第56話、ダンジョンマスター、対象の戦闘力(意味深)をマップにてはかる
そんなこんなで、次の日。
結果的にあの後、どうにか隙をついてみんなでレベルアップできないものかといった考えが漏れ出てしまったのか。
このままガールズトークをしたいという展開になって。
俺一人部屋を追い出されて。
取っておいたもう一つの部屋の方で過ごすことになった。
思えば『リングレイン』の街にお邪魔した時は結局日帰りだったから、こちらへやってきて以来久方ぶりのひとりではあって。
たまにはこれも悪くないなぁと、特段何かに疑問思うこともなく一夜を過ごして。
改めて『ユキアート』に向かうための選抜メンバー……
チューさんとユウキ、フェアリとシラユキの四人で冒険、探索者ギルドへと向かうこととなった。
当然、目的は手始めの様子見な初級ダンジョンへの挑戦、とまではいかずとも、魔王のダンジョンへ挑戦しているであろう上級探索者……勇者の姿をあわよくば拝見できれば、なんて思っていた。
『ユキアート』ダンジョンの勇者。
何でも、A級の探索者として登録されているらしい。
その辺りのことを調べてくれたユウキ自身は『リングレイン』にてC級探索者として登録していたようだ。
うちのダンジョンにて鍛えていたから実際はもっと上……レベルアップしているはずだから。
実際は見た目ほど差はないはずだとは思うのだけど、現状のユウキは一応登録上は勇者ではなくなっているので、対面しお互いの実力を図るようなことはできそうにないけれど。
上手くかち合えば会うことくらいはできるかもしれないな、目論んでいて。
「そう言えば、『ユキアート』の勇者や魔王も異世界転移者なのか?」
「そういった機密事項は図書館で調べることはできなかったよ。だけど、転移者だって噂は聞かないから違う可能性もあるよね」
「地元の人……あるいは言わないだけで転生者なのかも。生まれた時からってやつ」
「ふむ? それではユウキと知り合い、同じ世界からの来訪者ということもあるのかの」
「あー、どうだろう。同じ世界の人って可能性はあるかもしれないけど、オレ、あんまり知り合いいないからなぁ」
どうにも気になって、ギルドの飲食できる場所(夜はもちろん酒場になるらしい)に陣取って。
呼ばれるまでの時間を潰している間の、そんなやりとり。
そんな中、ユウキが気になることを呟いたのではっとなる。
こんな、ダンジョンアタックばかりしていた俺ですらたまには付き合ってくれる友がいたというのに。
知り合いがいないとはどう言う意味なのだろう。
今の見た目は明らかに未成年ではあるが。
故郷での話を聞く限り、俺と年代はそう離れてはいないはずで。
会社や学校があったのならば、必然的に知り合いくらいはできそうなものだけど、ユウキは違うのだろうか。
こう見えて引きこもっていたりするのだろうか。
聞いてみたかったけど、なんとはなしに広げて欲しくない話題のような気もしていて。
そのまま、それじゃあ誰が一番の友達なのかな、なんて。
微妙に入りづらい話題の移行したことで手持ち無沙汰になってしまって。
ダンジョンに潜る際にはいつも広げている薄青のウィンドウマップを見ていたら。
地下の方の星の数ほどありそうな青点、赤点とは別に、地上に溢れている緑点(敵対意思がなく、友好関係にもなっていない存在を示す色)のうち、殊更大きいものが四つ、この探索者ギルドに近づいてきているのが分かって。
「マスター、やっぱりついてるね。待ち人かもよ?」
「おぉ、そうみたいだな。……でもうん、ユウキの方がでかいな」
「え? な、何が大きいって?」
「……ぺたぺたはやめなされ。探索者としての強さのことだよ。まぁ、意識すれば抑えることもできるから一概にそうとも言い切れないけども」
やっぱりその仕草、男には見えないよなぁ。
妙に手馴れているっていうかさ。
「な、なんだ。そっか」
続く言葉も、俺ならばまず出てこないであろうしっくり感。
ぶっちゃけて言ってしまえば、とにかく可愛い感じで。
言われてみれば何だかんだでユウキのこと、ほとんど知らないんだよな。
男同士の気の置けない会話だってしたことなかったし、なんて思っていると。
シラユキの言う通り、足元の空いているいかにもそれらしいギルドの扉が開け放たれて。
四人でパーティを組んで冒険していそうな女性たちがわいわいしながら入ってくるのが見える。
その瞬間、ざわつく周囲。
いくつかの声を拾ってみると、やはり彼女たちは『ユキアート』の勇者パーティで間違いないらしい。
「……あーっと、うん。なんて言えばいいのか。すっごく親近感みたいなものがあるんだけど」
思わず、といった風に。
小さいながらも呟くユウキの言い分も、分からなくはなかった。
騎士にダンジョン的シーフにヒーラー、そして勇者の組み合わせ。
そう、ユウキが『リングレイン』にて組んでいたパーティと同じだ。
きっとその組み合わせが、ダンジョン攻略に適しているのだろう。
唯一というか、大きく異なるのは。
お付き、取り巻きのメンバー三人が皆女性だと言うことだろうか。
オレもあちらの方が良かったなぁ、なんて。
呟くユウキの気持ちはいかほどか。
先程の話題ではないけれど。
ユウキはきっと、少なからず彼らのことをこっちの世界での友達であると思っていたことだろう。
それをある意味最悪の形で裏切られてしまった。
その原因は、俺にもあるのだろう。
魔王の圧には、勇者しか耐えることができない。
ユウキ自身、それで深く傷ついたはずなのに。
彼女らを羨ましがりはすれど今はあまり気にしていない風なのは。
フェアリたちのおかげなのだろう。
そんなユウキを見ていると。
勇者としての願い……故郷に帰りたい、あるいは本来の自分に戻りたいといったものが変わっていないか気になる所ではあるけれど。
未だ変わっていないのならば、その願いを叶えられる方法模索しなくては、なんて思っていると。
そんなユウキや俺と違って、特に潜める様子も気にする様子もなく。
チューさんが疑問を投げかけてきて……。
(第57話につづく)
次回は、6月28日更新予定です。




