第39話、ダンジョンマスター、蛇蝎のごとく扱われると知っててみんなでレベルアップしたい
「あーっ、ごしゅじんさまかえってきたぁ!」
「お、おぅ。今帰ったよ」
「うぉっ、いつの間に。てか、もうちょっとでできるからちょっと待ってて。それか、せっかくだし、他の娘たち呼んできてくれよ」
「主どのはまったく。何も言わずふらっとおらなんだから。言付けくらいしておいて欲しいものだの」
そんな、ちょっとばかりおかんむりのチューさんと。
やっぱりどう見ても可愛い女の子にしか見えないユウキはともかくとして。
いつの間にやらというのは言い訳に過ぎるだろうか。
何かしでかしてしまった……恐らく無理くりドーピングレベルアップしてしまったのがいけなかったのだろう。
気づけばフェアリを含めた確固たる意志のある名のあるテイムモンスターの皆さんには。
避けられ逃げられ表に出ることも少なくなってしまっていて。
わざわざ『モンスター(魔物魔精霊)』バッグの中へお邪魔して、探さないと見つからない状況に陥っていて。
フェアリ曰く、偶然でもない限り自ら出てくることはないというか、すっかり嫌われてしまって。
みんなが望むのであれば、テイム状態からの解放も辞さない、なんて思っていたわけだけど。
あまりにもまんまるで、羽もおもちゃのようで。
もしかしなくてもチューさん以上にマスコットしているヴェノンは。
そんな俺の考えなどどこ吹く風で。
元気一杯、さっきまでの語りは勘違い出会ったと思わせるほどには、嬉しそうにそのスペード型の尻尾をブンブンと振り回し、
俺に向かってたいあたりをしかけてくる。
「ごしゅじさまぁ! やっと会えたっ。ごしゅじんさま、のんのことぜんぜん呼んでくれないんだもん。
あたらしい娘が仲間にくわわったのなら、おしえてよぅ」
「……あっ、そうか。バッグの中へ入って探さなくても呼び出せるのすっかり失念してたよ。ごめんな、ヴェノン」
準備万端整っているのかも分からないのに、勝手に呼び出すのはいかがなものかと。
忘れ去っていた、テイムモンスターの召喚。
何だか最近忘れっぽいんだよなぁと頭をかきつつ、俺は素直にヴェノンに頭を下げる。
ちなみに、ヴェノンと言う名前は吸血こうもり……ヴァンパイア的なものをイメージしてかっこいいかな、なんて思ってつけたのだけど。
こうして確固たる意志を持つようになり、会話までできるようになった彼女は。
そんな名前が早まったかなって思うくらいには、幼く純粋な……周りを元気にしてくれるような娘だった。
いいよ、いいよ~、なんて言いつつその額で胸元をぐりぐりし続けているヴェノンは。
フェアリが自称し自慢するように、パーティの、みんなの妹的存在なのである。
そのまま、離れようとしないところを見ていると、やっぱり嫌われているだなんて俺の勘違いだったのだろうか、なんて思っていると。
くっつきだっこちゃんになってしまったヴェノンを見かねてなのか、テーブルの上をぐるぐると運動しているように見えたチューさんが、はっとなってこちらへ駆け寄ってくる。
「これっ、何をしておるヴェノンよ。主どのからはなれんかっ。不用意に近づくとくわれるぞ」
「マジかジエン、さいてーだな」
「えぇ~? だいじょうぶだよぉ」
「おいおい、何だよ二人して、人聞きの悪い」
恐らく、チューさんの言葉に乗っかっているだけのユウキはともかくとして。
さっきまでの俺の勘違いを、勘違いなぞではないぞ、と言わんばかりのチューさん。
フェアリの時にはそんなこと言わなかった(と言うより、ヴェノンほどフェアリは見た目と違ってくっついてこないと言うのもあるのだろうが)のに。
正しく可愛い妹分を守るかのような発言と態度である。
「って言うか食われるってなんだよ。我がダンジョンの食べ物は基本ダンジョンに落ちてる……生み出されたものだけど、さすがにモンスターや、魔精霊を食らう趣味は俺にはないよ?」
