第4話、ダンジョンマスターとふところマスコット、プライベートビーチ発見
人一人がやっと通れるかってくらいのマイダンジョン入口。
その先には、180度深く濃い森林と野原が広がっていて。
朝方だったのか低い位置の太陽(とりあえず一つだった)の近くに、雪をかぶった白い山々が見える。
「……ふぅ」
深呼吸しつつ、シャバの雰囲気を満喫。
しかし、チューさんが出てこないのに気づいて。
振り返ると、洞窟めいた入口と外の境に器用に後ろ足立ちしてこちらを見ているチューさんが目に入った。
「どうしたチューさん、忘れ物か?」
「……わしの役目はここまでじゃ。外に出ても何か力が使えるでもなし。そもそもダンジョンコアが自らダンジョンを捨て外に出るなどと……とぅおぉっ!?」
チューさんが、何やら言い終えるよりも早く。
俺は首根っこ掴んでいつもの定位置……懐へ戻していた。
役に立つ、立たないなんて関係ない。
かわいい喋る相棒は、いつでも懐にいるのが『WIND OF TRIAL』のお約束なのだ。
むしろ主人公は、他人様とのやり取りをすべて相棒に任せていたくらいなのだ。
当然俺もそれに準じようと思う。
「俺コミュ障だから、チューさんいないと困るんだけど」
それは正しく、腹話術師のごとく。
そんな言い訳して、歩き出しつつ背中を撫ぜると。
「……ふふふ。仕方のないやつじゃのお、ジエンは」
屈託なく笑い、初めて名前を呼んでくれたから。
俺も釣られて笑顔になって。
ある意味、本当の始まりとも言える旅立ちのその瞬間こそが。
忘れえぬものになったと自画自賛したい俺がいて……。
※ ※ ※
太陽の下、一面の緑を間に受けつつ。
チューさんに頼んで念入りに我が家という名のダンジョンを塞いでもらっていると。
ある一つの懸念事項を思い出す。
「なぁ、チューさん。ちゃんと入る前の注意事項って、表示されるんだよな?」
「ん? 何を言うかと思えば。そんなもの表示されるわけがないであろう。ダンジョンと言う名の魔王の城ぞ」
「え? じゃあそれってつまり……」
隠したはいいけど偶然見つけた人は、レベルが1に戻される事もアイテムが全部なくなる事も、ダンジョン内で手に入れたアイテムは一度使ってみなきゃ分からない……なんて事も、情報ゼロで潜らなくてはないのだろうか。
本来ならそんな親切仕様になっているのだと説明するも、チューさんはにべもない。
「暴き出し、勝手に侵入するような輩じゃ。慈悲などいらん」
「あー、そう言われればそうなんだけど」
チューさんは家主みたいなものだしな。
想像通りのダンジョンを創れると言っても、それを攻略する側に優しくなれるはずがない。
荒らされたくないのはもちろん俺も同じなので、勝手に入った方が悪いと思う事にする。
「それじゃ、それはそれでいいとして、まずはどこへ向かおっか?」
他のダンジョンもいいけど、町やら何やらがあると素敵だよな。
マイダンジョン攻略に夢中になりすぎてすっかり忘れていたけど、ここは剣と魔法のファンタジー世界なのだ。
異世界トリップなのだ。
俺のようなトリッパーがたくさんいるっぽいのはあんまり好きじゃないけど。
せっかくだしファンタジーの町を楽しみたいと思うのは当然だろう。
「そんな事わしに聞かれてもしらんわ。ダンジョンコアが外を徘徊するなどと、そもそも前代未聞だというに」
チューさんが、喋るたびにもこもこ暖かい感触が伝わって来るのはさて置いておくとして。
言われてみればやっぱり確かにその通りで。
「よし、とにかくひたすらまっすぐ進んでみよう」
その方が戻ってくるのも簡単だし、特に反論もなかったので俺は意気揚々と目の前に広がる森へと足を踏み入れる。
はたしてその先には何が待っているのだろう。
フィールドにもモンスターというか敵対生物がいるのかもしれない、とか。
大きそうな森だから、妖精とかエルフとかいたりしないのかな、とか。
妄想だけで、捗る道行きだったと思う。
しっかり準備してきたのもあるけど、散策山登りが趣味だったから。
森深い獣道を進む、なんてシチュエーションだけで、どきどきわくわくものだった。
道中、チューさんと他愛もない話をしつつ疲れたら休憩しよう……なんてピクニック気分で奥へ奥へと進む。
すぐに日差しが木々に遮られ、陽が通らなくなって闇が広がり、その向こうからこちらを睥睨する幾つかの視線……なんて展開にもなることもなく。
モンスターっぽい生き物などこれっぽっちも現れやしない。
野生の動物などの気配はなんとなくある気がするのだが、偶然にも鉢合わせ、なんて事も起こらない。
もしかして、強くなりすぎちゃって避けられてる?
