第45話、ダンジョンマスター、他所様のダンジョンモンスターのスカウトを考えてみる
「……主どの、主どの。もう少しで『ユキアート』につくぞい。寒くなってきたから、そんな所で寝ておると風邪をひくぞ」
ひたひた、たっしたっしと。
頭頂を柔らかく叩かれる音がする。
「……はっ」
文字通りハッとなって目を覚ますと。
俺はチューさんを頭に乗せたまま、『リングレイン』の街で調達していた馬車の御者をやっていて。
一体全体、色々なことをすっ飛ばして、どうしてこうなってるのかと思わずにはいられなかったが。
どうやら馬役をかって出てくれている、8人目の名付き(始まりの一人目は名付きだけどまだ人型になれるほどには進化していないので後述する)、青毛の美しい『シエル・バイコーン』のエルヴァと、チューさんの優秀さによって、長い夢に落ちていってしまっていても問題無かったらしい。
場面がひどく飛んでいってしまっている気がしなくもないが、馬車の用意も。エルヴァに牽引をお願いしたのも確かに覚えていて。
「む。確かにちょっと寒くなってきたな」
「ぅややっ」
俺はいつもの場所……立派になりすぎて顔どころか両手まではみ出す勢いのチューさんをふところに戻すと。
『プレサーヴ(収納保存)』のバッグから、『サンダーバードのマント』をいくつか取り出し、その内の一つを自身で纏う。
「……空がなんだか低い気がする。少し移動しただけでこうも変わるとは。今にも雪でも降ってきそうだな」
「雪か。シラユキどのの名づけもとかの。わしはこの世界で直接目にしたことはないが」
「ん? わたしのことよんだー?」
高台、丘めいた場所へと駆け上がり差し掛かって。
『ユキアート』の街並らしきものが見えてきた頃。
チューさんとそんなやりとりをしていると、俺が目を覚ましたからなのか、幌の中からシラユキがひょっこり顔を出して。
そのまま空いていた隣へと座り、ぬいぐるみのような身体を落ち着かせる。
「相変わらずシラユキってばぬくい!……って、そうだ。これあったかマント。シラユキに負けないくらいぬくぬくなやつ。みんなにも渡しておいてくれ。強制レベリングのアイテムに頼らなくともこれなら許されるだろう?」
生成り色のふかふか羽毛によって作られたマントで、守備力が+5される他、『凍結』、『麻痺』耐性がつくが、事細かに説明しなければみんなも遠慮はしないだろう。
ただのぬくぬくの防寒服だと思ってもらえればいい。
俺は、当然のごとく手を伸ばしてエルヴァにもかけてやりつつ、早速着込んだのはいいものの。
マントを着込んでも、ほとんど見た目の変わらない真っ白アザラシの子供ほどのサイズまでになって、隣に陣取るシラユキを見やる。
「武器を扱うとしたら。うーん、そうだな。牙装備系のものはないけど、爪装備ならいくつかあるぞ。たとえばほら、『サンダーバード』の爪とか」
ぬいぐるみのようなその手でもジャストフィットする(マジックアイテムであるからしてサイズ調整はお手の物なのだ)ものであるからと。
そのままの勢いで贈呈しつつ、ドーピングアイテムが使えない変わりに、珠玉の装備品でかっちかちに固めるのはありだよね作戦を決行する。
そんな思惑に気づいているのかいないのか、何だかジト目な雰囲気でそれを受け取るシラユキさん。
「補正は+13、付随効果は麻痺の付与(一定の確率で)と、電気ショックが出るよ」
「ダンジョンモンスターのわたしが言うのもなんだけど、マスターってほんとにダンジョンのこと好きだよねぇ」
「まぁ、そうだな。ダンジョンこそ我がすべて。生きがいであることに疑う余地はないが」
「もう、主さま。照れるではないかぁ」
「もそもそするとぅっ、くすぐったい!」
チューさんからしてみれば、ダンジョン=ダンジョンコア=チューさん的な感覚なのだろう。
真夏であったら思わずほうっているところだぞ、とばかりに注意しつつ、俺はチューさんを抱え直す。
「『ユキアート』かぁ。一体どんなダンジョンがあるんだろうね。わたしと名前同じのとこがあるし、わたしと同じようなモンスターとかもいるのかな」
「同種とな。同じダンジョンにならばおるじゃろうが……」
「うーん。メロウって海のモンスターだろう? 白いもこもこなのはいるかもしれないけど……しかし、うん。よく考えたら、我がダンジョン産じゃないモンスターにも会えるってことじゃないか。我が軍に引き入れる、テイムするかどうかはともかくとして、確かに会ってみたいかもな」
これからきっと、色々な出会いがあって、我が軍が活気増すようなこともあるかもしれないし、
仲間たちが自分の居場所を見つけるようなこともあるかもしれない。
「今度、海のダンジョンにも行こうか。この世界のどこかに、家族や仲間がいるかもしれないし」
確か、うちの子たちはチューさんが召喚兼、スカウトしているんだっけか。
この世界のどこかから、呼び出されたのならば、きっと家族などもいるはずで。
「コアは、一体一体別個体なのじゃ。同種ではあるじゃろうが、仲間以上の感覚は持ち合わせてはおらんよ」
「そうさ、家族って言ったらここにいるみんなだけだよ。今更クビなんて、なしだからね、マスター」
かと思ったら、まずは自由にして欲しい、なんて心情を汲んでくれたらしく。
より一層くっつく勢いのチューさんとシラユキ。
またしても深刻なダメージでわぁーってなって、色々なものが緩みそうになってしまって。
「ヒヒィン!」
警戒を、とばかりにエルヴァが嘶いたのは、正にその瞬間であった……。
(第46話につづく)
次回は、5月6日更新予定です。




