第35話、魔王、二の腕右腕ふところマスコットに、取って置きを授ける
それでは早速、とばかりに。
【月】と【光】の属性秘めし、退魔効果抜群、味方に回復効果ありの、戦う女神を冠した投槍を取り出す。
「ありがとう、主さま。一生大事にするよ」
「……っ」
それを、心底大事そうに。
宝物でももらったみたいに。
実に嬉しそうに抱える、黒髪三つ編みの……凄絶な瞳の色をたたえた、美しい少女の姿を幻視する。
その様はなんとも眩しくて直視できそうもなくて。
だったらわしもと、ぶんむくれているチューさん……
何故かチューさんも、もこもこ毛皮と同じ栗色の髪をツインテールにした幼くもお姉さんっぽい少女に見えてしまって。
ひとりでなくて二人共だと、やっぱりそれって幻なんかじゃないのではなかろうかと。
それなのにも関わらず、いつでもどこでもユウキが桜色ポニーテールなサムライガールのままなのはどうしてなのかと疑問に思いつつ。
首を傾げ気を取られているうちに、気づけばフェアリもチューさんも元のそれでも可愛らしいマスコットの姿を取り戻していて。
これが、本当のデイドリームかと。
俺が無意識のうちに求めていたのは、見目麗しき美少女たちとの日々であったのかと。
そんな益体もないことを考えつつ、ちゃっかりチューさん用にと『ウィルオ・ナックル』+15と呼ばれる、【光】属性てんこ盛り、貫通攻撃&飛び道具付きな、テンジクネズミなチューさんでもしっかり装備できてしまう武器を手渡して。
今はお留守番している他の名付きのテイムモンスターたち、強き意思ある子たちにも渡さなければ、なんて考えていると。
予想通り相当気に入ったのか、しばらく透かすようにして天にかざしつつ、ギザギザの雷を象っているようにも見える剣を眺めていたユウキが。
はうわっと我に返り、そう言う事じゃないんだって、とばかりに声を上げる。
「こっ、これはもらっておくけどさ。そうじゃなくって。聖剣、ナイルのやつに渡しちゃったけど、よかったのかよ? あれがないと多分、魔王付きのダンジョンには入れないぞ? オレはともかく、ジエン言ってたじゃんか。他のダンジョンにも行ってみたいって」
おぉ、ユウキの前で次なる野望、目標を口にしたかどうか定かじゃないけど、何だかんだで俺のことを気遣ってくれていたらしい。
「ふふふ。その辺りのところはばっちりぬかりはないよ」
さっきもちょっと話したけれど。
ユウキが心配してくれている聖剣は、魔王のダンジョンへ向かうため。
ひいては魔王に遭うための許可証変わりになるということは、ちゃっかり『ディセメ(識別解析)』のカードを使い調べてあったため、俺はナイルくんに渡した聖剣とは別に、いくつか『ブレフィス(分裂増殖)』のバッグ(実は初出だったり)にてスペアを作っておいたのだ。
もちろん、ナイル君に渡したのは、スペアのひとつで。
だけど効力が続いているのは確認済みである。
思わず、笑みをこぼしてざくざく増えてしまった聖剣を見せたら呆れたような、ちょっと引いてるユウキには申し訳なかったけど。
これで、問題なくこの街を出て次なるまだ見ぬダンジョンに向かうことができるかな、なんて思ったところで。
一つ……いや、二つやるべきことを思い出した。
「……あ、そうだ。勝手にユウキは故郷に帰ってしまった設定にしちゃったけど、大丈夫だったか? 別れの挨拶とか、しなくてもよかったのか? あの、受付嬢さんとか」
「あぁ、まだ完全に元の姿に戻れたわけじゃないから、帰るつもりはないけどな。でもま、うん。……そうだな。受付嬢さんとか宿屋のおばちゃんとか、城門の兵士さんとか、手紙くらいは渡したいかな」
「書く紙をご所望とな。あるよ、もちろん。『サレページ(真白無地)』の本がね」
「お、なんだこれ。本になってるのに、全部真っ白だ。使っていいのか、これ?」
「魔法とか呪文の名前を書き込まなければね。ただのメモ用紙さ」
「わざわざんなもん、書かねーよ。んじゃ、ちょっと借りるわ」
一ページごと使えるように、切り込みが入っているスグレモノである。
何だかんだで、お世話になっている人、いたんじゃないかと独りごちつつそんなユウキを見守っているだけなのもあれだから。
たまにはギフト、スキルと言う名のマイアイテムの整理でもしましょうかね、なんて思っていると。
フェアリ専用の『プレサーヴ(収納保存)』のバッグ(容量は少ないから、仲間モンスターに使ってもらうこともできるのだ)に。
スピアをしまったらしいフェアリが。
もはや夢か現か。
太陽色のクラゲ。
その見た目よろしくふわふわと近寄ってきて……。
(第36話につづく)
次回は、3月26日更新予定です。




