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エンドロールには早すぎる~一万回挑める迷宮に棲まう主(まおう)は、マンネリ防止、味変したいと人様のダンジョンに突貫す~  作者: 大野はやと
メイン:エンドロール前

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第28話、魔王、勇者の甘さを否定せず見守ることにする



「単刀直入に言うとだな。俺がこれからこっそり城にでも忍び込んで聖剣を返してしまえば、晴れてユウキは自由の身ってわけなんだよな」


そこまでのくだりをユウキ本人に語ることはなく。

俺は敢えて結論だけを述べることにする。



「えっ? ほんとかよ? でも、聖剣かぁ」

「何? 意外と気に入っちゃってる? ならば本当の最終手段、召喚の魔法陣的なやつを完膚なきまでに破壊するって手もあるけど」

「いや。別にそれほど思い入れがあるわけじゃないし、何も知らない他人を誘拐しちまうような召喚の魔法陣だってない方がいいとは思うんだけどさ……」



何か拍子抜けというか、しっくりこないものがあるんだろう。

あるいは、勇者として召喚されただけあって、俺が提示したその選択が、逃げのように思えるのかもしれない。



自身の意思があったかどうかはともかく、急に異世界に連れてこられてダンジョンアタックし、ダンジョンマスターを、魔王を倒せ、だなんて言われて。

初めは元の姿を取り戻すために、ふるさとに帰るためにと、嫌々だったのは確かだっただろうが。

きっとユウキは、どこまでもまっすぐで、責任感の強いお人好しなのだ。



「リーアさんが心配してくれているのを見て、なんていうかさ。オレ、全然周りが見えてなかったんだなぁって思い知らされたんだ。このまま何も言わず逃げるのって違うなーって、思っちゃったんだよ。どうなるかは分からないけれど、元に戻ったら一度ちゃんと報告しに帰ろうと思う。敵対すべき魔王なんていなかったって、少なくともそんな魔王を倒すための勇者は必要ないんだって、自分の口で説明したいんだ」


そして、勇者としてではなく、ユウキ自身の力で元に戻る方法と故郷に帰る方法を探し出す。

つまりはそう言いたいのだろう。



「……そう簡単にうまくいくかのう」

「どうかなぁ、ダメだったらダメでその時考えるよ」

「楽観的だね。まぁ、ぼくが出来るのは仲間を支援することだけど」


心配げなチューさんも、らしいフェアリも。

行き当たりばったりで甘っちょろいと言われても仕方ないユウキの宣言に対し、迷うことなく前向きな様子。

であるのならば、俺としても倣って前向きであることも吝かではなくて。



「……よし、分かった。ならばうまくいく事を願って下準備だな。まずはユウキを追いかけてきていた、パーティにかけた魔法を解くことにするよ」

「あ、ああ。そうか、そういやジエンが助けてくれたんだよな。てっきりダンジョンの外に追い出しただけと思ってたけど」


『デ・イフラ(幻惑混乱)』カードや『イロトラン(硬化不動)』の薬のえげつないコンボで『みせられないよ』状態であることを口にはしていなかった事もあるが。

今更ながらその時の事を思い出したらしく、心底嫌そうな顔をするユウキ。



「彼らを、俺の魔王的な力で正しく呪いのように身代わりにしてやれば、晴れてユウキも自由の身だと思ったんだがな。聖剣が使い手を選ぶなんてこと知らなかったからなぁ。迂闊だったよ。ただ、ユウキが自分でけじめをつけるってんなら話は別だ。今すぐその呪いを解きにいかなくちゃならん」

「オレとしてはあいつらを許すのは難しいけど、ジエンの言葉を聞いてると、きっと十分に罰を受けたってことだよな。色々面倒かけて悪いけど、それじゃあ頼むよ」


ユウキは始め、俺の魔王的発言にどことなく引いてはいたけれど。

やはり勇者と言われるだけのことはあるんだろう。

言葉と裏腹に、罪を憎んで人を憎まず地でいっているのを深く感じ取って。



「よし、それじゃあ思い立ったが吉日、急いで行動だな。ちょっくら城に潜入して魔法解除してくるよ。その間、みんなは自由にしていてくれ。街を見て回ったっていいし、冒険者ギルドを体験するのもいいんじゃないかな」

「何を言う。わしゃふところマスコットであるからして、主どのにいつでもどこでもついてゆくぞ」

「ちょっと、ご主人に意見するつもりかい。そんないいわけはずるい……じゃなくて、ご主人の背中を守るのはぼくなんだから、ぼくだって離れるわけにはいかないよ」

「……うん。この流れでオレだけ留守番はなしだぜ。もう覚悟、決めたっつったろ」



もともとその予定であったから、思わずついて出たひとりで潜入作戦であったけれど。

目的の人物が城の……恐らく地下辺りに囚えられ、隔離されているだろうといったあたりはどうでもいいらしい。

あるいは、ダンジョン大好きマスターな俺が探し人、索敵なんぞお手のものだろうといった信頼があったりするのかもしれないが……。



「……ふむ。確かに言われてみれば別にひとりで行く理由もないんだよな。『ルシドレオ(透過透明)』のカードだって、最後までとっておく系のエリクサーのごとく希少なアイテムで、かえって使うの惜しんじゃたりしてるから余ってるしな。よし、そうだな。せっかくだからみんなで行こうか」

「よし、そうこなくっちゃな!」



あっさり俺が意見を翻すと、気合いの入った様子で頷いてくれるユウキ。

まったくもって爽やかでまっすぐで、愛すべき『異世界への寂蒔』シリーズのヒロインに勝るとも劣らない素敵っぷりであるが。

だからこそ皆の同行を許可した、前言撤回したのは間違いないんだろう。



正しくも勇者であるユウキが、魔王は言うほど悪人でもないし、討伐するほどでもないから勇者の任を辞退します、聖剣も返しますなどといっても、相手がそれを鵜呑みにして受け入れることなど有り得ないって、考えてみれば分かるはずなのだ。


でも、それでもユウキはどこまでも真っ直ぐに覚悟を決めている……自分の考えがうまくいくと信じているようで。

ならば本当にそれがうまくいくのか。

陰ながらサポートしなくちゃならないんだろう。


そのために一緒に行動する……『ルシドレオ)』のカードは、まさにうってつけなのだ。

恐らくは、ユウキが見たくなかった真実を目の当たりにする可能性は高いだろうけれど。


魔王に与するというのはそう言うものだからね、と。

その覚悟とやらを試させてもらおうじゃないか、などと。

内心では調子に乗って、思ったりしちゃってて……。



   (第29話につづく)








次回は、3月2日更新予定です。

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