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第2話、ダンジョンマスター(まおう)となって、マイダンジョンを楽しみ尽くす




 チュートリアルさん(念願の『ふところマスコット』と成った事で、チューさんと呼ぶことになった)によると。

ダンジョンの王(魔王)の想像力により、ダンジョンは作られるのだが。

レベルによって制限があり、レベル1である最初は出来ることが限られているとのことで。

あんなに声高に宣言しておきながら、俺がまずしたことは、ダンジョンの入口を塞ぐ事だった。

 

 


「一体何故、そのような事を?」

「そりゃ、俺一人で楽しみたいからさ」

 

戻れないと言うか俺の意図を知ってテンジクネズミのふところマスコットである事を納得してくれたチューさんの、上目遣いくりくりな当然の疑問に。

もし実際ダンジョンに潜れる機会が訪れたのなら、してみたかったシチュエーションを語りだす。

 


『WIND OF TRIAL』は、エンドロール前ならダンジョンアタックの際に仲間がついてきてくれるのだが。

エンドロール後の隠しダンジョンともなると、そうはいかなくなってくる。


特に何をしてくれるわけでもないが、癒しの存在……ふところマスコットのチューさんを除けば、ひたすら孤独との戦いになるのだ。

さらに、レベルは1から、ダンジョン内で入手できるアイテムは、全てが一度使ってみないと効果の分からない鬼仕様。

出てくるモンスターも強めで、プレイヤーレベルが高くなければすぐにやられてしまう。

当然、一度失敗すれば、それまでに得たアイテムもレベル上げのための経験値もスキルも何もかも失って最初からやり直しになる。

まぁ、一度失敗しても何度もやり直せる事を考えると、温いと言うかまさにダンジョンを楽しむためだめに、といった感じだが……。


 

「むぅ。しかしそれだと一向に強くなれぬではないか」


お主がレベルを上げねば、ダンジョンの進化もできぬとは、チューさんの弁。

俺は、その言葉を待ってましたとばかりに一つ頷いて。


「確かに、一度失敗するとレベルは下がるけど、やばくなったら脱出系アイテムを使えばいいのさ。

それに……ここ以外のダンジョンなら、一度上がったレベルは下がらないんだよね」

「それは、つまり……」


俺のしたいことに気づいたのか、そうでないのか。

黙り込んで考え込むチューさん。

俺は、その言葉を繋げるようにして。


「実際やって見れば分かるよ。ここで見ていて」

 

ドヤ顔というか、ワクワクが止まらない自分を自覚しながら。

自身の懐を指し示し、今度こそ俺は、俺だけのために創造した。

『異世界への寂蒔』へと足を踏み入れるのだった……。






                ※      ※      ※





入るぞ入るぞと何度も天丼しておいてなんだが。

俺たちが今いるのは、厳密に言えば『異世界への寂蒔』ではない。

『気が済むまでひとしきり』ダンジョンに潜り続けた後、一息つくためにやってきたのは、『ホーム』と呼ばれる場所だった。



ダンジョン内で一度倒れる(ゲームで言う死、攻略失敗)と、入口に戻される。

その引き換え、駄賃としてダンジョンにレベルやアイテムを徴収される。

 

と言うのが『異世界への寂蒔』における俺が創造した基本の事なのだが。

ダンジョン外に脱出できればその限りではないということで、俺は最下層に、『異世界への寂蒔』とは別物の『ホーム』と呼ばれる階層を作った。

 そこは、倉庫でもあり寝床でもあり、それ以外にも客室やら鍛錬場やら風呂やら、様々なものが存在する(一部予定)。

 

 


 「……魔王自身がダンジョンを攻略するとは、めちゃくちゃじゃの」


 呆れ果て疲れ果て、声色に老成すら感じられるチューさんの呟きが、広くなった『ホーム』に響き渡る。


確実に上がっているレベル、ステータス、手に入れたアイテムを眺め悦に入ったり。

凡ミスで欲しかったアイテムを持ち帰ることができなかったり。

どんなに強くなって、うまくいっていても失敗する時は失敗するし、死ぬ時は死ぬ。


そんな人生の縮図? のような……だけど繰り返す事のできる理不尽さに夢中になっていると。 

気づけば最初の目標であるダンジョンアタック『千回』を超えていた。 


正確に数える事1017回目。

目標の達成。

即ち飽きてくる……じゃなかった。

一体どれほど強くなったのか、レベルが下がったりアイテムがなくなったりしない、所謂エンドロール前のフツーのダンジョンに挑戦したい、そんな気分になってきた俺がいるわけで。  



「よし、チューさん。ふつうのダンジョンに連れて行ってくれ」


無双しちゃうぜ~とばかりに両肩をぐるぐる回していると、しかし心底呆れ切ったような冷たい声が返ってくる。

なんていうか、至近距離の可愛い声って、ゾクゾクするよね。

癖には……ならない方がいいんだろうけど。



「何を言い出すかと思えば、ダンジョンの基本設定なんぞおいそれと変えられるわけなかろう」

 

俺が千回も挑戦したからなのだろう。

むちむち、もこもこまん丸になって、このまま懐に入らなくなってしまいそうな勢いである。

つまるところいい思いをしているはずなのに、なんともつれないではないか。

 


「なんじゃ、あれだけ息巻いておいて飽きたのか?」

「いや。そういうわけじゃ無きにしも非ずなんだけどさ。どれだけ強くなってるのか確かめたいってのも醍醐味の一つだし」

 

図星……だとは思いたくない。

ほ、ほら、よくあるだろ。

一番の大好物ばっかり食べてりゃいいってもんじゃないってことさ。

 

実際、千回遊んだら今までも同じ行動してたし、なんて言い訳をしていると。

チューさんは人間みたいに一つため息ついて。


「自らの力を測りたいのならば、魔王としての本懐を果たせばよいではないか」

「魔王としての本懐?」

「やはり忘れておったか。このダンジョンに挑戦する探索者を、冒険者を、あるいは我らを討たんとする勇者を呼び込み、募るのじゃ。退屈などと言ってられんぞ」


俺の懐から飛び出し、殺風景だからと自室に用意した丸テーブルの上に乗っかり、期待に満ち満ちたつぶらな瞳で見上げてくる。

計算し尽くされたその可愛さに心が揺れそうになるが、それを茶白のふかふか毛並みをわしゃわしゃする事で回避する。



「な、なんじゃあ。毛づくろいするなら、ちゃんとせぇ」

「うーん。そうは言っても、折角創ったの人にやらせるのもな」


チューさんの言葉通り、本格的にブラッシングを開始しながらひまつ……もとい、気分転換を模索する。

うんうん唸りながら、しっかりきっかりブラッシングを終えた頃、俺に天啓が降りてくる。



「あ、そうだよ。外から人が入ってくるってことは、外にフィールド……世界があるってことじゃん。よし、まずは外に出てみよう」

「そ、それはっ……て、あ、これっ」


所謂中断してダンジョンから外に出るってやつだな。

思い立ったが吉日。

まだ何やら言いたそうにしているチューさんをむんずと掴み懐に入れると。

早速外に出るための装備とアイテムの準備をすることにして……。



   (第3話につづく)







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