これが、ダンジョンでないシャバ……外界でのことならば生きるために動物を捕らえていただくこともあるのだろうが。
折角仲間にした彼女らをそんな風に見たことなんて当然のごとくあるわけがなくて。
あぁ、あれか。
チューさん最近、テンジクネズミからカピバラに進化する勢いでまん丸になってきていたから、
非常食扱いされてやしないかって、危機感を持っているのだろうか。
あるいは『WIND OF TRIAL』シリーズでは、出てくるモンスターを倒す際に、特殊な武器を扱えば肉っぽい食料に変えることができて。
そのアイテムを使う……食せばそのモンスターに変身できて、かつそのモンスターが持っている能力を扱えることを、知っていたりするのだろうか。
まぁ、確かにそのダンジョンも面白いのは正直なところだけど。
今はそんなモンスター、テイムモンスターどころか苦労して集めたアイテムや、鍛え上がったレベルすら通用しない、大好きな鬼仕様ダンジョンにはまっているから、そっちのダンジョンを気にかけている場合じゃないだろうと再度訴えると。
変わらずたいあたりと言う名のじゃれつく攻撃を続けていたヴェノンはともかくとして。
チューさんもユウキもはっとなったかと思うと、すっかり仲が良くなったのはいいことだけど、二人でこしょこしょと内緒話を始めてしまう。
と言うか、魔王らしく地獄耳な俺にはそれでも聞こえてしまうので、気を使ってシャットアウトしているんだけど。
きっと二人は気づかないんだろうなぁ、うん。
「……あ、そうだ。確かにヴェノンの言う通り、ユウキをみんなに紹介しないとな。ご飯、みんなで食べるって言うならちょうどいい。自己紹介した後、久しぶりにみんなでレベルアップ大会、しようじゃないか」
運良く、そのためのアイテムはいつもより多めに揃えている。
大好きな鬼仕様ダンジョン……『異世界への寂蒔』に挑戦するには、ぶっちゃけ使いどころがなくて貯まる一方なのだが。
これから他の魔王さんのダンジョンに遊びに行くわけだし。
『異世界への寂蒔』のような、突入の際にレベルが初期化されるようなダンジョンなどそうそうはいはずだから、このタイミングでまとめて使ってしまおう。
そうと決まれば話は早いと。
他のみんなを召喚(と言う名の直接『モンスター』バッグへと赴いて見つけ出す)、あるいはヴェノンに頼んでみんなを呼んできてもらおうかな、なんて思い立った時だった。
当のヴェノンが弾かれたかのように。
実際にはチューさんがらしくない機敏さでヴェノンをくわえつつ引き離していくのが見えて。
「ほわぁ、ちゅーさん、どうしたのっ?」
「離れるのだ、のんよ、主どのにくわれるぞっ」
「えー? 大丈夫だよぅ~」
「あぁ、チューさんが言ってたやつか。本気かよジエン、オレはちょっと勘弁してもらいたいんだけど」
「ふむふむ? ……あぁ、そういうことか」
どうやら俺が避けられ嫌われていると言うよりも、やっぱりそのドーピングまがいの強化方法がまずかったらしい。
俺としては俺のダンジョンで集めた、俺の能力とも言えるそのマジックアイテムを使うものであるからして、当然の流れというか、苦労して持ち帰ってきた戦利品を有効利用する醍醐味があって。
半ば趣味のようなものなんだけどなぁ。
でもまぁ確かに急激なレベルアップが連続するのは、人によって感じ方が違うんだろう。
かく言う俺は……ええと、あれ? どうだったっけか。
ダンジョンアタックの成果が身に染みて分かる機会なのに、何故だかその時のことを思い出せないぞ?
もしかして、気をやってしまうくらいそのレベルアップ方法に問題があったんだろうか。
一体どんな感じだったっけかと。
助けを求めるかのように、一度体験しているであろうチューさんやヴェノンを伺うと。
まるで、意識を失った流れで悪酔いして、暴走して色々とやらかしてしまったかのように。
ユウキを含めて、それなりに間を取ってこちらの様子を伺っているみんながそこにいて……。
(第40話につづく)
次回は、4月9日更新予定です。




