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第5話、ダンジョンマスターとふところマスコット、侵入者に気づいて帰還する



行き止まりを堪能したら、とっとと戻って本筋を見つけ出そうと。

取り敢えず引き返したまでは良かったのだが。

 


 「……むっ?」


懐でびくりと震え、声を上げるチューさんに反応して、思わず立ち止まる俺。


基本、『WIND OF TRIAL』では何かのイベントが起こらない限り懐マスコットが喋る事はなかった。

でも、それじゃあ寂しいから暇さえあれば会話していたんだけど、突然のチューさんの反応にこれは『イベント』だとピンときたわけだ。

すぐに両手のひらサイズ一杯のチューさんを懐から取り出して、次のお言葉を待つ。



「……どうやら、わしらの住処ダンジョンに何者かが侵入したようじゃ」

「え? いや、なんで? 見つからないように隠してたんじゃ」



しかし返ってきたのは、鬼の居ぬ間になんとやら、予想外なそんな一言だった。

そもそも、うちのダンジョンは俺専用なので他の人を楽しませるようにできているとは言えない。

ただ、ダンジョンコアであるチューさんにしてみれば、そうもいかないんだろう。


それを分かった上での問いかけ。

多分きっと、チューさんがどんな言い訳を口にするのか、知りたかっただけなのだ。

我ながら大概なヤツだ、とは思ったけど。

そんな俺の内心の葛藤に気づいているのかいないのか、少しだけ悩む仕草……口元をもぐもぐさせて。



「おそらく、アタックパーティーの中に勇者がおるのじゃろう。この世界では、ダンジョンの王を倒すために勇者がどこからともなく現れると、決まっておるからの」


当たり前の決まりごとであるかのように、そんな事を言う。

ようは、たとえ入口を塞いでいようと、俺という魔王のための勇者が必ず一人はいて。

隠れようが何しようがいお互いが巡り会うさだめにあるようだ。


ダンジョンに潜る人は、誰もが勇者……的な意味合いだと思っていたけど、どうやら違うらしい。

嘘か真かはともかくとして、その言い分に納得、気に入ってしまった俺は、なんだか楽しくなってきて。




「つまり、俺の勇者がいるってことだよな! どんなやつなんだ?」

「う、うむ。四人組だと言う事はわかるが、詳しくは戻らんと何とも言えぬな」

「よし! んじゃ急いで戻ろう」

「てゅっ!? ちょ、おぅっ」


勇者って言うくらいなんだから、きっとそれらしいやつなんだろうが。

話のわかる同志(ダンジョン好きな意味で)ならいいな、なんて思いつつ。

変な声を上げるチューさんを懐にしまい直し、俺は元来た道を走り出したのだった。

新たな出会いの予感に、わくわくしながら……。




              ※      ※      ※




行きは、目的があるようでなかったこともあって、それなりに時間がかかっていたけれど。

意識して急いで引き返したせいか、帰りは一日足らずで我らが城という名のダンジョンへと戻る事ができた。


「大丈夫? チューさん」

「うぐぐぅ。平気なわけあるかぃっ。ちったぁ加減せい」


昼間に食べたものをぶちまけるところだったわ、なんて懐下から目線で脅してくるチューさんに、飛ばしすぎた事を自省する。

結果的に自分のレベリングばかりしていた弊害で、身体能力が上がっている事を失念していたのだ。

最近太り気味なチューさんにしてみれば、懐に陣取るにはちょっと狭すぎるのもあっただろう。


ダイエットすれば、とは言わない。

ダンジョンコアにそんな概念があったのは新しい発見だけど、一度口にしたら大分怒られ拗ねられたからだ。

なんだか、年頃の女の子みたいな反応。

確かにその古風な喋り声はよく通る少女の声だから違和感はなかったんだけど。

テンジクネズミはふっくらしてる方が可愛いと言った本音が功を奏したのか、その時はすぐに機嫌を直してくれたっけ。



「うーん。こういう急ぐ時は場所変える? 頭の上とか」


