第22話、魔王に状態異常が効かないと言ったな、それは気の持ちようだ
……そんなわけで。
『ランシオン(幻影変化)』のカードを自身に貼り付けつつ。
確認のために丸っこい備え付けの鏡の前へとやって来たわけだが。
「うーん。やっぱり俺のままかぁ」
見えないものが見えるようになる『アロイオン(千里眼薬)』の薬を使えば、変わった様子が分かるんだろうか。
しかしそれこそ、ダンジョンで重用する薬であるからして、こんな不確定なことには使えないだろうと自重する。
とはいえ、誰に変わってしまったのかも分からないので。
さっさと戻ってさっさとみんなに確認してもらうことにした。
幸いにも、トイレから出るまでには誰にも会うことはなく。
みんなを探すと、受付の列の一つに並んでいる、桜色の髪の少女と小動物系二人を発見したので、席を取っておいてくれてありがとう、とばかりに彼女たちと合流する。
「おまたせ。ちょっとどう(変わった)なったか、確認して欲しいんだけど」
ここに来るまで、それなりに注目されているのは分かってたけれど。
モンスターを見るようなものではなかったので、特に問題はないのかなって思ってたんだけど……。
「え? えっと。何ですか?」
いかにも、見知らぬ人にいきなり横入りされて困っている風のユウキ。
確かに、ついて出た声は俺と似ても似つかないものだったけど、そんなに変わり果てしまったのかと首を傾げていると、何故だか無言のまま近づいて来るフェアリ。
「……この感じ、もしかしてご主人かい?」
「むむむ? ちょっとまっておれ」
フェアリは俺に気がついてくれらようだけど、何だか半信半疑のようで。
そこまできて、そう言えば俺には『ランシオン』のカードも聞かなかったんじゃなかったのではと、思い出す。
まぁ、そんな耐性を弾きかいくぐる方法があるにはあるんだけど。
今回は特に意識せずに普通に使ったし、じゃあ今のこの状況は何なのよって首を傾げていると。
チューさんがととっと近づいてきて、ふところに飛び込んでくる。
俺がそんなチューさんに対し、どんとこいとばかりに抱きしめ返すと。
何故か起こる、やんやの喝采。
そんな周りの反応に戸惑っていると、更にチューさんがとんでもないことを口にした。
「うむ。この感じ、間違いなく主じゃな。……いや、しかし。なんとまぁ、随分と変わったのう。主の故郷の連れ合いかの?」
「兄妹じゃないのかな。同じ綺麗な黒髪だし」
「いやぁ、ビビった。なんだ、ジエンかよ。確かにフェアリさんと姉妹って言われても納得できるかもな」
それぞれが、話の論点が少しづづズレていたのだが。
矢継ぎ早にそう言われた当の俺はそれどころではなくなっていた。
俺には見えないから分からないけど、それってつまり何故かきかないはずの『ランシオン』のカードが効いて、何故かみんなも知らない他のテイムモンスターでもない、見知らぬ黒髪美少女に変わってしまった、と言うことなのだから。
「つれあいって、おい。俺にそんな娘がいるわけないでしょに。きょうだいだっていないし。フェアリに似てるのか? だったらヴェノンやシラユキとかじゃないのか? っていうか、フェアリも含めてさも人型を知っている体で話してるけど、人型をとれることすら知らなかったというか、見たこともないんですけども」
なんて言いつつも、フェアリが黒髪おさげの凄絶に儚げで真面目一辺倒な性格をしているだろうってことに違和感はなかったわけだけど。
何故か当のフェアリがいや、そんなことないよ、とばかりに首を振るではないか。
「何言ってるのさ。確かにのんはぼくの妹そのものではあるけれど、血が繋がっているわけじゃないからね。見た目としてはそんなには似てないかな」
「ええと、つまり……誰なんだ? すっごく緊張してかしこまっちゃうんだけど」
見た目の割に、ユウキも女の子に縁がなかったようだ。
どうやら、今の俺の姿は近寄りがたい美人のようで、言葉通り借りてきたねこのようになっているのが分かる。
「う~ん、誰だ? ほかのメンバーじゃないんだろう? っていうかそもそもみんなが人型になれるの初耳なんだけど。ああ、でも普通に考えればこの町にいる誰かなんだろうけどさ」
「言われてみれば人化できると、口にしたことはなかったかのう」
「……言う言わない以前の問題なんだけどなぁ」
チューさんは何だかとってもしみじみと。
ユウキは独り言だったのか、聞こえるか聞こえないかの声で。
やはり、『デ・イフラ(幻惑混乱)』のカードや『ランシオン』のカードによる変わりようが分からない俺に問題があるようだ。
単純に耐性があってよかった、ではすまないのだろう。
何故か、はっきりとそれに対しての問題点は教えてもらえず、お茶を濁してくるカンジだけど。
これが続くようなら、何かしら対策を取るべきなのかもしれない、なんて内心でまとめつつも。
手始めに、カムラルの腕輪に見えないものが見えるようになる、『アロイオン』の薬を『ポッジズ(錬金融合)』のバッグを使って付与してみるか、なんて思い至った時であった。
「……誰かと言われると、チューさんに似ていないかい?」
「確かに。この世界に基本黒髪って珍しいらしいからな。こうしてみると、三姉妹ですって言われても違和感ないかも」
「ほほ、姉妹とな。まぁ、主とは一心同体じゃからの、悪い気はせんわい」
俺にはドヤ顔でふんすと鼻をならす、ふっくらもこもこのテンジクネズミなチューさんと。
すまし顔で触手をばたばたさせるフェアリ。
そして、典型的な異世界、創作でしかありえないような、桜色ポニーテールなタイプなユウキしか見えてないわけだけど。
彼女たちだけでなく、周りの人たちも、俺以外はユウキが言うようにしか見えなかったらしい。
所謂、この世の珍しいとされる黒髪の三姉妹(誰が長女で真ん中で末っ子なのかは議論が必要なのかもしれない)が。
冒険者ギルドのほぼ真ん中に集まったことで、相当な注目を浴びてしまっているようだ。
なんとはなしに、周りのざわめきを注視していると。
黒髪がただただ珍しいから、というだけではなさそうではあるが……。
(第23話につづく)
次回は、2月13日更新予定です。




