第46話、ダンジョンマスター、テイムにのめり込んだ過去を回想する
「……ふむ? ダンジョンのフィールドにモンスターのたぐいはおらなんだとばかり思っていたが」
「事実、今の今まで会ったことなかったしなぁ。俺らの所じゃない、他の人のダンジョンのテリトリーに入ったってとこかな」
「空から来るよっ!」
低く、雲の張った空のその向こうに、複数の影を散見。
翼竜……所謂ワイバーンに類するモンスターだろうか。
それが群れをなして、5体ほどこちらに気づき、向かってくる気配。
おぉ、結構でかいな。
一体一体が、小型車くらい……羽を広げればライトプレーンくらいの大きさはありそうだった。
そのうちの一体は、追随する他のものとは違い、岩のような肌色ではなく、薄紫色がかっているのが分かる。
その一体こそが、この群れのリーダーだろうか。
うん、ちょうどいい。
いつかあるかもしれない、空の旅の足をお願いしよう。
フェアリもヴェノンも空を飛べはするけど、いかんせん人乗せるには小さすぎるというか、見た目がよろしくないからなぁ。
雪国や、海のダンジョンがあるのならば、空を舞台とするダンジョンがあったっておかしくないだろうと。
俺はそんなことを考えつつ。
テイム用の、テイムの時にしか装備することのない武器を『プレサーヴ(収納保存)』のバッグから取り出す。
その名も、ガルゲ・ボウ+22。
話せばそれなりに長くなるのだけど。
実のところ俺は、この世界へやってきて、チューさんに俺の理想とするダンジョン、『異世界への寂蒔』を創ってもらい、いざ攻略を始めよう、といったばかりの頃は。
それほどモンスターをテイムすることに積極的ではなかったというか。
俺にとって『異世界への寂蒔』は、己のみで踏破するといった信念のようなものがあったというか。
ひとたび攻略が失敗しようものならば、あらゆるものが失われ、無かったことにされてしまうため、その失敗によりテイムしたモンスターを失うことが多くあり、それを恐れていたわけなんだけど。
それは、攻略挑戦回数が100回を超えた頃だろうか。
15階に『セシード(内場脱出)』のカードや本……
所謂ダンジョン脱出、帰還するためのアイテムが、必ず一つはあることに気がついた頃で。
運良くその途中で『ディネン(掘削貫通)』カードを手に入れることができた俺。
それを使い、壁の中に埋まっていたアイテム、宝箱のうちの一つが、ガルゲ・ボウで。
識別したところによると、矢尻のところが丸くなっていて。
ダメージはそれほどでもないかわりに、それで倒すぎりぎりまでもっていけると、低確率で特定の……テイムされても良いと思っている魔物たちを仲間にすることができて。
手に入れたばかりの頃は、その特定が何を指すのか分からなかったが。
素手や他の武器では、基本テイムはできなかったし、そもそもがテイムできるって知らなかったこともあって。
こりゃぁ面白いと、ちょうど15階にいたことから、すぐさま帰還して持ち帰ったわけだけど。
そんなガルゲ・ボウの真価は、それだけに留まらなかった。
いつもと比べてもあっさり帰還してきた俺を見て、あるいはその戦利品を目にして。
チューさんがぽろっと口にしたのだ。
装備もアイテムも、はたまたテイムモンスターやレベルまで、『異世界への寂蒔』へは持ち越せないが。
それじゃああまりにもハードなので、あまり強くないものなら最低限の初期装備扱いで、持っていくことができる、と。
『異世界への寂蒔』挑戦する時。
所謂『ぬののふく』だけはしっかり持っていけるんだなぁとは思っていたけど。
+補正がなければ基礎攻撃力が1なガルゲ・ボウは、木の棒などと同じ扱いで。
装備した状態で持っていけるらしい。
しかも、何よりそれが一番びっくりしたんだけど。
一度初期装備として登録しておけば、『ぬののふく』と同じように、ガルゲ・ボウを装備、持っていた状態で探索失敗しても、また入り直せば装備した状態で入ることができて。
それからは、うん。
ますますハマったよね。
ダンジョンへ潜っての仲間集めに。
99階まで降るといった目的をすっかりおいて。
様々なモンスターをテイムしては帰還を繰り返したのだ。
おかげで現在、テイムしてホームへと一緒に帰ってこれたモンスターたちは53体または人。
管理というか、お世話はモンスターバッグを介してチューさんがやってくれていて。
……後になって気づいたことではあるのだけど。
テイムできるモンスターの特定の条件とは。
共に探索し、レベルアップすることによって名を持ち意思を持ち。
人と対しているのと変わらない感じで、対話会話ができるようになる、ということで。
今はまだ、チューさんも含めて7人ほどしか名つきの子はいないけれど。
また機会があったら、まだ見ぬダンジョンで仲間を増やすことができたら、
是非にでも名付けの名誉を賜って、レベル上げをしたいと思う。
でもまぁ、その経過を考えると。
みんな揃っての、俺のアイテムスキルによるドーピングレベリングが嫌がれるのも分かる気がするな。
なんの経験もなしにいきなり意思もって喋られるようになっても、戸惑うだけだろうと。
俺は、そんな事を考えつつ。
これからは気をつけようと。
改めて『ガルゲ・ボウ』の、無限に出てくる丸っこい矢尻のついた矢を番えてみせて……。
(第47話につづく)
次回は、5月11日更新予定です。




