第37話、魔王、仕切り直して他国を侵略(という名のダンジョン行脚)したい
こうして、『リングレイン』の国の勇者の代替わりは。
いくつかの謎を残したままながらも。
表向きは問題なく行われることとなる。
『リングレイン』近郊に出現した、魔王が棲まうと言われるダンジョン。
新たなる勇者となったことで、人が変わったように真面目にかのダンジョン攻略に勤しむようになったナイルとそのパーティメンバーは。
遠くない未来、全15階あったとされるその難攻不落のダンジョンを幾度となく踏破して。
『リングレイン』の国に様々なアイテム、国を豊かにする資源をもたらし、『リングレイン』の国を大いに発展させる一助となったらしい。
その一方で、前任の勇者の行方を知る者はほとんどいないといってもよかった。
国から公式発表されたものによれば、『リングレイン』国が抱えていた召喚陣を使い、あるべき故郷に帰ってしまったとされているが。
その魔法陣は全く壊れた様子もないのに、それ以降まったくもって起動することが叶わなくなってしまっており、帰ってしまったことを確認するどころか、新たな異世界からの来訪者を呼ぶことすれできなくなっていて。
今となっては、新たなる勇者ナイルが一線にて活躍しており、それを使う必要性もないため大きな問題にはなっていないが。
魔法陣を創り出した関係者によると。
それも幾度となく復活し、勇者の前に立ちふさがる魔王の呪いではないかと言われている……。
―――『リングレイン』新聞より抜粋。
「……ふむ。今のところうまくいっているようだな、ふははは」
俺たちは、『リングレイン』の街を堪能し楽しみ、こっそり魔王らしき爪痕を残しつつも我が家であるダンジョンへと帰ってきていた。
帰ってきてからは、俺自身が快適なダンジョンライフを送るために精力的に色々動いていたから。
それもご覧の通り一段落ついたことで、優雅に休暇を過ごしつつも『リングレイン』発刊の新聞を読みふけっていた所である。
そんなわけで今は一人であった。
ユウキは、元の姿に戻れる方法を……と言うか、『ランシオン(幻影変化)』のカードが我がダンジョンに眠っていることを知り、適度な運動をしてダイエットしたいチューさんとともに、新たに作り換えた『異世界への寂蒔』へ挑戦中で。
フェアリは今頃他の意思あるテイムモンスターな子たちと、バッグの中……広大で不可思議なプライベートスペースにてのんびりしている頃合であろう。
ここに来てから、そう言えば一人きりになることなんてそうそうなかったから何だか新鮮というか、寂しさのようなものがあったのは確かではあるが。
この新聞を読む限り、俺的に魔王らしい支配は今のところうまくいっているようだった。
俺が『リングレイン』の街に足を踏み入れたのは、異世界の街に興味があったとか、いくら大好物なダンジョンでもそればかり食していたら飽きてしまうからと色々あるけれど。
俺と同じように異世界に召喚されて、町の勇者として性別が変わってまでやってくることとなったユウキのような被害者を出さないようにするためだった。
けっして、この自ら創り出した理想のダンジョンを俺たちだけで楽しみたいからとか、余計な邪魔が入って欲しくないからとか、自分本位な理由のよるものではなく。
……とにもかくにも、そんな理不尽な使命を押し付けられる人を増やさないようにする処置は、今のところしっかりと機能している。
カードの中に、あらゆる魔法、スキルを封じることのできる『シィール(封印呪魔)』と呼ばれるものがあるのだが、それを召喚陣に向けて放ったら、上手く機能を封じられたようで。
今のところ新たな異世界からの来訪者……この国に限ったことではあるが、情報は入ってこない。
気に入らないから、魔王らしく破壊しました、だけならばこうも上手くはいってないんだろう。
そんな召喚陣を使わなくてもいいように。
新たな勇者を呼ばなくてもいいように。
ナイル君たちを新たなる勇者に勝手にだけど任命したのも、良い方に転がっているようだ。
ここに来たばかりの頃は。
俺のダンジョンは俺だけのものだ、なんて頑なであった部分は確かにあったんだけど。
これからよそ様のダンジョンにお邪魔しに、遊びに行くことも考慮し考え方が変わったのだ。
まずは、ナイルくんたちに限らず、勇気ある探索者たちのために我がダンジョンを改装することにした。
初めに着手したのは、今までの1階から15階をそのままに、彼らの挑戦の場として。
16階以降を俺たち専用のダンジョンとして切り離すことだった。
加えて15階が終わりであることを示すように、ダンジョンボスを配置している。
元々は、16~20階辺りを徘徊している『シコン・ゴーレム』(テイムしたて、あるいはしていないので今のところ確固たる意志のようなものはない)に、『デ・イフラ(幻惑混乱)』のカードを投入し、挑むものたちがイメージする魔王へと化けてもらっている。
ランダムな運要素があるが、たとえ15階まででも俺用のアイテムに限らず、様々な武器防具、アイテムお金が落ちているし、みんなの考えた魔王に化けているゴーレムを含めて、毎回必ず踏破できるほど生易しいダンジョンではない(俺でさえ失敗することは少なくないだろう)ので。
今のところ大変満足いただけていると言うか、ナイルくんたちからも国からも文句は出ていないことが街発刊の新聞からも伝わってくる。
ダンジョンの壁を空けてしまう、ダンジョンを作る方からしてみれば反則極まりないギフト……アイテム、『ディネン(掘削破道)』のカードと同じような力を使う者が現れない限り、16階以降を発見し、俺たちの楽しいダンジョンライフを邪魔されることもないだろう。
そんなわけで。
俺自身が次にやりたいこと、次の一手を考える時間になってくる。
我がダンジョンは手前味噌ながら一万回遊べると評判である。
16階以降に挑戦しているであろうユウキたちを追いかけていくのも面白いかもだけど、それはある意味いつでもできることではあるし。
俺としては先程も少し話題に上がったような気がしなくもない。
ここではない他の国や町にあるダンジョンの冒険がしたいです、なんて思っていて……。
(第38話につづく)
次回は、4月2日更新予定です。