いざとなれば、『モンスターバッグ』の中にいてもらうという手もあるが。

それだと話もできないしふところマスコットじゃなくなってしまうので自分の中で却下する。

まぁ、緊急時になればそれも吝かではないのだけど。



「……ふむ。いいかもしれんのぅ」


あるいは、専用のカバンでも作って肩から下げて顔だけ出してもらう、なんてのもありかもしれない。

俺達は、そんなやりとりをしつつ、我らがダンジョンの入口に舞い戻ってきたわけだが。

侵入された、というチューさんの言葉通り、塞いでいたはずの入口が破られていた。



「出る時は周りの森と一体化してて大丈夫だろ、なんて思ったたけど甘かったか」

「勇者と魔王は惹かれあう、というのもあるじゃろうが……あるじどのは外にいたしな。物質透過や探索のスキルを持ったものがメンバーの中にいたのかもしれぬな」

「おいおい、それってもしかしてホームも見つかっちゃうって事?」


俺自身だって壁抜けしたり壁の向こうにあるアイテムを見つけたりするアイテムやスキルを持っているんだから気づけよそこんとこって感じだが、チューさんは唸りながら身体を震わせている。



「いや、ホームに気づいた様子はなさそうだの。まぁ普通は、魔王の玉座が一階から通じてるとは夢にも思わんじゃろうし。……しかし、なんとも面妖な。仲間同士で、追いかけっこしておる」


一応、玉座の間という名のホームには俺たちとその仲間しか通れない、とのことだが。

そのまま、俺にも状況が分かるようにと、問題の場所のマップを出してくれた。


俺の想像によりチューさんが作った我らがダンジョンは、踏破した部分から地図が完成されていく『WIND OF TRIAL』スタイルとなっている。

とはいえ、同じ一階でも降りるたびに変わるのでマッピングはあまり意味がないのだが。

そこはダンジョンコアのチューさん。

我が家に戻った事で力を取り戻したのか、問題のフロアの全てのマップを表示させてくれた。



そこは14階。

後一つ階を攻略すれば手に入れたアイテムや経験を得たまま帰還できるスキルカード、『セシード(脱出帰還)・カード』を手に入れる事ができる。

アイテムなし、レベル1で攻略してる割には、中々の腕前だ。

これだけで、どんな人達なのかワクテカだったんだけど。

確かにチューさんの言う通り、なんだか様子がおかしかった。


ダンジョンで放し飼いと言うか、チューさんにスカウトされて好き勝手生きてるモンスターは赤、ダンジョンに潜る人は黄色、アイテムは青、テイムした仲間モンスターは緑、といった風に塗りたくられた丸で表示される。

テイマーがいないのか、特に緑色の丸は見受けられない。

アイテムやモンスターは適宜現れるのにアイテムには見向きもしないし、モンスターに対しても相手にする事より逃げる一人を追う事に夢中になっているように見える。



「なんだろ、仲間割れかな? アイテムも拾わないで、もったいない」

「まぁ、あれだけの速度で移動しているとなると、宝箱を開けるいとまもないじゃろうが……そもそも、今の設定じゃとあるじ以外には使えぬしのう。それよりいかにする? もっと詳しく状況を知りたくば、ホームに向かう必要があるが」

「あー、やっぱりそうなるよね」


チューさんのその言葉に、俺は一にも二にも頷くと、念のため入り口をもう一度塞いでもらい、そのままホームへと直行する。

先ほど、一階と繋がっていると言ったが、それは感覚というかシステム上の問題で、実は俺もよく分かってはいなかった。


取り敢えず一階にやってくると、ダンジョンに挑戦するか、ホームに向かうかの選択肢が出てくる。

恐らく、魔王ダンジョンマスターだけが使える転移系のスキルか何かなんだろう。

そりゃ、ほかの挑戦者がホームに行けるわけないよな。


兎にも角にも、ここは『ホームへ向かう』を選択し、ホームへと直行するのだった……。



   (第6話につづく)








第6話はまた明日更新いたします。

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