第53話、魔王、自分に言い聞かせる意味で頼もしき仲間たちを呼んできてもらう
チューさん曰く。
その一般に公開されていない……面白そうなダンジョンに顔を突っ込むようなことがあれば。
向こうから顔を出してくれるだろうことは容易に想像できるので、再び相まみえることは必至なわけで。
こちらから探す面倒を負うくらいなら。
『ユキアート』の街のダンジョンをいかにして楽しむかを考える方が。
俺としてはよっぽど建設的だよなぁ、と思い至って。
「はてさて。そんな訳でして。この際だから我が軍、テイムしてひとかどの存在となった、頼もしい仲間たちを一堂に会したいのですがどうでしょう?」
「えぇっ? みんな呼ぶの? ま、まさかあのレベル上げっ……」
「いやいや、違うって。だから逃げんといてっ」
みんながみんな、チートめいたドーピングレベルアップを嫌っていて。
正々堂々と強くなりたいってのはよくよくわかっていた。
無理なレベル上げはしないって、ユウキにみんなに紹介したいだけだって必至に弁明すると。
何をみんなから聞かされてるのかは分からないけれど、脱兎のごとくの気配であったユウキは思いとどまってくれて。
「なにもわかっとらんようじゃが、あれをせぬのならばまぁ、良いのかの」
「あぁ、そっか。まだ会ったことのない人いるんだよな。せっかくなら、確かにちょっと会ってみたいかも。チューさんが言ってた、ジエンのキケンなレベルアップは気になるけど」
「だめだよユウキ。自分のからだは自分で守らなきゃ」
「あ、うん。……っていうか、フェアリさんまでそう言うってことは、ほんとに危険なんだね」
「ぼくとしては、うん。みんないっしょにはちょっと。主さま。もしレベルアップしたいのならひとりの時にしてほしいな」
「ひとりなら……って、それじゃぁ効率が悪くてなぁ。って、ああ。ダンジョンに誓ってレベル上げはしないよ」
なんだかそんなやりとりを聞いていると、『フルカード(拡張効果)』のバッグと『トネイト(進化誘導)』のカード&『ブレッシン(祝福増殖)』のコンボにより行われる強制レベリングについて、大分誤解があるというか、勘違いされているような気もしたけれど。
思い起こせば、その時のことを俺自身あまり覚えていないのは確かだったので。
触らぬ神に祟りなし、ではないけれど。
今の今までテイムした意思持つほどにレベルの高いみんなにそもそも俺自身が嫌われ避けられているわけではなかったのだと納得しておくことにして。
「わしというかダンジョンに誓うあたりがあるじどのらしいのぉ。じゃが、故に信じられる、か」
そんな風にぼやきつつ、何とも言えない表情をしているチューさんを。
頭の上に乗せつつ、そう言う事ならばと宿へと向かう。
ホームは多くのスペースがあったから、『モンスター(魔物魔精霊)』バッグの内なる世界を含めずとも一人ひと部屋以上に余裕はあったけれど。
ダンジョンとの共同生活(と書いて共生)しているということで、宿を取る旅人冒険者探索者は多いらしく。
中々空いているところは限られてはいたが、何とか部屋は、二部屋取ることができて。
「チューさんとフェアリ、シラユキとはもう仲良く……表に出てきてもらっているし、まずはちょくちょく顔出してたヴェノンかな。ええと、悪いけどフェアリ、呼んできてもらえるかな」
「? のんなら呼べば飛んでくると思うけど。まぁ、これも様式美なんだよね。ちょっと待っていて」
そんなわけで、現在いるのは俺ひとりに宛てがわれた部屋。
もう一部屋は、ユウキが使うことになっている。
一人用の部屋ではあるが、皆が各々好きな場所に陣取っていても余裕がある大きさはあった。
水もないのに中空を泳ぐように漂うシラユキに、丸テーブルの上ででろんとなってるチューさん。
そして、それでも手頃な場所がなかったのか、なんの躊躇いもなくユウキはベッドに腰掛けていて。
モンスターバッグを取り出し、それをフェアリに託した俺は、シラユキのようにフラフラと部屋の中を彷徨った結果、宿に備え付けてあったお茶を人数分用意した後、チューさんをもふれる位置にあぐらをかいて陣取ることにして。
「ヴェノン……『フライング・ムスター』(実際はおしゃべりできるくらいレベルアップ、進化してしまって。最終進化系……とまではいかずとも、もはや別種となってしまってはいるだろうが)と呼ばれる種族だけれど、『ランシオン(幻影変化)』をユウキに使った時に、出てきたのもあるから馴染みは深そうというか紹介する一番手としてはいいかなって」
「ヴェノンさん? 『フライング・ムスター』って確か、スライムと並ぶ可愛いモンスターで、まん丸なこうもりのモンスターだったよな? え? オレ変化の魔法で変身してたこと、あったっけ?」
「むぅ。確か主どののあの化ける魔法は、人によって見えるものが違ったはずじゃぞ。そうじゃな、フェアリの妹分、といえばわかるかの?」
「あ、うん。それならわかるよ。フェアリさんの妹さんだったんだね。確かに見た目じゃなく雰囲気は似てたかも」
「ああ、でもそれなら私にとっても妹分だよ~。のんは。実際は血も繋がってないし種族も違うけど。そんな中でも特にフェアリとのんは仲良いよねぇ」
フェアリがヴェノンを呼んでくるまで何だか手持ち無沙汰だからと。
話題を振ったら案の定俺を置いて賑やかなやりとり……いや、それもいいわけで、目を逸らしているだけなんだろう。
俺はいい加減認めなければならないのかもしれない。
今ここで和やかにお茶しながら、お喋りをしているのは。
そこにいてくれるのが申し訳なくなってくるくらいの美少女たちであると言うことを!
大型もふもふネズミと、ぬいぐるみ的アザラシ。
蓮っ葉なサムライガール……じゃなくて、本人曰く男の娘のはずなのに。
やっぱり俺には『ランシオン』が効いていないのか、『ランシオン』自体がおかしく作用してしまったのか。
しっかり会話の内容を吟味しようとすると、どうしたって前者……美少女達の姦しいやりとりにしか思えなくて。
いっそのこと、不躾で失礼ながらダイレクトに聞いてみるしかないのではなかろうかと。
俺的には大分思い切った決断をした、正にそのタイミングで。
既に最終進化系に届いていて、それを鑑みれば人の姿をとってもおかしくないはずなのに。
はじまりの……俺からはリカバースライムと洞窟こうもりに見えるフェアリとヴェノンが。
『モンスター』バッグから飛び出してきて……。
(第54話につづく)
次回は、6月14日更新予定です。




