第41話、魔王、いずれ来るかもしれない勇者との別れをダンジョン欲で誤魔化して
どうやら、ダンジョンコア同士での横のつながりがあるようで。
どこにどんなダンジョンがあるのか、ある程度は把握しているというチューさん。
早速とばかりにおすすめのダンジョンを伺うと、すぐに答えが返ってくる。
「わしと同じダンジョンコア……つまり、魔王の名を冠するダンジョン。一番近いのは、【氷】の魔力に覆われし、氷雪のダンジョンじゃな」
「えぇー。のん、さむいのやだなぁ」
「ほほう。氷のダンジョンか! うちのダンジョンにはないギミックじゃないか。なるほど、興味深い」
「え? ちょ、ちょっと待って。ダンジョンコア? 今、さらっと大事なこと言わなかった? チューさんって、ダンジョンコアなの?」
なるほど、確かにヴェノンはチューさんと違ってもふもふがないから、寒そうではあるよな。
でもしかし、氷のギミック、トラップといえば滑る床とかだろう。
これは、フェアリにも言えることだけど、浮遊の能力を持つ二人ならば、十二分に活躍できるだろうことは予想できたわけだが。
それより何より、ユウキに言われて初めて気づいたというか思い出したのは、チューさんがヴェノンたちのようにダンジョンにてテイムしたモンスターではなく。
ふところマスコット兼ダンジョンコアであったのを、そう言えばユウキに言い忘れていたことだった。
「ん? そうか。ユウキってば知らなかったんだな。俺はてっきり、俺だけ除け者にして仲良くダンジョンアタックとかしていたから、てっきりとっくの間に知っているものとばかり思ってたよ」
「うぬぬ。主さまをのけものになんぞしとらんぞ。ありゃぁ、なんと言えばよいのか。乙女の都合というものがあってのぅ」
「そうだよぅ。ごしゅじんさま、のんたちだってぷらいべーと、あるんだからね」
「……なるほど。うん。確かにそれは、すまなかった」
「って。何違和感なく納得しちゃってるんだよ! オレは男だっての! あれは勇者としての勘が鈍らないようにチューさんたちにジエンのダンジョンの攻略、手伝ってもらってただけだしっ。てか、そうじゃなくてっ。よかったのかよ、チューさん。オレにそんなこと話しちゃてもさ」
ユウキはきっと、勇者として魔王のダンジョンを攻略するものとして。
その攻略の鍵となっているダンジョンコアが実は自分でしたなんて、明かしてしまうのは大丈夫なのかと心配しているのだろう。
「ん? なんじゃ、ユウキどのはわしのこと、破壊するつもりなのかの?」
「うぇっ!? な、何言ってるのさっ。そんなことするわけないじゃないか。……こんなにも可愛いのに」
「ちゅーさんかわい~、もふもふ」
「わぷぷっ。こ、これっ。やめんかっ」
逆にチューさんは、ユウキとしばらく過ごして、ユウキがそんな事をするはずがないってよくよく理解していたのかもしれない。
からかうようにそう言うチューさん。
両手をぶんぶん振って、それを否定するユウキ。
そこに、仲間に入れてとばかりに突貫していくヴェノン。
「……」
一瞬だけ見えたような気がする、かわいい女の子たちが戯れ合い触れ合う光景。
瞬きの瞬間、それはあっけなくどこかへ行ってしまって。
気づけばそこにあるのはネズミ系統の可愛いマスコットに囲まれもふもふな目にあっているヒロインの姿で。
ヴェノンに言われた通り、やっぱりその中に入ってはいけないような気がして。
生暖かく見守りつつ、俺は話題に上がったダンジョンコアについて考える。
当然、ここ以外のダンジョンにもコアは存在しているのだろう。
ダンジョン踏破を目指す者たち、すなわち勇者はダンジョンマスターである魔王を打ち倒すことでダンジョン攻略となるのか、ダンジョンコアを破壊することで攻略となるのか、気になるところではある。
倒された魔王や、コアはどうなってしまうのか。
魔王を打ち倒すことで、願いを叶えられるらしい勇者。
だとしたら魔王は?
