第60話、魔王、ちゃっかり勇者のふりをして他所様のダンジョンに潜る案を提示する
身内びいきな部分がないとも言えないので、実際には潜って見ないと判断はできないわけだけど。
レベルの高いダンジョンであるからして、『ユキアート』の魔王のダンジョンは未だ踏破されてはいないらしい。
一応のところ、踏破していることになっている(魔王本人の手によるものだけど)我らがダンジョン。
あるいは勇者であるユウキを取り込んでしまってともに攻略を楽しんでいることを考えると。
『ユキアート』のダンジョンも似たようなものなのでは、なんて愚考していて。
「でもそれだと物語を進めていかなくちゃいけない作者なリィアラさんも大変だね。ここからどうお話を展開していくのかな。終わりを考えていないわけじゃないんでしょう?」
「はい。そうなのです。おかげさまで人気も上々ですので出来うる限り引っ張りたい気もあるのですが、あまり間延びするのもあれかなぁと」
きっと、純粋にお話の進捗具合を知りたいフェアリなのだろうけれど。
仮にというか、睨んでいた通りリィアラさんが勇者のみんなをこの世界に送り込んだ女神さまの類であったとするのならば。
動かないこの状況をどう思っているのかが分かるかもしれない、なんて打算もあって。
「進展なしでどっちつかずが続くのってしんどいよねぇ。何かお話の大きく展開するようなテコ入れが必要かも」
「うん。たとえばそうだね。隣国からやってきた別のダンジョンの勇者がやってくる、というのはどうかな?」
「おぉっ、とってもすっごく良いアイディアじゃないですかっ。だけど話はそう簡単じゃないですよねぇ。そんな都合の良すぎるタイミングで他国の勇者さまがやってくるとも思えませんし」
「いや、そこはお得意の創作じゃいかんのかの?」
「ああ、そっか。リィアラさん魔王のダンジョンに入れるのならその役を自らやるっていうのは?」
作者ご本人登場。
賛否両論ありそうなそれは、先程スルーされた部分を的確についていて。
このまま壮大な『ユキアート』の勇者と魔王の物語についてあれこれ語る予定であったに違いないリィアラさんは。
想定外の展開に持ってかれてませんかと、うっとなって。
「……言われて見ればそうですね。せっかくお邪魔出来るのだからそんな身分を使わない手はないかもです。物語の完結のためなら……はい。今から役作りをしなくては!」
私の物語に嘘や作り物は認めません!
そんな言葉が返ってくるのかと思いきや、臆面通りに受け取ってしまうリィアラさん。
関係者であると言っているようにも聞こえるし、頑なにスルーしているようにも見える。
きっとそれは、リィアラさんの素なのだろう。
上位存在にありがち? な裏ばかりなタイプではなく。
一つのことにひどく情熱を燃やすだけの、表裏のない人なんだなぁって、感覚的に分かってしまって。
すとんと、何かがはまるように今の今まであったリィアラさんに対する緊張感めいたものがどこかへいってしまい、落ち着いた俺は。
そこで改めてきっかりはっきりとリィアラさんを直視する。
緑金の長い髪を後ろ手にまとめて三つ編みにし、それなりに分厚いメガネからエメラルドの瞳をのぞかせた、まさに文学少女などといった表現にかなう彼女。
そんな宣言をした流れでペンをどこからともなく取り出して。
内なる世界へ入っていってしまいそうであったので、これはしょうがないかなぁと。
万を辞してとばかりに、俺は口を開く。
「いやいや。作者登場はやっぱり悪手だって。ようはかませ……物語を動かしそうな存在を登場させればいいんだろう? ちょうど、流れではぐれの勇者役ならできそうな人物がここにいるけども、どうかな? 雇ってくれないかい?」
「ジエンさんが、ですか?」
「ちょ、ちょっと。そこはオじゃもごごっ」
「主どのは自由じゃのう」
「勇者、ね。それもいいんじゃない。意外とご主人さまにあってるかも」
きょとんとするリィアラさん。
そこはオレじゃないのかよってツッコもうとしてシラユキのもふもふに塞がれるユウキ。
ダンジョンに潜りたい一心でそんな事を言っている俺を分かった上でのんびりしているチューさんとフェアリがそこにいて。
「二人を刺激するために俺は魔王のダンジョンを攻略するフリをしようじゃないか。何、フリだから二人の邪魔をしすぎて蹴られるようなヘマはしないよ。モンスターさんたちを適度に相手して、トラップ超えて最終踏破地点に迫ってみようか」
もちろん役には入るけれど、ただただ純粋にダンジョンに潜りたいだけなのだと主張。
魔王のダンジョンにそもそも入れるのか、とか。
俺に魔王のダンジョンに挑戦できるほどの力量があるのか。
その辺りは、暗黙の了解でフリだから大丈夫ですよなんて感じで押し通せないだろうか。
「……う~ん。なるほどなるほど。ええ、確かにそれも悪くないかもしれませんね。
ジエンさんが流れの勇者役をやっていただける、ということでよろしいですか?」
「ああ。そんな感じでよろしく頼む。やるからには全身全霊で(魔王のダンジョン)に挑むよ」
「ふふ。実に頼もしいです。確かに素人な私よりジエンさんに参戦してもらった方が映えそうですし!」
なんて思っていたら。
それこそフリでかませだから俺の実力など二の次なのか。
少し悩む仕草をして見せただけで、俺の、俺たちの目論見通りにリィアラさんは頷いてくれて……。
(第61話につづく)
次回は、7月19日更新予定です。




