第25話、魔王、そもそもの癌である召喚陣の破壊を決意する
せっかくゲットしたレア武器……聖剣という名の英雄の剣の扱いについて、どうするべきか。
優先すべきなのは、それをどう返して。
ユウキがこれ以上追われないように、この街の勇者でなくてもいいように。
そのための憂いを、どうやって精算すべきか、なのだろう。
それにはちょっと、考えがあった。
俺は、結局想定していた最悪は起こらず、特に問題なく受理されたマイギルドカードを受け取ると。
名前を記入し、特技の欄には、『道具使い』とだけ書き込み、受付嬢さんに従って倣って下っ端成り立て冒険者でも受けられそうな依頼を探すために、よくよくありがちな、紙のたくさん貼られたボードのところまでやってくる。
その際、同フロアに呑み処や食堂などもあるらしく、結構な視線を受けたけど。
俺目線からしても、そりゃあそうだろうと言わざるを得ない面子であるし、仕方ないとも言える。
実際、俺以外の人からしても、やはり周りの注目を集めるのには十分らしい。
こりゃ、もしかしなくても、目立って目に付くルーキーにちょっかいをかけてやろうといった、それこそテンプレートなイベントもあるかもしれないな、なんて。
少しばかり期待して掲示板へと向かっていると。
すぐ後ろにいたフェアリが、不思議そうに声をかけてきた。
「ご主人、少しばかり気になっていたのだけど、いいかな?」
「ん? どうかした?」
「受付嬢さんのことなのだけど、ご主人から見て、どうだった?」
何を藪から棒に、とは思ったけれど。
物語の主人公が、何故かギルドの受付嬢に特別扱いされて親密になったり、時には食事をしたり何故か一緒に冒険したり、なんてことはよくあるので、その辺りのことを聞きたかったのだろうか。
「ああ、まぁ。受付嬢さんなだけはあるよね。美人のお姉さんじゃん」
とはいえ、縁のないタイプというか、あまり興味を持ってくれる感じじゃなかったし。
転生勇者と同じ黒髪について突っ込まれるかなって思ったけど、それもないし。
もしかしたら……ユウキのことが気になってて、気もそぞろだったのかもしれないが。
とにもかくにも、ユウキの姿を晒せない以上、取り立てて何か俺から言えることはなかったんだけど……。
「う~ん。違いは一体、何なんだろう」
「親しい、意識した者のみ、ということかのう。それはまた、厄介な」
当たり障りのない俺のコメント気に入らなかったのか。
何やら二人で内緒話を始めてしまう。
またそれですか。
俺をハブって会話するやつ。
まぁ、無理に首突っ込んで間に入ろうと思わないのは確かなんだけどね、寂しいけれど。
……なんてことを思っていると。
ユウキがついてきていない事に気づかされる。
はっ、もしやベタに中堅どころ強面風の冒険者に絡まれているのかなと思ったら。
ユウキは未だ受付嬢さんとお話をしているではないか。
「あの、その。ええと。この国の勇者のことなんだけど……」
お、おぉ~いぃっ!
せっかくバレないように変化してまできてんのに、自分からバラしていくスタイルなのか?
恐らく何か考えがあるんだろうけれど。
俺は慌てて……でもそんな素振りを見せないようにして。
お手頃な依頼の方はチューさんとフェアリにお任せして、ユウキの方へと舞い戻っていく。
「……っ。勇者様ですか? ユウキさんのこと、何かご存知なのですかっ?」
大声を出そうとして、はっとなって。
ユウキにだけ聞こえるように。
それでもかなりの剣幕で当の本人に詰め寄る受付嬢さん。
見切り発車と言うか、それほどまでに激烈に反応してくれるとは思ってなかったのだろう。
まさか、ここにいるぞとも言えず。
狼狽えた様子で、それでも何とかユウキはそれに答える。
「いや、知っているっていうか。……今どんな状況なのかなって。知りたくて。ごめんなさい」
ある意味、ただの冷やかしで、この国の勇者の評判を聞きたかっただけ。
受付嬢さんは、そう受け取ったのか、あきらかに落胆した様子であった。
その様に思わずユウキが謝っていると、藁にも縋りたい気持ちがあったのか、受付嬢さんは小声のまま、勇者の現況について答えてくれた。
「最近になって発現、発見された未知のダンジョン攻略へ向かったはずなのですが……その、王国から派遣されたお共の方達は帰還されたのですが、ええと、どうも気をやってしまっているようでして。ギルドとしては我が国にも他国と同じように、ついに魔王級のダンジョンマスターが棲まうダンジョンが生まれたのだという見解です。ユウキさんが帰ってこないのも、そう断じざるを得ない理由のひとつですね。魔王と勇者は惹かれ合い求め合うとも言われていますから……」
周りに聞こえない程度には声を潜めてはいたが。
やはり誰かに話したかったのか、秘守義務など捨てておけと言わんばかりに情報を開示し、かつ求めてくる。
少なくとも、受付嬢さんからしたら、こうして心配し心痛めているくらいには、ユウキを想ってくれていたのだろう。
逆にユウキとしては、異世界転移のテンプレかと思ったら、TSまでついてくるテンプレな自分にテンパって、周りを見回す余裕もなかったのかもしれない。
今も、そんな受付嬢さんの態度に対して意外そうにしつつも戸惑って何もできないでいるようで。
「惹かれ合い求め合う、ね。……ええとつまり、戻って来ない勇者は、その魔王に囚われてしまったと?
