第61話、魔王、あれよあれよという間に街の一大イベントに参加する
「それでなんだけど、勇者のパーティーメンバーとしてここにいるみんなも連れて行ってもいいかな。ちなみにユウキが魔剣士、フェアリが回復士、シラユキがスカウトで、チューさんがマスコットだね」
「ま、マスコット!? そ、それは何やら興味深い響きですね。具体的にはどのような職業なのです?」
「職業っていうか、そのままだな。時に孤独なダンジョン攻略にて心の拠り所……話し相手になってくれる存在さ。大抵は懐の中にいるばかりだけれども」
「ふおおおぉっ! 懐ですと!? それはなんとも刺激的ですね! 魔法的な力によるものですかね。いいですね! インパクト大ですっ。『ジエン・ド・レギオン』のみなさんが『ユキアート』における最上級ダンジョン、『リリー』に挑戦できるよう、探索者ギルドの方にお願いしておきますね!」
「え? いいんです? パーティーメンバーで挑んでも? 俺はてっきり許されても俺だけかなぁって思ってたけど」
あまり登場人物が増えすぎてもよくないだろうというか。
リィアラさんにとってみれば大切な二人のダンジョンであるからして。
言い方はあれだけど俺が『ユキアート』の勇者、魔王にみだりに近づいてちょっかいをかけないように、
あるいは他のみんなを人質のように置いておくのかと思いきや、そんなことはなかったらしい。
「? ダンジョンに挑まれるのでしたらパーティーで向かうことは普通では?」
「あぁ、うん。確かにそうだけれども」
「……というか、リィアラどのはここのいち司書なのじゃろう? 勇者と魔王を追って書き物をしているとはいえ、急に来たわしらにそのような許可を与えられるような権限を持っておられるのかの?」
思っていたのとは異なる返しに、俺が少しばかり戸惑っていると、最もなことというか、深めに突っ込んだのはチューさんだった。
「権限なんて。そんな大しれたものじゃないですよ。図書館では下っ端ですけれど、ギルドの方でも受付嬢をやっていましてね。比較的ギルド長さんには話を通しやすいのです。今回はダンジョン、町の活性化案として、イベントとして提案したいと思っています。『リリー』のダンジョンは、難易度が高いのもありますけれど、勇者のパーティーメンバーばかりが挑んでいて、ダンジョンとしての実入りは少なかったものですから、この際ジエンさんたちだけでなく複数のパーティーに挑んでもらいたいと考えているのです。自らの力が最上級ダンジョンにどこまで通用するのか! ……そのような依頼を出そうかなって」
「なるほど。お話のテコ入れ……かませ犬を登場させるってことかぁ」
「自分で言うようなことじゃないと思うけど。ユウキはわんこっぽいところはあるけどね」
「それはフェア姉にも言えるんじゃない?」
「うん、そうかな? 意外と自分のことは分からないものだよね」
やはりリィアラさんは召喚時に現れる女神さま的存在だと思っていたのは勘違いだったのだろうか。
そう思わせる位、自然な態度。
そのまま、わんこ談義に盛り上がっていくその場を見守りつつ、チューさんと顔を見合わせる。
これは、お互い触れない、気付かなかったふりをしてくれってことなのだろうか。
そうであるのならば、俺としてはまだ見ぬダンジョン、しかも魔王のダンジョンに潜れそうなので特段問題はないと。
その流れに乗ることにしたのだった……。
※ ※ ※
それから。
リィアラさんが探索者ギルドに口出し、催し事を提案できるのは確かだったらしく。
リィアラさんが言っていたように、勇者パーティーばかりが魔王のダンジョン『リリー』を独占する形で利用していたのは町の活性化の機会を逃していると。
問題に、とまではいかずとも世間話の議題には上がっていたようで。
正しく一大イベントのごとく。
探索者ギルドから、『ユキアート』最上級ダンジョン『リリー』の特別攻略の依頼、そのお触れが出されることとなったわけだけど。
今回だけの特別なものだとはいえ、『ユキアート』で最上級なダンジョンであることに変わりはないので、勇者のパーティーや俺たちをのぞくと、3~5パーティーほどが参加となるらしかった。
その、『リリー』なるダンジョンがある場所は『ユキアート』の敷地内とのことであったのである程度は予測してはいたけれど。
『ユキアート』探索者ギルドの地下スペース……まさかギルドの建物の真下に入り口があったとは予想外と言えば予想外で。
そんな風に虚を突くつもりなど毛頭なかった、とばかりに。
改めて呼び出され集められたのは探索者ギルド、その地下。
『ユキアート』の探索者ギルドの人たちや、一大イベントを見物しようと集まっている町の人たちに混じって、リィアラさんの姿もしっかりあって。
すぐさまこちらに気づいたリィアラさんは、けっこうあからさまに手を降ってくる。
それは贔屓的なものになったりしないのかなと少しばかり心配になっていると。
よそからやってきて知名度のない俺達とは違い、『ユキアート』の勇者パーティー以外の、『ユキアート』では大分名の知れた実力のあるパーティーにはそれぞれ推しが複数いるようで。
周りをよくよく見てみると、同じように町の人々が声援を送ったり手を振ったりしているのが見える。
そうであるのならば返さないわけにはいかないと、小さくてを振り返していると。
そんな俺たちを含めた、今回『リリー』ダンジョンに挑戦する冒険者たちの評判というか、
人となり、はたまた来歴のようなものまで聞こえてくるではないか。
それも、リィアラさんの物語を作り上げるための、上位存在としての力なのだろうか。
そんな都合の良いことを思いつつも。
ありがたく情報は情報として受け取っておくことにして……。
(第62話につづく)
次回は、7月25日更新予定です。




