第23話、ダンジョンマスター、火の星の人と家族になる
「あ、そうだ。思い出したぞ。オレ……じゃくて、この世界に召喚された、歴代の勇者たちって黒髪が多かったらしいぜ。まぁ、そう言うのってだいたい日本人だろうしな。そりゃそうなるんだろうけど」
小声でユウキが言う通り。
今代の、この街……国の勇者が行方不明でざわついている中で。
勇者の証と言っても過言ではないかもしれない黒髪の美少女が、複数現れたと言うわけだ。
こりゃ、もしかしなくても変化する前より面倒なことになるかもしれない。
受付の列に並びつつも、声をかけたそうにしている者達もいるし、これは一旦引いて仕切り直した方がいいだろうか。
「では、次の方!」
なんて思っているうちに、はきはき溌剌とした、きっと間違いなく売れっ子なギルドの受付嬢さんから声がかかった。
そんな人気者とのやり取りで、ある程度は謎の美少女四人組(そのうち二人は男で、二人はマスコット)の人となりが分かるのではと。
聞き耳立てるみたいに、周りのざわつきが静かになって。
「『リングレイン』王国城下冒険者ギルド本部にようこそっ。早速ですが、ご要件をお伺いいたします!」
「……っ」
しかし、改めて面と向かってみると。
何だか随分と明るいというか、むりくり気を吐いているようにも見えた。
さっきまで当然そこにいただろうに、急に現れたかのような存在感の醸しっぷりである。
その勢いに、何か思うところがあったというか、正しくも勇者として魔王(俺)の所に来る前に、顔を合わせたことがあったのだろう。
帰るところなどない、だなんて雰囲気のユウキだったけど。
所謂冒険者ギルドの登録はしていただろうし、橙色の、耳元できっちりと揃えた髪と、ヘアバンドが特徴的な受付嬢な彼女は、帰ってこないユウキを心配していた可能性は高そうな気がしていた。
……こりゃあ、この街に来た目的、少しばかり変更しなくちゃ、かな。
ユウキがこの世界に来てからの、勇者という柵から、どうにかして解き放つことができないものかと思ってたんだが。
こうしてかかわり合いのある人がいるのならば、話は変わってくる。
当初の予定を遂行してたのならば。
結構魔王的で、後腐れだけはなさそうだったんだけど。
まぁ、しょうがないか。
俺は心中でそうまとめると、言葉が出ないでまごまごしているユウキをフォローする形で前に出た。
「ええと、手始めに冒険者ギルドへ登録したいんだ。遠くから来たもんでね。ギルドのカードが身分証になるって聞いたから」
「冒険者登録ですね。かしこまりましたっ。四名全員、初登録でよろしいですか?」
遠くからやってきた、そのうち黒髪が三人。
その辺りのところを突っ込まれるかと思ったが、目の前の仕事を優先することにしたようだ。
根掘り葉掘り聴きたそうにしている(わざとかもしれないが)部分を考慮しなければ、結構優秀な人なのかもしれない。
「はい。四人とも初登録でお願いします」
「……(お、おいっ。オレ初登録じゃないんだぞ、大丈夫かよっ)」
「(いいからいいから、ちょっと任せといて)」
これは言わば、俺が見ることのできない『ランシオン(幻影変化)』のカードの効果が、どれほどのものなのかの実験でもあるのだ。
小声でまぁ見ててよ、とばかりに受付嬢さんが、何やら水晶っぽいものがとっついた魔法道具を何やらポチポチしているのを見守った。
俺の持っているカードや本、薬などは、実は能力の一部で。
厳密ではアイテムではないようなので、それを思えばこの世界における初めて目の当たりにするマジックアイテムなのかもしれない。
「はい、準備できましたよ~。まずは一人ずつ、この水晶に指紋が付くくらいまで、手を置いておいて欲しいのですが」
「……それならぼくが一番手に立候補するよ」
とはいえ、想像の範疇とベタを外れることはなく。
恐らくはその水晶で、カードを作るための個人情報が得られるのだろう。
犯罪歴や賞歴、持っている能力などなど。
果たしてどこまでそれは詳らかにすることができるのか。
『ランシオン』を看破し、既に登録しているはずのユウキを弾くことができるのか。
更には、指紋が無さそうに見えるフェアリのぷにぷにの触手で、いろいろ情報を読み取れるのか。
あるいは、人ではなく魔物であることまで分かってしまうのか。
俺の意思を多分きっと、聡明なフェアリは汲んでくれたのだろう。
毒見というか、自ら先手をかって出てくれたから、チューさんが何だか悔しそうにしていたのが印象的で。
もしこれで、あの水晶つきマジックアイテムが滅茶苦茶優秀で、何もかも看破できたのならば逃げ出しちゃえばいい。
そのための『リィリ(紛転移)』の薬(ランダム転移ができる)や、その効果を内在している腕輪があるのだから。
物事において、常に最悪を想定し先を読む。
ダンジョン踏破の鉄則だな。
(とはいえ必ずしも踏破出来るとは言ってない)
そんな事を内心考えつつ。
後ろに回しポケットに隠した手で、薬を出す準備をして。
ドキドキしながらフェアリの結果を待っていると。
「はい。特に問題はありませんね。Fランクの『鉄』カードです。どうぞお受け取りください。あ、後名前は書いておいてくださいね。そこに書くものがありますから」
「ありがとう」
随分あっさりと言うか、魔物だと気取られる気配すらなく。
錆色の鉄っぽいカードが、水晶の下の台座らしきところからにゅるっと出てくる。
「お次はわしの番じゃな」
「はいっ、どうぞ」
何せチューさんはダンジョンコアであったから、色々なことが初体験で。
ちょっと緊張気味に恐る恐る、そのむくむくの手を水晶に触れさせた。
受付嬢さんがそれを微笑ましく見守っているうちに。
一つ断りを入れてから、フェアリのできたてほやほやのカードを覗き見る。
カードには、鉄から鋼鉄、銅、青銅、、銀、白銀、金、純金、金剛石)の八段階からなる色があるらしい。
フェアリのカードは、当然鉄のレベル1であった。
どうやらそのレベルが、依頼を重ねて行って10まで行けば、次の色に上がれるらしい。
本人の70近いレベルやステータスなどは載ってはおらず、報償と犯罪歴は『なし』になっていて。
名前は記入されてはいたが。
得意なもの……職業、特技が書かれるだろう場所が空いていた。
どうもそのあたりは、自己申告の自己記入らしい。
「……」
そんな俺に特に何かを言うわけでもなかったが。
何だかとっても嬉しそうに、もくもくと名前欄のところに、フェアリ・イケモリと書いているのフェアリに対し、どんなリアクションをすべきかと苦笑せざるを得なかったけれど。
俺の事をある意味家族であると思ってくれてるんだなって、恥ずかしくもあったけれども。
何だかこっちも嬉しかったから。
俺の苗字を書き終えて(あの触手で実に綺麗に書けるもんだなって感心していた)ドヤ顔っぽい流し目を向けてくるフェアリに、笑顔で頷く俺がいて……。
(第24話につづく)
次回は、2月16日更新予定です。




