第20話、ダンジョンマスター、幻惑系統が効かぬというより、現実に目を逸らして
外界と街の間にそびえるは円形の……10メートルはあろうかという石壁。
ぱっと見て反対側が見えないのを考えるに、俺が思っていたよりもかなり大きな街のようだ。
見える範囲だけでも三つ、アーチ状にくり抜かれた入口があり、でも結構並んでいて、そのうちの一つで早く来いとばかりにユウキが手招きをしていた。
他の人にぶつからないように、見た目テンジクネズミ&火星人の後を追いかけるようにして、その場に辿り着くと、前の人達が団体さんだったようで、直ぐに俺達の番が回ってきた。
「三人か。……冒険者か? 学生か? カードを提示してくれ」
一目で兵隊さんだとわかる、軽鎧姿の槍持ち門番さん。
あまり表情を変える事なく、俺に気づいた様子もなく、ぶっきらぼうにそう言い放つ。
「カードは……あ、そっか。ええと、冒険者になるためにここへきました。だからその、カードは持ってません」
勇者としてダンジョンを攻略するためにあたって、ユウキはギルド登録していて、カードも持ってたんだろう。
ある意味お約束の一幕に、一瞬カードを出しかけたユウキだったが。
はっとなって気を取り直し、やっぱりベタなそんな言葉を口にする。
「……そうか。では通行料として、一人3ドローいただこう。ギルドへ行き、カードを作り、戻ってこちらに提示すれば返金しよう」
「あ、はい。9ドローでいいですよね」
ユウキはちょっとこち見てあたふたしつつ、出発の際に用意していた(チューさんが)ドローと言う名の銅色のコインを9枚、門番さんに手渡した。
そんな一連の動きが怪しい事この上なくて、訝しげな表情を見せる門番さん。
ああ、嘘を付けないタイプなんだな。
なんて納得していると、フォローするみたいに二本足で立ち上がった……ように見えるチューさんが口を開いた。
「のう、ところでつかぬことをお聞きするが、何やら国の兵隊さんたちが騒がしい様子じゃが、何かあったのかの?」
「ん? ああ。新しいダンジョンが出現したらしく、その攻略者たち……勇者一行が帰ってきたんだがな。どうやら攻略に失敗したらしい。詳しい事はよく知らんが、肝心の勇者が行方不明になったようだな」
いかめしい顔はしているが、それほど大事でもない、そんな雰囲気の門番さん。
「新しい勇者を呼ぼうにも死体も聖剣も見つかってないようでな。上も焦ってんだろう。もたもたしていたら、他の国に出し抜かれるぞってな。ま、下っ端のオレらにはあまり関係ない話だけどな。……よし、確かに9ドローあるな。冒険者ギルドでカードを作ったらまた来てくれ。返金する。ま、オレらとしては忘れてくれてもいいけどな。ポケットマネーになるし」
行方不明の勇者。
帰ってこない聖剣。
その二つとも、本来の自分に変わっている(らしい)ユウキや、『異世界への寂蒔』における縛りプレイの効かなかった剣の存在も、門番さんは気づいていないようであった。
しかも、彼はその事を特に重くは考えていない様子。
勇者などと呼ばれてはいても、この国のものでもないし、召喚した上の者など、一部の人達しかその素性を知らないのかもしれない。
そして、やはり予想していた通り、他所の国にも勇者的存在はいるようで、事情の知らない……ここで暮らす人にとってみれば、対岸の火事で。
ダンジョンに挑戦し、命を賭け、魔王を討たんとすることは、遠い世界の話なのかもしれなくて。
「ふむ、通行税のようなものはないのじゃな」
「住民登録すりゃあ、住民税が取られるからな。旅人、冒険者、商人とかはギルドの方が取るもの取ってるし、これ以上搾り取られたらたまらんよ」
この町の勇者が、町の人たちにとってあまり重要な存在ではなかったのだと悟ったのだろう。
騒ぎになっているのも問題だが、ここまで肩透かしを食らうと今までの頑張りはなんだったのか、なんて考えているに違いない、見た目以上に凹んでいるユウキを。
フェアリが語らずも慰めている間に、チューさんが門番さんの相手をしていた。
元々気さくなのか、聞けばいろいろ説明してくれそうな雰囲気。
そのまま、鬼畜魔王コンボで送り返した男たちがどうなったのかを聞き出すように目配せ。
それに、チューさんは少し考える仕草をした後、益体のない雑談を続けるかのごとく、確信をつかんと口を開いた。
「ああ、そういえば。ついぞ前に結構な勢いで町から出てきた一団がおったが、それも勇者関連かえ?」
「おお、あの騎士団たちか。どうも結構上の位の……伯爵だったかな。そこのドラ……子息が、ダンジョンアタックに失敗して、気をやった状態で戻ってきたみたいでな、魔王に呪いをかけられたんじゃないかって、もっぱらの噂だぜ。とにもかくにも話が通じなくて錯乱しているから、王城の地下に幽閉されてるって話だ」
「……ふむ、呪いか。それはなんとも、おそろしい話じゃのう?」
「ま、魔王のダンジョンなんざ、勇者とそのパーティ……従者にしかアタックの許可は出ないってハナシだからな。近づかなけりゃ大丈夫だろ」
呪い……自分でやっておいてなんだけど、言い得て妙かもな。
『デ・イフラ(幻惑混乱)』のカードはともかく、『イロトラン(硬化不動)』の薬はそれほど長続きしないはずで。
『イロトラン』の薬の効力が解けた状態だと、『デ・イフラ』のカードを受けたものは、所謂『混乱』状態になる。
『デ・イフラ』のカードの効果自体は、その場にいたものにしか効かないし、どうやって町に帰ってきたのかは想像したくもないが、周りは本当に大変だったに違いない。
まさに魔王の所業だな。
とはいえ、『デ・イフラ』のカードも、他のカードよりは効果時間が長いとはいえ、いい加減効力が切れている頃合だろう。
その後に一体どんな反応をするか。
やっぱり知りたくもないので、こうして変装したり消えてみせたりしているわけなんだけど。
「いろいろ親切にどうもなのじゃ。冒険者の登録をしたらまた来るぞい。……ま、くれてやった金はチップでもいいんじゃがの」
「いいってことよ。これも仕事だ。チップとしてくれるってんなら喜んでもらっておくけどな。……ふって沸いた金だ。いいレストラン知ってるし、おごってやるぞ」
「ほほ、機会があればの」
お世辞でもそんなことを言われ、上機嫌にお断りを入れるチューさん。
やけに親切……人あたりがいいと思ったら、チューさんたちをナンパでもするつもりだったのかな。
はは、いや、まさか。
そりゃ、マスコット的な意味でめっちゃかわいいんだけどさ。
っていうか、すげなくかわして先へ急ぐチューさんのもこもこげっ歯類の背中が。
背伸びして微笑ましくどや顔を浮かべている、ツインテールの少女の見えたのは。
はたして幻だったのか……見えないはずの、『ランシオン(幻影変化)』のカードで変化したチューさんの姿だったのか。
ごしごし目を擦って二度見すれば。
そこには最近やっぱりちょっと横も縦も増してきて、テンジクネズミと言うよりカピバラっぽくなってきてる、茶色まんまるもこもこの背中が見えたから、まぁ気のせいだとは思うんだけど……。
(第21話につづく)
次回は、2月7日更新予定です。




