第34話、魔王、自身の城に他人(ゆうしゃ)を受け入れること、許容する
『ダイソーダ(金縛留起)』で抵抗できないこともあって。
これは君のものだよ、とばかりに聖剣を腰に差してあげても、ただそれを受け入れるばかりなナイル君だったが。
『ダイゾーダ』の影響で、断片的に聴こえてくるその言葉は、恐らくきっと前勇者……ユウキはどうしたのか、とでも言いたいのだろう。
もしかしたらきっと、前任が健在であるのならば、聖剣はその者しか装備できないなんて理由を知っていたのかもしれないが。
ユウキのことを案じていると言えなくもないナイル君の様に、意外なものを感じたのは確かで。
きっと少なからず、ナイル君も邪な意味合いだけでなく、ユウキをも求めていたのかもしれない。
ユウキとしては、勘弁してくれの一言なんだろうけれど。
「……あぁ、前任の勇者のことだけど、勇者を辞めて故郷に帰りたいんだってさ。もう会うこともないだろうけれど、せめてそれを代わりだと思って大事にしてくれたまえよ」
『むっ、むぐぅぅっ』
再び何か言いたそうなユウキを完全スルーして、男と男の……新たな勇者と魔王とのやりとり。
「……っ」
それを聞いた途端、憑き物が落ちたかのようにナイル君は大人しくなって。
どことなく理性の火も灯ったような気がして。
「それでは、また会おう。我が愛すべきダンジョンで!」
多分、他の魔王が創ったダンジョンに目移りして、不在なことの方が多いかもしれないけれど。
それはそれ、言葉の綾ってやつである。
まだいくつかやらなくてはならないことはあるが。
時限式の『リコーヴァ(治癒回復)』の本を、金縛られているナイル君だけでなく、眠ったままの取り巻きのみなさんにも仕掛けて。
長居は無用、スタコラサッサとばかりに不満タラタラ、引き続き何か言いたくて仕方ないユウキたちを引き連れて、牢屋から脱出する。
お話したいことがあるのならば、帰ってからまとめて聞きましょうと。
それから、『ルシドレオ(透過透明)』のカードなどを解除して、落ち着いてお話できる場所へとやってきたのは、予め取っておいた宿の一室のうちのひとつであった。
律儀にも、そこまでくっつかれ抱きしめられ塞がれていたもふもふやぷにぷにを振り払うと。
案の定ユウキは猛然と詰め寄ってくる。
「おぉい! いいのかよっ、魔王だなんてしゃべっちまってよ! 奴ら、仲間を引き連れて大量に押しかけてくるぞっ」
しかし、開口一番のセリフは、俺が予想していたものとは少しばかり違っていた。
てっきり、聖剣を勝手に渡してしまったことや、勝手に勇者を辞めさせてしまったことに色々言われると思ったのに。
これは、自分のことより俺のことを心配してくれているのかな。
何て言うか、ぐっとくるじゃないか。このヤロー。
「いやね、よくよく考えてみたらダンジョンとしてそれこそ在るべき姿じゃないかとも思ってさ。ダンジョンコアさんとしたら、わいわい賑やかな方が、やっぱりいいだろう?」
俺だってまともに踏破したことあるの、数える程だし。
彼らが俺と再び顔を付き合わせる所までやってくるのに、かなりの時間を要するだろうって打算は確かにあったけれど。
思えばダンジョンマスターがダンジョンを独り占めしていたことに不満もあったであろうチューさんを伺うと。
「……まぁ、本来のダンジョンとはやってくる探索者や住み着いたモンスターたちからの魔力を吸収し糧とするものじゃからの。それこそが通常の、健全なるダンジョンだと言えばそうなのじゃが」
俺だけで十分、仲間たちはともかくとして。
今更見ず知らずの他の奴なんて考えられない。
チューさんが、それにダンジョンコアとして納得してくれていたかどうかはともかくとして、一応大目に見てくれていたらしい。
「う~ん。ぼくとしては複雑かな。ユウキはともかく、彼らの相手をするのはちょっと……」
「いやいや、何言ってんの。フェアリたちが相手をする展開にはならないって。君たちはもうダンジョンモンスターではなく、俺の仲間、家族なんだからさ」
「……ふふ。そう言ってもらえるととても嬉しいね」
確たる個と意思を持った、高レベルなフェアリたちが立ち塞がったら、それはもう通常のダンジョンにはなりえないだろう。
俺がもし散策してフェアリたちに出会ったりなんかしちゃったら、即離脱するね。
などと言ったもう一つの事情はまったくもって口にせず、代わりについて出た本音に、ご満悦な様子のフェアリ。
よって、全然問題ないよとばかりに改めてユウキの方を伺うと。
「あ、でもさ。聖剣あいつにあげちゃったじゃんか。あれって一応魔王を倒せる武器なんだぜ。大丈夫なのか?」
「問題ないって。対光属性用の装備なんていくらでもあるし。仮にやられても復活できるアイテムもあるし。……あ、そか。ユウキの得物の話か? だったら同じのもあるし、それ以上の業物だってあるよ」
俺自身、防具系のアイテムはよく使うけど、武器の方にあまりこだわりはなくて、結構在庫抱えてたりするんだよね。
おかげで武器防具を強化できる『ポッジズ(錬金融合)』のバッグも余っちゃってて、使わずに腐らせておくのあれなので。
こんなこともあろうかと、結構創ってたりしていたのだ。
「ええと、そうだなぁ。ユウキにはこれなんてどう? 闇雷の剣+27! 一定確率で、金縛りとブラインド効果を。見えない斬撃を三方向に。物理攻撃無効解除、攻撃時ダメージに応じて装備者の体力を微回復できるぞ」
「うおおぉっ、なんでこれっ。かっけぇ! 正に闇の勇者ってやつじゃんか。こ、こんな凄そうなのオレにくれるのか?」
「ダンジョンコアとしては、あまりにあまりな性能じゃからして、それこそ正直勘弁してもらいたいところだの」
「……いいなぁ。ユウキさん。ぼくもご主人がつくった武器、欲しいよ」
「ん? フェアリも欲しいのか? っていうか、武器装備ってできるのか? だったらそうだなぁ。ヴァルキリースピア+18なんてどうだろう?」
仲間モンスターに武器防具を装備してもらう。
かつての『異世界への寂蒔』であるのならば、考えもしなかったことではあるが。
そんなことを考えたその瞬間。
ここに来てチューさんも含めて人型、少女の姿をとったフェアリの姿が。
ありありと、何故だか想像できてしまっていて……。
(第35話につづく)
次回は、3月23日更新予定です。




