第43話、魔王が、真に仲間を求めんと希う日はいつの時か
そんなこんなで、その氷雪系のダンジョン、『ユキアート』に向かう道中は。
案内役兼ふところマスコットなチューさんと、元勇者で相棒のユウキと、何故か交代交代で一人づつ、外に出て付いてくることになっていて。
まっこと人の、モンスターの心とはむつかしいものよ。
などと思いつつ、それでは早速とばかりにまだ見ぬダンジョンへ向かわんと歩み進める俺たち。
チューさんが言うには、我がダンジョンを擁する『リングレイン』の国は、この世界で一番大きな大陸の、西も西、端に位置しているらしい。
言われてみれば確かにダンジョンを出てすぐに海が見えたっけ。
あまり意識はしていなかったけど、年中通して温暖で、気候条件が良い土地、とのこと。
ユウキが勇者として登録、所属していた『リングレイン』の街は、避暑地、観光地的な扱いであったようだ。
魔王のいない野良ダンジョンだと、そこまで手応えのあるものはないらしく、比較的争いごとの少ない地域とのことで。
これから目指す『ユキアート』なる街は、気候の厳しさがそうさせるのか、そこにあるダンジョンも中々に甘くはないらしい。
転移者な俺たちからしてみれば、まんますぎる名前だが。
ダンジョンマニア視点で見れば、探索の厳しくなってくる下層にありがち、出現しがちな氷系モンスターの宝庫らしく。
俺は一人、まだ見ぬ出会いにわくてかしていたわけだけど。
今のところ、モンスターが襲いかかってきたり、盗賊や山賊の類が馬車を襲ってきたり、大自然によってつくられたお菓子が降ってきたりとか。
これといって特筆すべきイベントが起こることもなかったので。
今更ながら頼もしい旅の仲間たちを改めて紹介しようと思う。
(もう何度か試みている気がしなくもないが、きっと気のせいだろう、うん)
チューさんや、フェアリなどは出番が多かったからここは割愛するとして。
まずは、俺が『ランシオン(幻影変化)』のカードで変化した時、周りのみんなに見えていて、最近よく顔を出すようになってくれていた、フェアリの妹分的存在……『のん』ことヴェノンからいくとしよう。
『ケブル・バット』と呼ばれる、かつては『コージィ・スライム』であったフェアリと双璧をなすマスコット……『異世界への寂蒔』のシンボル的存在であったが、現在では中級の『リカバー・スライム』を介しレベルアップ……進化していって、癒し系スライム上位種の『カムラ・スライム』となったフェアリとともに、『ナクデス・ヴェイト』→『エクゼリオ・ヴァンプ』と呼ばれる高位のモンスターへ進化を果たしている。
変身、分裂、吸血に眷属化など、上位のヴァンパイアに引けを取らない能力を持っているはずなのだが、その言動は幼く子供らしく。
その見た目も、ケブル・バットの頃とほとんど変わらず、マスコットめいていて、まりのようにずんぐるむっくりしているが、飛行系モンスターの基本である中空からの攻撃に特化していた。
水辺や高所での立ち回りが得意で。
その幼さ故にいつもふらふらしていて、動きが読めないこともあるけれど。
その攻撃力は、フェアリにも引けを取らぬほどで。
その性質上、後衛でいることの多いフェアリとは違い、常に先頭に立って前衛をこなす、超攻撃型で。
そんな彼女は。
お姉ちゃんばっかりずるいと、今度はのんの番だよと張り切りに張り切っていたんだけど。
今回向かう場所が、氷と雪の世界ということで。
さむいのやーと、引っ込んでしまっていて。
何度も言うけれどけっして俺が嫌われ、避けられているわけではないのだ、けっして。
……なんて、現実逃避は置いておいて、どんどん行こうか。
二人目……三人目だな。
どうやらツンツンなところがあって。
『モンスター(魔物魔精霊)』バックの内なる世界へお邪魔しても、滅多にお目にかかることがないのは。
『シリンクオガレ』と呼ばれるモンスターから、『ウィザーケイト』呼ばれる上位モンスターに進化したスーイである。
帯電体質な猫種のモンスターが、レベル上げを経て、避雷針めいた針の如き体毛を無数まとわせた姿は。
まん丸ふかふかで触り放題なチューさんとは真逆で、近づきがたい畏怖を覚えるほどだ。
そんな、ダンジョン攻略における役割は、その体毛から解き放たれる雷魔法による、ワンフロアに及ぶ全体攻撃……ではなく。
いわゆる目くらまし、敵性の視界を封じることである。
それを受けたものは、前進……または攻撃行動しかできなくなる。
いわゆるモンスターの巣などで大活躍してくれることだろう。
加えて、その体毛による守りは、あらゆる攻撃を最小ダメージで抑えることができるため、スーイも前衛、あるいは盾役として十二分に役目をこなしてくれるはずだ。
その代わりに、生命力……所謂HPが少ないのが弱みではあったが。
それはもはやジエン的ドーピングにより解決済みで。
俺のお節介を、ある意味で一番受けているのがスーイだといえよう。
故に、頑なに避けられているのだとは、やっぱり考えないようにして。
お次の紹介へと行こうとしようか。
四人目は、『インファントメデュー』から、同系統のやはり上級モンスターである『ジェイ・ギャザー』のピプルは。
能力で言えばメデューサやゴーゴンに近い力をを扱うモンスターで、見た目は正しく大蛇。
その体毛は視線を引き寄せるためなのか、鮮やかな白銀色をしている。
スーイともに、対多数の時に活躍してくれるであろう。
最近になって、俺も愛用している『デ・イフラ(幻惑混乱)』のカードとほとんど同じ効果を発揮することのできる能力を扱えることから、期待値はとっても高いのだが。
嫌う嫌われない以前にピプルは、スーイ以上の恥ずかしがり屋で。
モンスターバック内の世界でも、ほとんど出会ったことが、見つけられたことがないのが、俺的に凹む所ではあったりする。
そして、5人目。
『ネレイトジーフォ』から、これまた上位の『ヴルック・ドーター』にまで進化を終えているディーは。
その見た目は、ゴースト系統のモンスターらしく、鋼鉄の全身鎧が動き出すのを地で行っている。
その割には、魔力的なものに乏しいが、それを置いても我が軍で一番の攻撃力を誇っている。
ダンジョン的言い回しをすれば、1ターンに3回攻撃ができると言えば分かってもらえるだろうか。
『異世界への寂蒔』には基本出てこなかったが、HPの高いボス、それこそ大物と対するのに頼もしく、
これからのまだ見ぬダンジョン探索で活躍してくれることだろう。
ただ、此度は私の出番ではない、と言うことで。
(鋼鉄の鎧一貫では、寒冷地は堪えるらしい)
まぁそれでも、俺が本当に必要としてくれるのならば。
いつでも駆けつける次第であります、なんて言葉が印象的で……。
(第44話につづく)
次回は、4月27日更新予定です。