勇者を返り討ちにしたら、何か特典があったりするのだろうか。
俺、そんな話少しも聞いていないんだけど。
まぁ、『WIND OF TRIAL』のヒロインと見まごうユウキ(ただし本人はの男だと言い張っている)が仲間になってくれたことが、ある意味俺にとっての特典とも言えるけれど。
そうなってくると、あまりのんびりゆっくりしていると他の魔王さんたちのダンジョンお試し、見学どころじゃなくなってくるかもしれない。
よその勇者と魔王は、今現在どんな感じなのか、早めに知る必要があるだろう。
うちらみたいに役職とっぱらって一緒に行動しているのはありなんだろうか。
……まぁ、ユウキの言う神様的な存在からのコンタクトも、苦言も忠告も今のところないし、問題はないのかもしれないけれど。
「あ、そうだ。それで思い出したんだけど、ユウキの勇者としてのお願いって、もしかしたら叶えられるかもよ」
「えっ? 願い? い、いやっ、駄目だって。確かに男に戻りたいし帰りたいけど、チューさんを犠牲にしてまですることじゃないし」
「いや、違うんだ。チューさんが傷つくかもだから今まで言わなかったけど、そもそも我らがダンジョン『異世界への寂蒔』って、攻略、踏破するのにダンジョンボス、魔王を倒す必要も、ダンジョンコアを破壊する必要もないんだ。潜る際に、アイテムを持ち込めない、レベルも1に下がる、前の冒険でついてきてくれるようになったテイムモンスターもホームに置いてかなくちゃいけない。そんな鬼仕様だからこそ、99階まで到達するだけでいい。俺自身、そう何度も攻略できてるわけじゃないが、100階にはホームや地上に戻って来られる魔法陣以外は何もないんだ。俺としては、ここまで踏破し、体験し得たものが報酬なんだって納得していたけど、攻略する使命を持っている勇者のユウキなら、何かしら願いを叶ええくれそうなご褒美がある可能性もあるな。ダンジョンの名前からして、故郷に帰れたりしそうだけど」
あるいは、現状に満足していて。
特に帰りたいとか、叶えたいものがない俺だからこそ、なのかもしれないが。
「……うぅ。いつもずっとふところにおって薄々は感じておったが、やはりそうなのか。わしは所詮、もふもふされつつ解説するだけしか能がないんじゃぁ」
「だいじょぶだよ。チューさん。のんには飛んでたたかうことしかできないし」
「ううう、同士よぉ」
ゴムまりみたいな洞窟こうもりと。
もこもこが一回り大きくなっていずれ懐からはみ出そうなくらい大きくなりかねないテンジクネズミ。
二人のマスコットの抱擁。
もはやダンジョンコアとしての立ち位置はあってないようなもので。
破壊すること、されることへの憂いはもうないんだってことを言いたかったんだけど。
やっぱり上手く伝わらなかったらしい。
よよよ、と泣き真似するチューさんは、ヴェノンに任せて。
改めて、そう言うことだからと、ユウキに視線を向ける。
「そうか、ジエンのダンジョン、攻略しちゃえばいいのか。ボスもコアもスルーしていいならいける、のか?」
「う~ん。ぶっちゃけてしまえばキャラレベルじゃなくて、プレイヤーレベルがまだまだ足りなそうだからなぁ。真の意味で攻略するためには、一階から着の身着のまま一人で潜らないといかんし」
「あー、やっぱりそうかぁ。チューさんやフェアリさんたちと挑戦した回は、ノーカウントってこと?」
「あぁ、ついさっきの? あれは演習みたいなものだな。連れて行ったのがチューさんだけなら懐から出ないことを条件つきで、真の攻略とみなされるんだけど」
演習というか、俺のいない間にユウキたちが楽しんでいたのは、リプレイのようなものだからな。
プレイヤーレベルは上がるんだけど、願いを叶えてもらえそうな真の……完全攻略とはいかないんだろう。
「元より、千回遊べるがコンセプトだから地道に潜り、失敗して、時には途中離脱をひたすら繰り返していくしかないね」
「うへぇ。気が遠くなりそうだ。フェアリさんたちがいてもやばいなって思ってたのに」
天を仰ぎつつ苦笑い。
だけど、そんなユウキは明確な目標が見つかったこともあってか、晴れ晴れとした顔をしていた。
今すぐには無理だとしても、いずれユウキはわが自慢のダンジョンを踏破することだろう。
それはきっと、俺たちの別れを意味しているのかもしれなくて。
「ま、じっくりたっぷり時間をかけて楽しんで攻略してくれたまえ」
「……そう、だね。楽しんで攻略していくくらいの心持ちの方がいいのかもなぁ」
それが、ちょっとでも長く続けばいいのに。
たぶんきっとそれが、俺の願いなのだろう。
そうであるからこそ、行き急ぐ必要はないって。
明らかに俺自身のわがままを、おくびにも出さずに。
「……って、それより今は他の魔王のダンジョンだな。とりあえずその一番近い【氷】のダンジョンへ向かおう。色々準備をしなきゃだし、どんな勇者や魔王がいるのか調べないとならんが」
「あ、そうだよ。ここの鬼ムズダンジョンと違って攻略されちゃってるダンジョンもあるかもだし、確かに同じ勇者のひとには会ってみたいかも」
話題を逸らすみたいに、元々の本題へと戻ったけれど。
たぶんきっと、ユウキはそんな俺の考えに少なからず気づいてはいたのかもしれない。
気づいていて、そんな楽しい時間はまだまだ終わらないと、応えてくれているような気がしていて……。
(第42話につづく)
次回は、4月17日更新予定です。




