第205話、魔王、魔神のふりをして至高の魔法使いの願いをきく
これは後々に聞かされた事だけど。
どうやらルシィさんは、こちらが彼女の素性に気づいていたように。
飛ぶ鳥を落とす勢いで極ダンジョンを攻略していっているメンツである事に気づいていたらしい。
ルシィさんとしては、この学園や教会の総本山である『盛淑のカムラルシア』のダンジョンコアとして、決死の思いで俺たちに話しかけてきた、とのことで。
探索者である勇者はともかくとして。
ここまで一向に魔王、ダンジョンマスターが姿を見せなかったのは。
学園の生徒としての一番に君臨する魔王を未だ決めかねていて。
その候補の人たちはもしもの時俺たちがこのダンジョン、ダンジョンコアを滅するなどといった行動に出た時のために一旦離れてもらっていたようだ。
しかし、そんな俺たちはダンジョンそのものを楽しみたいだけでダンジョンコアをどうこうするつもりなんてなかったわけだけど。
どうやらその候補の皆さんの中に、ダリアの元マスターと勇者がいて。
何も言わずに置いてきてしまったから怒られると言うか、復讐されると思っていたようで。
だけど当のダリアは、もうとっくの間に吹っ切れていたようで。
随分とさっぱりあっさりした様子でエピソードの一つも生まれる事はなく。
むしろ行方不明になっていた彼らがこうして運良く生きてダンジョン探索に勤しんでいたことを喜んでいたくらいで。
一方のスーイは、比較的この『盛淑のカムラルシア』へ通う事の多かった、俺やピプルやダリアにユウキとチューさんを加えて。
改めてこの『盛淑のカムラルシア』と呼ばれる極ダンジョン内でパーティーを組み、ルシィさんたちパーティーに神具……じゃなかった、マジックアイテム、スキルが十全に使え装備できるノウハウを教えながら、学園生活を存分に楽しみ、文字通り切磋琢磨していた。
思い起こすと、『リングレイン』の探索者たちが装備したり使ったりできていなかったから。
身内ばかりが仕えるものだとばかりに思っていたけど。
スーイからの学びを得てルシィさんだけでなく魔王候補の幾人かが本やカードを使えるようになっていたので。
必ずしもそう言うわけでもなかったんだろう。
俺自身、『リングレイン』の探索者たちと、『盛淑のカムラルシア』の学園生徒たちでは何が違ったのかよく分からなかったけれど。
しっかり先生をしていたスーイには、その違いが分かるらしい。
それを聞いてもいいものかどうか、悩みつつも。
同じく充実したダンジョン学園生活を送っていって……。
それは、ダンジョンバトル大会トーナメントの決勝前。
相手はルシィさんを中心としたパーティーで。
見事、こちらはスーイを中心とした俺たちパーティーがいよいよもって最後の一大イベントへと望む少々前のことである。
俺が伺ってもいいかどうか悩んでいた事にもばっちり気づいていたらしいスーイに呼び出させる事となった決勝前日の放課後。
人気のないサロン、他のみんなは気を使ったのか、席を外していて。
「いよいよもって決勝かぁ。学園生活も終わりが近いと思うと、さすがに少し寂しいわね」
「ま、卒業しても顔を出していいって言われたからな。ここへ来たくなったらまた来ればいいんだけど。それにしてもスーイ、ここで随分と新しい魔法を覚えたよな。もう間違いなく、スーイは大魔導士、至高の魔法使いだよな」
「ふふ。ありがとう。それもこれもマスターのおかげよ。マスターがここに連れてきてくれて、学ばせてくれたからこそ今のわたしがあるの……ううん、それよりももっと前、マスター、あなたと出会えたから今のわたしがあるんだって言っても過言じゃないわね。ダンジョンの神さまであるあなたがわたしを見つけてくれたから」
「おーいおい、またそれかい。俺は一介のダンジョンマスターにすぎないんだって、それを言うならチューさんでしょう」
「そうかしら。だってダンジョンから生まれ落ちているアイテム魔道具……魔法ってそもそもが全てマスター、あなたのために用意されたものじゃない。わたしたちは、それを使わせてもらっているにすぎない、そうでしょう?」
何よりも、ダンジョンの魔法が好きで、貪欲に学び分からない事は分かるまで努力しようとする。
そんなスーイであるからこその魔法を含めたダンジョンの根源に関わるであろう問いかけ。
いいえ、違いますけれど。
ただのダンジョン狂いで大好きな一般人ですけれど。
なんて答えはスーイも望んではいないのだろう。
「くっくっく。そこまで証拠を挙げられたのならばもうこれ以上誤魔化すのもナンセンスか。スーイの言う通りワレあダンジョンすべての魔王をまとめる王の中の王にしてダンジョンを統べる神、いわば魔神たる存在よ。ワレの正体にまで、ダンジョンに依る研鑽の果てに辿り着いたスーイには、望むままの願いを叶える権利があるが…… スーイはワレに何を望む?」
「そう言うのはいいから……って、いいたいところだけど」
俺の突然の魔王化に、そのネタはもう飽きたわ、とばかりにジト目を向けてくるスーイ。
だけどそれがマスターなんだから仕方がないわよね、とばかりに笑ってくれて。
「これからダンジョンバトルトーナメントの決勝でしょう。同じパーティーメンバーではあるけれど、望むことっていうなら、そうやって一番近くで、たくさんわたしのことを見ていてちょうだい。わたしがこの世界の誰よりもあなたの魔法を、あなたがくれた魔法をうまく素敵に格好よくつかってみせるんだから」
「おお。それはとってもとっても楽しみだなぁ」
故にこそ。
せめて、そんなスーイが優勝の証となる盃を掲げるその瞬間まで。
余りにも近くで見すぎて意識失う事のないよう。
この目にしっかり焼き付けなければ、なんて思っていて……。
(第206話につづく)




