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エンドロールには早すぎる~一万回挑める迷宮に棲まう主(まおう)は、マンネリ防止、味変したいと人様のダンジョンに突貫す~  作者: 大野はやと
メイン:エンドロール前

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第51話、ダンジョンマスター、言い知れぬ圧に必要以上に警戒する



ぶっちゃけてしまうと、図書館にやって来た時から司書さんの存在には気づいていたのだけど。

なんとはなしに、初対面でも距離の近そうな、俺の苦手なタイプに見えたこともあって、敢えて避けてはいたわけだけど。

呼ばれたからには仕方がないと、素直に振り返ることにする。




「あ、これって新刊なんですね。ええと、この図書館の……司書さんでよろしいですか?」

「はいっ。申し遅れました、すみません。わたくし、『ユキアート』図書館司書をしております、リィアラと申します」

「ぬぅ。お主、わしらの仲間が声かけに向かったはずじゃが」

「えぇ、ええ! あの現在進行形、将来有望な美少女探索者さんたちですね。もちろん、丁寧かつ迅速にお求めのものを提示案内させてもらいましたよ。その上でお連れ様方にもお探し物のお手伝いができればと思いましてね。こうして参った次第でございます」


まくしたて距離を詰め、お構いなしにグイグイくる、栗色髪のおさげとメガネといった、いかにも本が好きそうな、だけど物静かな感じとは程遠い雰囲気の少女。


よくよく見ると、澄んだその青い瞳には、言い知れぬ力というか、凄みのようなものがあって。

凡庸をまとっているようでできていない感じが、とっても嫌な予感がしたからこそ、避けていたというか、ユウキに対応をお願いしていたのに、うまくいかなかったようだ。



『ランシオン(幻影変化)』は効いているみたいだけど。

『異世界への寂蒔』の90階以降に出てきそうな。

時と場合によっては対処できずに攻略失敗してしまうかもしれないモンスター味をひしひしと感じつつ。

さりげなくチューさんの装備品などを確認しながら。

何でもない風を装って言葉を続けた。



「『ユキアート』の勇者と魔王について知りたかったんです。でもほら、司書さんに伺わなくても目立ってましたからね。ここに来れば分かるかなぁって思ったんですが」


実際に戦ってみなくては(ダンジョン内のターン制のバトルという意味で)分からない部分も多いが。

万が一そうなったとして、一体一でやり合えそうなのは、現時点で俺くらいかもしれない。

別にバトルジャンキーってわけでもないんだけど、何とはなしに格というか、ステージが違うような気がしてしまって。


まぁ、どちらにせよここは相手のホームであることは間違いない。

こうなってくると、二手に別れたのは悪手だったか。



『異世界への寂蒔』以外のダンジョン……

所謂、テイムして仲間になったモンスターたちを連れて入れるようなダンジョンには。

この世界へやって来る前(あくまでもゲームの話ね)ならば挑戦、潜ることもあったわけだけど。

『異世界への寂蒔』ほどではないとはいえ、他のダンジョンでもワンターンキルな罠や、能力を使ってくるモンスターたちは存在していた。


その現場に出くわしていたのならば。

目に見える範囲、同じフロアにいたのならば。

そのような理不尽でも何とか対処できる可能性はあるが。


まさに目を離した隙にってやつだな。

特に繰り返し擦り切れた低階層だったりすると、ついつい楽したくなってしまって。

がっちり周りを固め布陣敷いて一歩一歩素振りするような慎重さが無くなってしまうのだ。

自由に階層内を各々進んでもらう(偵察やマッピングの意味合いも含んでいるが)のはとにかく楽だからと。

そんな怠慢のせいでテイムした仲間たちを失うようなことも少なくなくて。



そんな事を考えていたからなのか。

今のところ相手にはそのような気配など一切ないはずなのに。

別れたメンツ……仲間たちを人質に取られてしまっている気分になりつつ、改めて司書さんと相対する。




「へぇ、これって新刊なんですね。魔王の方がある時やってきたかわいい勇者のことを好きになってしまうと。ありがちだけど、そこがいいな」

「お、イケメンさん、話が分かるじゃないですかっ。そうなんですよぉ。久方ぶりに奇をてらわずコテコテの王道にしたのですっ。勇者の方も、一目見た時から魔王に惹かれてゆくんですけど、二人の間には宿命だけでなく問題がありましてね。……あ、これは来月発売の2巻の内容でした。私ったら申すわけないですっ」

「ぬぅっ。ぐいぐいくるのぉ。そこまで前のめりになるということは、お主この本の作者かの?」

「あ、すいません。わかっちゃいましたか。あまり自分を主張するべきではないのはわかっているのですけど、出たばかりの新刊をお手に取られたので、舞い上がってしまいまして」

「ふむ。まあ気持ちは分からんでもないが、距離を取れい距離を。……その言い方じゃともしや、この本に出てきよる勇者と魔王は、『ユキアート』に在る今代の者たちなのかの?」

「ええ、ええ! そうですともっ。私、彼女たちの大ファンでしてね。この恋を、とにかく応援したくて! 執筆魂が疼いてしまったのですぅ!」

「ちょっ、近い近いっって!」

「……あっ、すみませんすみません!」


うおっ、メガネの奥の青い瞳がとっても美人さん!

……じゃなくて! チューさんがサンドイッチになってぺしゃんこになっちゃうでしょうが!

プライベートスペースどうなってんのよ、もう!

強そうだとか、格だとか関係なく、俺この人やっぱり苦手だわ。


慌てて咄嗟にバックステップを決めて、彼女の連続ヘッドバッドをなんとかかわし、いつの間にやら挟まれるように前面に出てきていたチューさんを掴み、定位置その2(頭の上)に何とか落ち着かせて。



「ファン……とな? なるほど、言い得て妙ではあるが、いやしかし。それならばわしの方が上じゃな! わしの方がよほどに深いぞ」

「くっ。確かにこの状況を鑑みるに説得力はありますが、なればこそ前言撤回させてもらいます! ファンを超えてもはや家族のようなものですからぁっ」

「ほほう。その割には見える範囲、傍にはおらぬようじゃが?」

「うぐぅ。そ、そんな、そっと見守ることだって愛ですよぅ」

「なんじゃ。触れ合うこともせず、こっそり観察せねばならぬ理由でもあるのかの? お主、もしや……」

「うっ、うわーん! ここは一旦引かせてもらいます! そして敢えて言わせてもらいましょう、覚えていらっしゃいませぇ、と!」



かと思ったら、すぐさま俺にはよく分からない二人の熱い攻防戦が繰り広げられる。

その様は、何だかとっても仲が良さそうにも見えた。


できるなら、敵対したくはなかったから。

そのまま見守っていると、どうやら勝負はチューさんに軍配が上がったようで……。



   (第52話につづく)








次回は、6月4日更新予定です。

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