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第6話、ダンジョンマスター、強がって勇者を助けんと決意する



兎にも角にも『ホームへ向かう』を選択し、ホームへと直行。

そのままチューさんが元いた場所、ダンジョンコアのあった台座へと駆け上ると。

何やら目をつむってむにゃむにゃもぐもぐと唱え始める。


するとすぐに、部屋に恐らく魔力か何かであろう力が満ちて。

台座の裏側の壁に光が照射され、映像が映し出された。



「おぉ、さすがのダンジョンコア……っ」


結構万能なチューさんを褒め称えようとして、しかしそれは最後まで出てこなかった。

映し出されたのは、ワンフロアを俯瞰した映像。

チューさん曰く、映像を提供してくれているのは、ダンジョンの天井にならどこにでもいるケブルバット(洞窟こうもり)達らしい。


少し上からの角度で映し出されたのは、桜色に映える長い髪を後ろに纏めた少女だった。

まず現実じゃお目にかかる事はないだろう、正しく画面越しでなければ拝む事叶わなそうな美少女である。

普段はきっと勝気で意志の強そうな薄桃色の瞳は、一言で言い表せないくらい様々な感情に揺れている。



その髪色、目の色のせいもあって俺が思い出したのは、『WIND OF TRIAL』のに出てくる一人のヒロインの事だった。

たくさんのシリーズが出ていて一作ごとの勢いでヒロイン的ポジションのキャラがいた『WIND OF TRIAL』ではあるが、スピンオフで主人公プレイヤーとして活躍した事のある彼女の事はよく覚えていた。

いつもの主人公には使えない攻撃魔法を操る女騎士で、相棒のユニコーンに騎乗すれば、二倍の速度で動けると言う強キャラでもあって。


まぁ、髪色とかがかぶっているだけで、当然別人なんだろうけど。

まず気になったのは、ちょっと大きすぎる気もしなくもない派手な装飾の両手剣であろう。

服装……防具は町娘の普段着って言っていいくらいシンプルなものなのに、あのような両手剣は見たことがなかったというか、マイダンジョンの鬼仕様基本ルールである、装備アイテムお金は持ち込めないといたルールの例外というか、必要最低限の初期装備として登録しておけば、得物ひとつと簡易な防具ならば持ち込めることを思い出したのだけど、それにしては随分と特別感のする剣だなぁ、なんて思っていて。


いかにも勇者の剣っぽい装備品があったからこそ、初見でありながら14階までやってこられたのだろうが。

問題なのはそんな彼女を追いかけている男どもだろう。

あるいは、彼女と違って特別でない彼らは。

鬼仕様のマイダンジョンに耐えられなかったのかもしれない。

体というよりも、心のほうが。



見苦しい感じで描写したくもないので明言は避けるが、三人三様で見窄らしい服装かつ、ギラギラした雰囲気でそれぞれが何かを叫んでいる。

改めてマップを見ると、さっきまで彼女たちは仲間パーティメンバーであることを示す同じ黄色の丸で表示されていたのだが、三人の男たちは第三勢力を表す黒色円に変わっていて。



「ふむ。彼奴らの目的はあの剣のようじゃな。あるいは彼女自身かもしれんが。我らがダンジョンの特性が効かないとは、さすがは『勇者』じゃ」


最難関ヒリヒリ楽しい『異世界への寂蒔』は。

入る際にレベルが1になり、持っているアイテムが全てなくなってしまう。

そんな特性に、やはり彼女の持つ剣は当てはまっていなのだろう。



「なんでなんだ? 今まで仲間だったのに。いや、何となくは分かるけども」


接着接近してのタイマンバトルがメインではあるが、遠距離攻撃を繰り出してくるモンスターも多く、

近接での戦い方が圧倒的に不利にならないように我らがダンジョンには遮蔽物が多い。


一つの階で、大部屋小部屋といくつも区切られており、レベルが落ちて自力が勝るのか、今の所逃げては見つかって、また逃げるが繰り返されている。

剣が目的だろうが彼女が目的だろうが、人んちのダンジョンでやらなくても、と言いたかった。



「初めから仲間のふりをしておったか、度重なる『死』に狂ったか。どちらにしろろくな理由じゃあるまい」


ああ、やっぱりか。

俺なんかは攻略失敗イコール『死』が当たり前になってるから麻痺してるけど、そうじゃない人にはしんどいかもしれないな。

所謂死に戻りってやつは。


「でも、そうは言ったって攻略が面倒なら帰ればいいのに」

「あるじが不在で攻略されたわけでもなし、あるじの許可がなければ一度ここに入り込んだものは脱出不可能じゃ。脱出のスキルが使えるのならわからんがの」

「おう、それはそれは……」


何と言うムリゲー。

さっき、アイテムやスキルが俺以外使えなさそうだって聞いたばかりじゃないか。

そりゃおかしくもなるわ。

脱出に必要なスキル、『セシード(内場脱出)』カードが使えないんじゃ、クリアする以外に出る手段ないじゃん。

……まぁ、俺専用のダンジョンで勝手に入ってきちゃったんだから、しょうがない気もするけども。



「とりあえずはまず、あの娘を助けなくちゃな」

「何故? と聞いても?」

「そりゃあれよ。あの娘可愛いし」


このまま放っておくのも目覚めが悪いとか、それっぽい理由も思い浮かんだけど。

自分らしいつもりで言うならその一言だろう。



「わざわざ勇者を、あるじの宿敵を助けるというのか?」

「いやぁ、そこなんだけどさ。逆に聞きたいんだけど、敵対する意味ってあるの? チューさんが何か困ることがあるなら考えるけど」



質問を質問で返すようでなんだったが。

仮に、勇者とやらがあんな可愛い子じゃなくても、敵対するよりやっぱり自分で自分のダンジョンを、あるいは人様のダンジョンを楽しみたいというのが本音である。



「いや、わしの存在を維持するための『生命力』はあるじからもらっておるし、言われてみればあまり意味はないな」

「だったらいいよね。ちょっとヒーロー気取ってくるよ」


故に、臆面なくそう言うと。

チューさんはどこか呆れたような、でも納得して頷いてみせて。


「わかった。あるじならば直接この階へ向かうこともできるがいかがする?」

「ショートカットは意に反するっちゃ反するけどね。……自分が攻略してるわけじゃないから、目をつむろう」

「ならば、この台座へ触れとくれ。転移を開始するぞい」


なんてやり取りをしている間にも、ニアミスして大変、なんて場面も繰り広げられていて。

急がなくてはヒーローに間に合わなくなってしまう。


「うゃっ、ま、またぁっ!?」


だから、俺はチューさんをむんずと掴み、懐へ入れると心持ちはダッシュでいざ現場へと向かうのだった……。



   (第7話につづく)








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