第26話、魔王、改めて勇者の可能性に気がつかされる
「それはそれは、身につまされると言うか、心中ご察しします」
行方不明の女勇者の心配をしているのは確かなのだろうが。
今ここにいるユウキが当の本人で、そんな受付嬢さんの憂いを解消するために、正体を明かすべきかどうかは、未だ考慮の余地がありそうで。
俺は、手始めにそんな思っているようなそうでないようなセリフを口にする。
「救援の方達はもう出られているのですか? よろしければ、お、私たちも勇者の捜索に参加できればと思ったのですが」
眉間に皺を寄せて、おいたわしやと嘆くポーズ。
自分としてはそれなりに様になっていただろう、なんて思ってたんだけど。
「……はっ。いけません。その任務はギルドランクが最低でもCランク以上の方か、国所属の騎士団に与えられるものですから。本日登録したばかりの貴女方には、任せることはできないのです」
「でも、正直な所捜索の方、芳しくないのでしょう?」
「そう、ですね。すぐに派遣された国所属の騎士団も返り討ちにあったようですし、手詰まり状態であるのは確かです。ですから、尚のこと貴女方に任せるわけには参りません。お気持ちはありがたいのですが……Aクラス以上の冒険者が受けてくれるのを待つしかないのです。心苦しいのですが……」
ギルドのランクは、これもテンプレで、登録したばかりのEランクからD、C、B、AときてSランクまであるらしい。
Aランクの上位や、Sランクなどは、魔王を討伐できるという勇者にも引けを取らないのだとか。
そうなってくると勇者ってなんぞや? っていうか、その人達はもう十分勇者と呼べるのではなかろうか。
「……分かりました。私たちは勇者の無事を祈らせてもらいますね」
無事もなにも今ここで魔王にとっつかまっているのだから気持ちのこもっていない言葉であるのは否めなかったが。
想像以上にあけすけに語ってくれて、ギルドの受付嬢さんのイメージが崩れたというか、元々そんなイメージなんんてあってないようなものではあったのだけど。
有り難く貴重な情報を受け取り、別の意味で顔が赤くなっているユウキを引っ張って、チューさんとフェアリの元へと向かう。
「ぷはぁっ! ……くっ。ちょっ、なんなんだよぉ! 死んじゃうかと思っただろがっ」
「我が腕の中で息絶えるがいい……てか? 笑えんな。ユウキが迂闊なこと言おうとするからだろ」
「いやだって、ジエンはむしろオレのこと助けてくれたのにさ。誤解されるの、何か嫌だったんだよ」
まぁ、なんて素直でまっすぐなやつなんだろう。
どストライクな見た目のユウキにそんなこと言われると、TS変化後だって分かっていてもぐっと来ちゃうんですけど。
「誤解……じゃないかもね。ユウキはまだご主人さまの全てを知っているわけじゃないんだから」
「うむ。こればかりはフェアリの言う通りじゃな。このご主人が打算なしにお主を助けたとでも思っておるのか?」
「え? えっ? やっぱりそうなの? まさかオレにあんなことやこんなことをっ!?」
できたらいいな……じゃねーよっ!
どうしてフェアリもチューさんも、ウワキに寛容なハーレム要員の如きノリで俺の気持ちを勝手に代弁しちゃってるんですかねぇ!
……って、いや。代弁なんてしてないしっ。
俺の周りを囲んでもらって、みんなで楽しくダンジョンアタックだ! なんて思ってねーしっ!!
「それ(ダンジョンアタックのお供)を覚悟で一緒に行動してるんだろう。元に戻りたいのなら仕方がないじゃないか」
って言うか、違和感がないから気づくの遅れたけど。
ユウキってば、本当に同性なのよね?
もしかしてそっちもイケル系だったりするから、TSしちゃったりするのだろうか。
まぁ、ダンジョンアタックに性別はあんまり関係ないはずだからきっと別にいいんだけどさぁ。
「あ、ああ。そうだよな。オレは男に戻らなくちゃならないんだ。そのためなら……くっ。耐えてみせるぜ」
「……ふふ。強気でいられるのも今のうちだよ」
「わしは、やめておいた方がよいと思うがのぅ」
……えっと、ん? なんのお話だい?
このタイミングで、俺だけハブにするガールズなトークしちゃうの?
俺、哀れにも捕まっちゃった勇者のユウキに何をするつもりなんでしょうかね。
というか、チューさんやフェアリに何かしでかしてしまったのでしょうか。
何故だか、そう素直に尋ねることはできなかった。
心当たりはないはずなんだけど。
聞けば後悔の先にあるナニカを垣間見てしまう気がしたからだ。
「……ふっ。俺様のダンジョンは一味違うぞ。どこまで耐えられるかな」
故に、あってるんだかあってないんだか。
多分間違いなく間違っている、そんな捨てゼリフを残すしかできなくて……。
(第27話につづく)
次回は、2月23日更新予定です。




