第57話、魔王、それじゃあ帰るよと言われたくなくてひよって聞けない
俺が勇者に与えられし報酬、願いについて聞いてもいいものなと迷っていると。
これといってそんな遠慮もなにもなく、チューさんがいつものように偉そうに口を開く。
「親近感、とな? しかしわしから見るに、ユウキたちとは真逆のように思えるがの」
「逆? えっと……どのあたりが?」
「勇者の男の子に、パーティメンバーは三人の女の子だからじゃないの?」
「えっ? あの勇者さん、男の子なの!?」
「……装備品を見る限りはそう見えるね、ぼくにも」
え? そうだったのか!?
などとユウキと一緒に驚きを隠せなかった。
俺から見れば、四人の女性ばかりのパーティにしか見えないんだけど。
またもや俺はいつの間にやら『デ・イフラ(幻惑混乱)』系統の魔法にかかって……いや、かかってないからこそ俺にはそう見えるのかもしれない。
例えばヒーラーの娘はけしからんという言葉が相応しいくらいダイナマイトボディの金髪碧眼ん少女であるし、シーフの娘は出るとこの出ているらしい服装は勿論、ベリィショートの黒髪が似合っているボーイッシュな娘だし、銀の髪を後ろ手に結っている女性は、騎獣の姿は見えないけれど、ディーとよくにた白銀のフルアーマー装備であるからしてきっと女騎士さんなのだろう。
そして、白みがかった青髪ボブにスカイブルーを瞳持ちし少女、というか勇者さん。
ユウキと比べると大人しめな印象を受ける。
出会った時から女性用装備であったユウキと違って、男性用装備を身にまとっているようだけど。
腰に携えた剣はレイピアなどの類なのか、小さめにも見えて。
もしかしなくても勇者という職業、あるいは称号は性別を偽らなければいけなかったりするんだろうか。
そんな益体もないことを考えつつも。
声をかけられるチャンスがあったのならば、ダンジョンの話など聞いてみようかな、なんて思っていたけれど。
こちらへは顔を向けることもなく、受付へ向かいその足でダンジョンへ潜りそうな勢いだったので、どうやらそんなチャンスはなさそうで。
これから魔王のダンジョンへ向かうと言うのならば、こっそり『ルシドレオ(透過透明)』のカード使ってついて行くのはどうだろうか。
「どうするユウキ。彼女らがダンジョンへ向かうのなら気づかれないようについていくかい?」
「あ、そっか。ジエンにはあれがあるんだっけ。透明になるやつ。……まぁ、正攻法じゃないってのがネックだけど」
「そんなこと言って主どのは他の女に会いたいだけなんじゃろう!」
他の女って。
人を浮気野郎みたいなルビ付けないで欲しいんだけど、まったく。
まぁ、ぶっちゃけると勇者や魔王よりもダンジョンそのものに興味があるのは事実だけどさ。
「うーん。どうせなら正々堂々とは思っていたけど、今更だよなぁ。そもそもがもうオレってば勇者じゃないし。ジエンだって勇者を倒したりとか、魔王の味方をするってわけじゃないんだろう?」
「あぁ、この『ユキアート』の、魔王のダンジョンがどういったものなのか見たい(あわよくば探索したい)だけで、勇者と魔王に関してはぶっちゃけどっちでもいいんだよね。まぁ、ユウキの願いを叶えるために必要ならばその辺りのことについて話してみたいとは思うけども」
「あ、そっか。ジエンならそういうと思ってたよ」
「マスターってば、ほんとダンジョン好きだよねぇ」
「何おう、照れるわい」
「チュートのことじゃないと思うけど、うん。主さまがそうじゃなかったらぼくらも出会えてなかったんだし、そこは誇ってもいいかもね」
例えば、ユウキの勇者の願いを叶えるために、その対となる存在、魔王をどうにかせねばなるまいとなったら俺はどうすべきなんだろう?
俺が、それこそ今更ユウキのために犠牲なるだなんて望まれてはいないだろうし、
よその魔王を撃破すれば叶うだなんて確証のないことを試す気にもならないし……
これは、あくまでも俺が最近のユウキを見ていて思ったことだけど。
元の性別に戻ることや、故郷にに帰還したい、などといった願いについてあまり乗り気ではなさそうと言うか、
何が何でも成し遂げてやりたいって感じが見受けられない気がするんだよね。
その辺りのことは、ユウキにとって良いように。
望んでいる形で何とかしてあげたいとは思うんだけど。
それ以前に魔王側(あるいは俺だけなのかもしれないけれど)が知るところのない、上位存在による願いの成就については半信半疑のところもあった。
こうして『ユキアート』にやってきて、それらしい存在に会うまでは。
歌の世界じゃあるまいし何の見返りも無く(勇者に異世界へ行ってもらうことが見返りなのかもしれないけれど)願いを叶えてくれるのかな、なんて思っていて。
「で、結局どうするんだ? 興味が全くないわけじゃないし、ついていくんなら付き合うけど」
「主どのの反則わざであるからこそ、気取られることはなさそうじゃが、あのコアかもしれぬきゃつが黙っておらぬのでは?」
「ああ、それって司書さん? 確かにいろんな意味で凄そうなひとだったなぁ」
「正直、少しばかり噛み合えば気が合うんじゃないかな、とは思っていたけれど」
「んー、そうだなぁ」
自分で言うのもなんだけど、自身の能力が上位存在にまで効果が及ぶかについては不透明なところがあるのは確かだった。
いや、能力自体は俺が思っている以上の効果のものが多かったから、変わらず良い効果は望めそうだけれども、それ以外の部分……例えば今の会話とか、こちらの行動を細かくチェックされている可能性は否めないのは事実で。
それを逆手に取るというか、邪魔されると分かっていてあえて自分勝手によその勇者と魔王のダンジョンを楽しまんと乗り込んでいくというのは。
やっぱりまぁ、何度も言うけれど最終手段かなぁ、なんて思っていて……。
(第58話につづく)
次回は、7月3日更新予定です。