ダンジョンアタック中に何らかの失敗があり、帰らぬ人になってしまったとは考えないんですね」
帰ってこない事に気がかりでいるようだけど、ダンジョンへ挑む者としてありがちの、攻略失敗による死亡の線は、あまり考えていないように見えた。
何を言い出すんだと目配せしてくるユウキに、まぁ任せておいてくれと目線で返し、受付嬢さんに答えを促す。
「……はい。この国の勇者さまには、その証として聖剣が与えられています。その聖剣自身が勇者さまを、主のことを覚えており、その命が失われるまで離れることも、その所有権が失われる事もありません。そんな聖剣自体がこちらへ帰ってこないと言うことは、そう言う事、なのでしょう。ああ、かわいそうなユウキちゃん。きっと今頃、ケダモノな魔王にあんなことやこんなことをっっ!」
悲しみに暮れる仕草をしている割には、何だか興奮している、楽しそうにも聞こえるそんな訴え。
あれ? この感じだとユウキの事を想い心配しているってのは、俺の思い違いだったのかな?
いや、心配しているのは確かなのだろうけど。
日々の暇を、ストレス解消をするためのネタ扱い的な印象を受けてしまう。
「な、なな何だよっ。あんな……ふががっ!?」
しかし、受付嬢さんの言葉をそのまま鵜呑み、受け取ったらしいユウキは、あんなこんなをきっかり想像してしまったらしく。
顔を青く……かと思ったら、真っ赤(俺にははっきりそう見える)にして、オレに何するつもりだよ、なんてつっかかってきそうだったので、俺は慌ててユウキの口を塞いだ。
傍から、そんな肩書き共に見れば魔王が勇者を捕らえ拐かす絵面に見えたかもしれない。
下手なことを口走ることは防げたが、あらあらまぁまぁなどと嬉しげに呟き、顔を赤くしている受付嬢さん。
って言うか、勇者とか魔王とか関係ないって、仲間にしたつもりだったけど、今の状況って受付嬢さんの言う通りなのではなかろうか。
最初は、その聖剣(と見せかけて、識別したてみたら、所謂どこかに捨てても持ち主の元に帰ってくる、どちらかと言うと呪い系の魔剣だった)の、マスター登録を解除して返却することで、ユウキが後腐れなく勇者を辞められるだろうと、軽く考えていたわけだが。
どうやらそう簡単に、うまくはいかないようだ。
もしかしたら、魔王が勇者を捕らえ、糧にする……云々かんぬんは、前例があったのかもしれない。
剣を返してもユウキを探している人はいなくなるとは言い切れなかった。
普通の、他所のダンジョンであるのならば、チャレンジャー大歓迎で来るもの拒まずなのだろうか。
うちのダンジョンは、俺のものであり、ホームであるからしてよそ様に土足で上がり込んで欲しくはないのだ。
つまるところ、ユウキに後腐れなく勇者の権利を手放させる方法を考える一方で、やはりその後新たなる勇者が召喚されないようにする必要がある。
結局、召喚陣的なものを破壊するのが一番手っ取り早いのかな。
正に魔王っぽくてあまり気が乗らないんだけど、当初の予定ではそのつもりではあったしな。
まぁ、俺に目をつけられてしまった時点で、運がなかったと思ってもらおう。
(第26話につづく)
次回は、2月21日更新予定です。




