第48話、魔王、その願いは勇者とともに在り、ダンジョンを楽しむこと
そんな、ある意味でいつものように肩身の狭いやりとりをしつつも。
俺たちは、『ユキアート』と呼ばれる街に付随したまだ見ぬダンジョンのある地へと辿りついた。
「へぇ、ここが『ユキアート』の街かぁ。氷像とか時計台とかもろこし売ってるイメージだったけど」
「あんまり寒そうな感じしないねぇ。むしろあっついくらいだよ。せっかくマスターにもこもこもらったけど、脱いじゃうね」
「ちょっ、シラユキちゃん! これが生足魅惑のっ!? ジエンがガン見してるって!」
「ほんとぅ? もっとわたしをみてみてぇ~」
「しっかり見てるのはユウキの方だろうに。……いや、まぁ。毛皮に毛皮は暑かったよな」
「見てないし! いや、見てはいるけどさぁっ。何さジエン。もっとこう、気の利いたこと言えないの?」
「そうだよご主人。もっと褒めてくれてもいいんだよ。何ならぼくも脱ごうか?」
「うぬ。確かに氷と雪の国と聞いていたが。こりゃぁふところにおるにはちと暑すぎるかもしれんな」
寒村とまではいかずとも、雪の女王的な魔王の支配する閉ざされた世界をイメージしていたが。
『ユキアート』の街は、むしろ『リングレイン』の街よりも活気があるように見えた。
みなが暑いと思っているのは、そんな街の雰囲気によるものなのだろう。
『リングレイン』のダンジョンは、ごくごく最近までダンジョンマスター自身がダンジョンを独り占めしていて。
勇者、探索者を受け入れ開放するようになったのも最近であったからなのか。
街とダンジョンが密接に関係していなかったというか、街の人にとってみればダンジョンは特定の人たちだけのもので。
別世界のことであるかのような感覚だったのかもしれない。
だが、この『ユキアート』のダンジョンは、どうやら共存、あるいは共生めいた関係が見え隠れしていた。
それは、ある意味一般的なダンジョンとその近くで暮らす人々との理想と言えるのかもしれない。
ダンジョンが、モンスターやアイテム、人のためになる資源を生み出し、それを求めやってきた探索者をダンジョンが取り込むことで、その魔力などをダンジョン維持のための糧とする。
そんな、理想的な状況が、ほぼほぼ完璧に行われているからなのか。
街に入ってすぐ見えてきた大通りには、ダンジョンに潜るための様々な店が並び、賑わっていた。
その真っ只中に、かしましいやりとりをしているもふぷよつやな一行。
街の人には一体どう見えているのだろう。
どうやら、武器防具アイテム屋に混じって、テイム済みのモンスターをレンタルできるところもあるようなので、どう見てもモンスターなみんなが通りを歩いていても、敵襲だなんだとはならないようだったけど。
少しばかり注目されているのも確かで。
「ふぅむ。どうやらここの魔王さんは、実にうまくやっているみたいだな」
「って、フェアリさん!? 脱がないのっ! シラユキさんと違って下着てないんだからっ。ちょ、ちょっとジエン! 見ないふりしてないで、フェアリさん止めてくれぇ!」
マジマジ見ないでくれと言ったのはそっちでしょうと。
一体何を脱ぐねん、脱皮か? 脱皮なの!?
などといったツッコミは、つつかなくてもいい藪つつきそうななのでせず。
フェアリとシラユキが暑くなってきて脱ぎ散らかしたもこもこ防寒具を回収して。
そのかわりに二人に……ついでにチューさんにも新しい防具を進呈する。
再度取り出したるは、レベル高めな毛並みの良い、『フライングムスター』の抜け毛を使って作られた、『ムスタオール』+15~18である。
熟達した、魔精霊で言うのならば、『神型』の域にまで足を踏み入れた彼彼女らは。
水陸両用どころか、火山口や宇宙空間ですら、ふらふらと飛び回れると言われている。
ヴェノンも、そちらを意識して進化の道行きを辿れば、いずれは到達していただろうが。
とにもかくにも、冬毛から夏毛になる時に大量に抜け毛が出るので、少しばかり拝借して。
あらゆる環境に対抗できるようにつくられたスグレモノである。
「ぬ、なんじゃぁ。わしは先ほどまでのもこもこでも良かったんじゃが」
「わぷ。ふふ、冗談だよ。僕だってこのからだをご主人さま以外に見せたいわけじゃないからね」
「わっ、すごいっ。これなら飛んでも跳ねても落っこちないね」
ただ、いかんせん見た目がプールに一時上がった際に巻くバスタオルを彷彿とさせるのが玉に瑕ではあって。
もこもこに過ぎるアザラシと、でっかいまんまるクラゲと、太り気味のテンジクネズミが、頭からそれぞれが違う柄の、止めゴムのあるバスタオルをかぶっている様は、ほっこりするばかりで。
高位のモンスターであることや、まさかダンジョンコアが出歩いているとは思わないだろう。
「あ、そうだ。せっかくだしユウキも着るかい?」
「えっ、オレっ!? あ、ああ。このもこもこでもいいけど、その、もっと格好良いやつないの?」
三人が頭からかぶって、ご満悦な感じでふわもこしているのを目の当たりにして。
ちょっとかわいいにすぎる、とは流石に口にはできないらしい。
「ほほう。ならばこんなのはどうだい? 『聖騎士オーシャのマント』+12とか、『守り門番テッカの制服』+8とか」
聖騎士オーシャのマントは、光の勇者にして、癒しの象徴……『猫』の姿を取っても大丈夫なスグレモノである。
基本の守備力が高いのはもちろん、何かと変わることの多いかも知れないユウキにはうってつけだろう。
一方、守り門番テッカの制服は、ユウキ言うように格好良いのはもちろん、守りに特化した門番さん御用達の、比較的ごてごてしていない装備だ。
どちらを選んでも、男のカッコよさを全面に出してる装備であるからして、きっと満足してもらえるはずで。
「えっ、で、でもこの剣もあるし、このもこもこだってあるし、さすがに悪いよ」
「いいんだよ。だってこれってみんな実はさいごの万能薬状態なんだから」
「いや、意味がよくわからん。ってかオレ、もらってばかりで何も返せてないしなぁ」
「そんなことはないさ。おそらくきっと、間違いなくユウキが勇者としてここにいなければ、一応魔王であるらしい俺は、ここに、夢のようなダンジョンに挑戦し続けられることもなかっただろうからな」
今、ユウキたちが装備しているものは、すべてこちらへとやってきて『異世界への寂蒔』へもぐって手に入れたものだ。
チューさんがくれたもの、という言い方もできるが。
とにもかくにもユウキが叶えたいことを叶えるためにここへ来ていなければ、俺もここにいられなかっただろうことは確かで。
「そっかぁ、ジエンにしてみればここにいることで願いが叶っているのかぁ。……でもなぁ、やっぱりもらってばかりなのもあれだし、何かオレにできることがあれば言ってくれよ」
「あぁ、それならユウキが帰るその時まで、この世界のダンジョン攻略、付き合ってくれよ」
「……ジエンって本当にダンジョン好きだよなぁ。わかった。これでもジエンに対する勇者なんだし、とことん付き合うよ」
きっとこの夢は、ユウキが願いを叶えるまでの限定的なもの。
そんな時なんて来なければいいのに、なんて思いながらも口にはせず。
今この瞬間を楽しむためにと。
『ユキアート』のダンジョンがよく分かるであろう場所へと早速向かうことにして……。
(第49話につづく)
次回は、5月20日更新予定です。