……なんつって。
大人しくて懐っこくて仲良くしてくれそうな子がいれば、テイムして仲間にしたいんだけどな。
まぁ、実際そうなったら我が家でお留守番しているメンバーにお伺いを立てる必要があるんだけど。
あ~、うん。やっぱり誰かつれてくればよかったかな。
呼んでも出てきてくれなかったり、モンスターバッグの内なる世界で捜索しても見つからない、
なんてことが多くて、遠慮していた部分もあったけど。
「……お、森を抜けたようじゃな」
なんて事考えていると、唐突に森が開け、目前には……。
「おぉ、海じゃな」
「知ってたの? チューさん」
「一応な。ダンジョンにも水のステージがあるじゃろ。そこに住む者達に『故郷』として話を聞いた事がある」
確かにテイムしたメンバー(とは言っても、そもそも俺はダンジョンの王なので、元々みんな配下らしいけど)に、海洋生物っぽい子たちもいたな。
俺がダンジョン攻略に夢中になっている間に、そんな深い所まで会話してるんだと思いつつも。
マイダンジョンのモンスターたちが、俺の魔力だかチューさんの力だかで生み出されたと思っていたんだけどどうやら違うらしい。
「え? それってみんなはダンジョンで生まれたわけじゃないってこと?」
「うむ。無機物系など一部のものを除けばだいたいはそうじゃの。わしがスカウトしたのじゃ」
詳しく聞くところによると、所謂召喚魔法を使うらしい。
生きるため、強くなるため、楽しそうだから。
理由は様々あれど、一番はダンジョン内に限り命を落とす事あっても復活できるから、とのことらしい。
ダンジョンは数多あるとのことなので、外……フィールドではよっぽどの事がない限り襲われる事はないようだ。
それよりも、盗賊や山賊の類の方がよっぽど厄介らしい。
気をつけようとは思ったけど、辺りにあるのはただただ海ばかりで、まさにやってきた背後の森も含め絶景である。
釣りのできそうな岩場や砂浜などもあって、海水浴も楽しめそうだ。
しかし、船などがあれば別だが、目に見える範囲に島などは見えない。
浜辺に沿って歩いてみてもそのうちに森に入ってしまう。
つまりは、ここは行き止まり、引き返す以外にないというわけで。
「ほぼ無駄骨じゃったな」
「いやいや。ダンジョンの主が何言ってんの。行き止まり兼宝箱置き場から潰していくのはダンジョンアタックの基本でしょ」
「ふむ。宝などあったかの」
「また暖かくなったら泳ぎにでも来よう。折角見つけたプライベートビーチなんだし」
ドヤ顔で俺が言えば、もふもふと全身震わせて。
「この毛皮じゃあ、ちぃと酷かもしれんのう」
チューさんは、言葉とは裏腹に何だか嬉しげに笑うのだった……。
(第5話に続く)