第215話、ダンジョンマスター、ダンジョン愛ならぬ火の星の人愛を語る
余談ではあるが。
うちの『SHOP』では、異世界産の品々の中に『やんごとなき存在が装備できなかった』シリーズが存在する。
それは、呪われていたりとか、属性や職業が合わないから、などではなく。
女性である事を隠し、男性として生きたいお姫様、あるいは女神さまが。
可愛すぎるからであったり、明らかに女性専用であるからと敬遠し、どこぞの倉庫に埋もれてしまった逸品たちで。
フェアリたちの当たり前の受け入れようと言うか、俺だけ仲間外れである事に違和感がないのは。
そんなお姫様のように、そうあらねばならぬ理由がユウキにもあって、フェアリたちはそれを分かった上で特段気にする事なく受け入れているからなのだろう。
そうであるのならば、俺だけ気にしている訳にもいくまいと。
ユウキ自身から語りたいと思う時まで待つ事にして。
気を取り直し、フェアリに本題……続きを促す事にする。
「それで、フェアリはユウキの説得、抜け出してまで何か俺に話したい事があったんだろう?」
「うん。そうだね。きっとご主人さまはこれからもっとたくさんの子たちを救いあげていくんだろうし、
今のうちに感謝の気持ちを伝えておかなきゃって思ったんだ」
なによいきなり改まって、とは思ったけれど。
フェアリにとってみれば今このタイミングこそがベストだったんだろう。
ただ頷き、わくどきしつつ待っていると。
フェアリはひとつ笑みをこぼして。
「もしかしたらもう、のんに聞いているのかもしれないけど、ぼくは故郷で少し、ううん。ぼくにとっては大きすぎるくらいの責任を負う立場だったんだ。もちろん、その時はそれが当たり前だと思っていたし、のんたち家族、仲間を守り後ろから支えることを誇りに思っていたよ。……ご主人さまやチュートがぼくの前に現れて、そんな凝り固まった考えとか、色んなものを壊してくれるまではね」
チューさんがスカウトして、俺がテイム契約する前のフェアリ。
のん……ヴェノンには、『のんたちみんなのお姉ちゃんでお母さん』であると。
スカウトしたチューさんには、ダンジョンバトルが常態化している世界における軍団長の一人であったと聞かされていた。
それだけならよくそんな偉い人をスカウトできたなあってなるんだけど。
よくよく話を聞いたと言うか、ヴェノンとのダンジョン攻略の際に知ることができたフェアリたちの故郷の記憶によると。
結構な数のダンジョンマスターに類する存在がいたのだけど、その全てがダンジョンバトルを含めた諸々を、フェアリたち現場の人間、探索者……あるいは勇者や魔王に任せっきりで。
マスターがダンジョンに潜ることなど全くなかったと言うではないか。
チューさん曰く、本来ならばそれが真っ当なんじゃがの、なんてぼやいていたけれど。
そんな世界にいるくらいならこっちゃこいと。
うちに来てくれぬかとスカウトしてくれたチューさんとっても素敵ですなどと思わずにはいられないわけで。
「本当になぁ。チューさん良い仕事をしてくれたよ」
「ふふ。もちろんチュートにも感謝しているけれど。ぼくは改めてご主人さまに感謝の気持ちを伝えたいんだ。こんな後ろで控えていることしかできないぼくを必要だって言ってくれてありがとうって」
「ちょっとちょっとそれはこっちにセリフだって! ほら、フェアリと本契約するために何度もダンジョンに会いにいっただろう? それだってフェアリにはなんとしてでも我が軍に加わって欲しいって思ったからなんだ。後方待機しているだけだなんてとんでもない! 初めて会った時なんてやばっ、なんてダンジョン愛の強い子がいるんだって思ったもの。世にも珍しき『火の星の人』……カムラル・リカバー・スライム。無尽蔵に扱える魔力と、走攻守揃った、ダンジョンギミックやトラップにも対応できる触手。それだけでも十分すぎると言うのに、そもそもが我らがマイダンジョンはぶっちゃけて言ってしまえばリカバー・スライムが、フェアリが攻略のために必須と言いますか、いないと完全攻略なんて不可能中の不可能なんだからぁ!!」
普段からそんな儚い台詞が似合い、雰囲気を持っているフェアリだったから。
何だか俺たちの元を離れてどこかへ行ってしまいそうな感じがしたので。
それはもう必死になってフェアリが俺にとってなくてはならない存在である事を訴える。
そんな俺の剣幕に、夕空色の澄んだ瞳を瞬かせた後、また笑ってくれて。
「ふふふ。そんな風に思っていてくれていたんだね。運のない【火】の星の人生だとばかり思っていたけど、そうじゃなかったんだ」
それは、先程話題に上ったフェアリたちの故郷の名前だけでなく、『装備できなかった』シリーズのお姫様の名前。
なんとはなしに思い起こせば、とっても納得できるものはあったわけだけど。
「でも、うん。ぼくには……のんにも言ってなかったんだけど【火】と【金】の長としての力があるんだ。ダンジョンにて失われてしまった子たちを、蘇らせ呼び出してしまうっていうただしくの……」
「なんだってぇえ!? そんな召喚魔法を!? フェアリ個人が召喚ギミックを扱えるってことなの!? ハナからそんな気なんて毛頭なかったけれども、ますますフェアリをよそにやるわけにはいかなくなったじゃないか! ……いや、ついていると言った手前申し訳ないが、うちはひとたび本契約を交わしたのならば終身雇用ですから! 辞めたいって言っても辞められませんから! ってかそのまま気絶しちゃうの覚悟で引き止めるぞ! 引き止めちゃうよ!!」
「わ、わぁっ……え、ええと。その、はじめからそんなつもり全然なかったんだけど……ふふ、嬉しいな。
ご主人さまから抱きしめてもらえるなんて、ぼくが初めてなんじゃないかな」
言質を取ったぞ、とばかりに。
本当に申し訳ないけど、フェアリと離れたくない一心でそんな事をのたまいつつ。
ブラックアウトなど構っていられるかと、フェアリを必死にひっしと捕まえていると。
「ふふ。だったら……うん。ぼくのほうからも。ご主人さまがいやだって言ったって離さないから、ね」
「がっはぁっ!?」
あろう事か、フェアリの方から抱きしめてくる力が、より一層強くなっていって……。
(第216話につづく)
次回は、5月17日更新予定です。




