しき勇者のナイルさ!」
ユウキは少しばかりテンパりつつも俺が、俺たちがよその勇者パーティー役をするにあたって。
今頃は我がダンジョンを楽しんでくれているであろうナイルくんの名前を借りることにしていたから。
少し芝居がかってはいたものの、何とかそう宣言してくれて……。
(第63話につづく)
次回は、7月30日更新予定です。




