第27話、魔王、取り敢えずしでかした事をはぐらかして掻い摘んで
まぁそんな、正しくも益体もないやりとりはともかくとして。
口の軽い受付嬢さんのおかげもあって、明確にここでやるべきことが見えてきたわけで。
俺たちは一旦宿へと向かい、今後についてすり合わせをすることにした。
そんなわけで集まってのは俺の部屋である。
最初は無駄にお金を使うこともないし、みんなひとまとめで泊まればいいって思っていたんだけど。
マスコットなチューさんとフェアリが、ユウキに対して俺と部屋を分けるべきだと強く主張したため、俺一人に対し残りの三人という部屋決めになってしまっていた。
どうやら、チューさん達の中で、俺がユウキに対しやらかしかねないというのが半ば確定事項、らしい。
……男同士で一体何があるってんだよ、とはユウキの見た目がアレだからして強くは言えず。
俺からすると、チューさんとフェアリは可愛いマスコットだけど。
ユウキからしてみれば可愛らしい女の子に見えているはずなのに、三人でひとまとめの一部屋なのは、特に問題だとは感じていないようで。
これってもしかしなくてもやっぱり俺がハブられているだけですよね、とは言えるはずもなく。
それでも、これからのために集まってくれたので、切ないことは考えないようにしてさっさと議題に入ってしまうことにした。
「ええと、まず確認したいんだけど、ここへ来る前に使用した変化……『ランシオン(幻影変化)』のカードの効力はまだ続いている?」
ギルドでも、宿のチェックインでもマスコットというか、モンスターなチューさんたちや勇者なユウキに気づいた人はいなかったから。
未だ効力が切れていないらしいのは予想済みではあったが、とりあえずそう聞いてみる。
「ああ。オレもそれ気になってたんだよ。こう言う魔法ってすぐ効果切れちゃうのかと思ったけど、そうでもないんだな。オレ的にはいっそのことこのままでもいいんだけど」
「性別が変わるだけで、随分と変わるものよのう。周りの者も気づいておらなんだし」
「やっぱり髪色のせいかな。ご主人さまと同じ色なのは僕だけだったのが自慢だったのにね」
三人のやりとりを鑑みるに。
やはり予想通り俺の能力の効果はまだ続いているらしいことは分かるのだけど。
本来ならばダンジョン内であるからして、一階層ごとだったり、一定時間だったり、全ての能力に持続時間が決められているというか、それぞれがアイテムのごとく消耗品だったはずなのだが、どうもダンジョンの外にいるからなのか、その制約めいたものがとっぱらわれてしまっているらしい。
もしかしたら、持続時間が伸びているだけで、明日朝目が覚めたら効力が切れる可能性もあるが。
それでも今回ギルドなどで得た情報を吟味すると、おかしいというか齟齬があることに気づかされる。
「チューさんやフェアリの変化後の姿を、俺自身垣間見ることができないからあれだけど。少なくともユウキ、期待させて悪いんだけど、変化……『ランシオン(幻影変化)』はあくまで魔法的な力で見た目を変えているだけだからな? 例えばチューさんやフェアリは今、人の手足がついていて、何かを持ったり歩いたりはできるはずだけど、中身は本来のものじゃないんだ。元々ないはずのもの、ガワを創りだすのに、俺の魔力で補ってる。つまりは何を言いたいかというと、ナニはあってもタネはないってことなんだな」
ユーアーアンダスタン? とまくしたてつつ。
暗にユウキにそれはまやかしであって、ユウキが真に望んでいるはずの男の尊厳を取り戻せたわけではない、と言う事を告げてみる。
「……たね? よく分からんが、つまり本物じゃないからいつ戻ってもおかしくないってことか?」
「ご主人さまの魔力で支えてもらっているって考えると、嬉しいけれど」
「わしらのは結局、自前じゃからのう」
部屋に備え付けてあった小さな丸テーブルを囲んでの話し合いだからなのか。
一つ言葉を投げかけると、律儀にみんなが返してくるので、何だか訳が分からなくなってくる。
……と言うか、マジかよユウキ。
ボケてるだけだよな?
いや、確かに直接はっきり言うのはアレだから、曖昧な俺にも落ち度はあるんだけどさ。
変化した後の姿が見えないから分からなかったけど、思ったよりユウキって幼かったりするんだろうか。
「……いや、まぁ。持続時間はもう少し様子を見たい所なんだけど、とにかく外見だけが変わってるってことだけを理解してもらえればいいんだ」
慣れないアプローチなんぞするもんじゃないと。
俺は心内で自戒しつつ、そのまま本題へと入ってしまうことにする。
「で、正確には『ランシオン(幻影変化)』を付与したわけじゃないんだが、ユウキを追いかけていた三人組も同じ幻影系のカードを使ったはずなのに、どうも様子がおかしいというか、恐らくギルドの人たちも含めて情報が秘匿されているようなんだよな」
使ったのは『デ・イフラ(幻惑混乱)』のカードと、『イロトラン(硬化不動)』の薬のコンボ。
『デ・イフラ』カードを受けた騎士っぽい男は、思うように動けなくなるとともに、敵意を一心に集め、
あるいは他の者が追い詰めようとしていた相手……今回の場合はユウキになるが、『ランシオン』と同じようにその見た目、姿を変えさせている。
『デ・イフラ』カードのみだと、他の者に捕まったり、その目標を達成する(ダンジョンで言うなら敵性として撃破される)と、そこで役目を終えて効力が切れてしまうが。
そこに何物でも敵わない鉄壁にすぎる護り、『イロトラン』の薬を付与することにより、『イロトラン』の効力が切れるまで延々と『デ・イフラ』カードの対象となった者を追い求めようとするも届かない、といった魔王的コンボが発動する。
この状況で、ダンジョン外にほっぽり出したため、ここに来る道中で目の当たりにした追っ手の騎士たちは、とても本人……ユウキには見せられないような状況を目の当たりにしていたはずで。
そこまでなら、時間稼ぎくらいの役にしか立たなかったはずなのだが。
『ランシオン』のカードと同じように、『デ・イフラ』カードや『イロトラン』の薬による効力が解けていなかったとすると、『イロトラン』の薬で対話などはできずとも、追っ手の騎士たちは勇者(の幻影)を発見し、とりあえずは『リングレインへ』持ち帰ってきたのは確かなはずで。
だけど、その事をギルドの受付嬢さんは知らないようだった。
恐らくは、追っ手の騎士達も含め、それを目にした者達に対し情報が規制されているのだろう。
変わり果てた勇者の姿を、公にしたくなかったのかもしれない。
または、勇者の証であるという聖剣が、こちらで思っているよりも大事なもので、だけど聖剣は見つかっていないし(念のため聖剣的なやつは、ユウキから一旦預かって、『プレサーヴ(収納保存)』バッグの中に入れてある)、それを取り戻そうと勇者に対し何らかの行動を起こそうにも『イロトラン』の薬による効力が邪魔で、それもままならない。
以上をまとめると……。
「俺がこれからこっそり城にでも忍び込んで聖剣を返してしまえば、晴れてユウキは自由の身ってわけだな」
そこまでのくだりをユウキ本人に語るのはあれなので。
思い切って結論だけを述べる俺がそこにいて……。
(第28話につづく)
次回は、2月26日更新予定です。




