第191話、ダンジョンマスター、ついぞ叶う事のなかった夢叶え乗って
「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです。そして、わたくしにダンジョンの秘密を教えてくださってありがとうございます」
「秘密って言うか……うん、まあそうだな。どういたしましてって言っておこうか」
そんな秘密、ネタバレは少なからずマイダンジョンにおける緊張感を無くしてしまうのかもしれない。
だけどさみしがり屋で家族思いのエルヴァが憂い沈んでいるよりはずっといいだろう。
同じく俺も食べ終えて。
残る階層を攻略をするためにと気合いを入れ直す。
「それじゃあ行こうか。もうひと頑張りだ」
「はい。参りましょう。よろしければ背中にお乗りになられますか? 今までは馬車を引くばかりでしたが、本当ばわたくし、そちらの方が性にあっているみたいなのです。此度の攻略でご主人さまに背中に乗っていただいた事で確信したのですけれど」
「いいね、せっかくだ。さくっと駆け抜けて攻略してしまおうじゃないか」
「それでは、ご主人さま、背中へどうぞ」
「よっし……って! 『人型』のままじゃないかっ。それはまずいって! 気絶するするしない以前に絵面がたいへんな事になるでしょうがっ」
「ふふふ。わたくしはこのままでも構いませんけれど」
「いやいやいやっ。せめて逆でしょう! やや、それもあかん! どっちにしろ気絶してしまううぅっ!」
今まではどこか一線を引いている様子だったエルヴァだったけれど。
今回のマイダンジョン攻略により、他のみんなのように俺の一向に治る気配の見せない弱点をつく冗談を言ってくれるようになったようで。
いや、うん。冗談ですよね? などと戦々恐々しつつ何とか『獣型』になってもらって騎乗する事を許してもらって。
遠路遥遥よくもまあと手前味噌ながら思ってしまうくらいには、ようやっと辿り着いたのは。
俺自身単独でもそう辿り着けるものではない、マイダンジョン……『異世界への寂蒔』、90階。
「おお、珍しい。変則的6分の一フロア……いや、もしかしてこんなナリでワンフロアなのか?」
「すごい数の枝分かれした道ですねえ」
「ひいふう……15、いや16はあるか。多くの場合、通路を抜けた先は迷路になっているものだけど……
っと、こう言う時こそ素振りを忘れないようにしないと」
そんないいわけめいた言葉を口にしながらモンスター、魔物魔精霊の姿もなかったので。
一歩一歩と進んでもらいつつ、目の前に見えるほとんど壁の役割を成していない歯抜けの場所までやってくると。
案の定、その道へ入る前1マスぶんに罠らしき魔法陣が現れて。
「んん? これほんとに罠か? 魔法陣型の『バネ』だろうか。ちょっと調べてみるよ」
そう言って一旦エルヴァの背中から降りて、『ディセメ(識別解析)』を使いつつ調べてみることにする。
「む、これ。罠って言うよりダンジョンギミックだな。取り敢えず破壊は不可能ってことで。どうやら魔力を通すことで何かしら発動するみたいだ」
見た感じ、嫌な感じはしないので、あるいはこの階層を本格的に『はじめる』ためのスイッチなのかもしれない。
もっと詳しく調べるには実際に魔力を通してみる必要があるな、なんて思っていると……。
「これは……っ」
そんな心内を汲んでくれたのか。
エルヴァはそう呟いたかと思うと、ふらりと止める暇もあらばこそ。
一歩、魔法陣……一番左端にあったところへと踏み出してしまう。
―――識別、ログ。
参加者、一名確認。
『ファンタジア・パルクール』、起動します。
「え? なんだって? ……っ! 召喚トラップだと!?」
正しくエルヴァが一歩踏み出し魔法陣内に入ったことで。
15あった通路に現れた魔法陣が、一斉に起動。
『万能得』のキラキラエフェクトが吹き上がったかと思うと、次々よ現れし召喚されし者達。
「ふははぁ! わしをおいてエルヴァと楽しもうなどと片腹痛いわあ!
主どのの能力を参考にしてこっそりつくったわし作渾身のギミックを堪能するがよいぞ、エルヴァよ!!」
「ぐはあっ!?」
かと思ったら、背後から聞こえるは、たまにはふところマスコットをお休みしてもらおうと置いてきたはずなのに。
結局やってきてしまったらしい、チューさんの声。
どうやら、道を塞ぐようにしてあった魔法陣とは別のものが隠されているようで。
他の魔法陣から現れる子たちに注目している隙をついてのチューさんのたいあたり……抱きつき攻撃に目がチカチカしてぐるんぐるんしている中。
見えてきたのは、本当にどこからかチューさん、此度の探索の様子を見ていたかのような、お誂え向きなメンバーだった。
「ふゆっ? あ、あれっ。チェル、やられちゃったあって思ってたのに」
「ふふ。たまにはゆっくり昼寝でもしようかと思っていたのだけど。チュートも魔物使いが荒いね」
「……チチッ!? ……チッ」
「チェルちゃんにエファちゃん、リウちゃんも! みんな元気そうで。また会えて嬉しいですっ」
「エル姉さまぁ! さいごまでお役に立てなくて申し訳なかったですぅ!」
「チチッ」
「ふむ。早めの再会は、マスターの采配かな」
チェリースライムのチェル、ビッグウールのエファ、アーヴァ・コボルトのリウを始めとした、今回の周回でテイムする事はできたものの本契約までには至らなかった10名ほど、チューさんはこれから何かを始めるために召喚してくれたらしい。
その中でも特にエルヴァはエファとリウ、そしてチェルに思うところがあったと言うか、既に家族のように思っていたんだろう。
当たり前のように飛びつき飛び込んでくるチェルを、どうも格好のつかない俺とは違って、華麗に人型へと戻って抱きしめあっていて。
「……はい! 呼ばれて飛び出てやってきました! 張り切って参りますよ!」
「ま、ちょうど【風】の魔法を試してみたかったところだし、いいんだけどね」
「元コアであってもカンケイなく呼べるんデスね。チュートセンパイの話を聞いて、楽しそうだなとは思いましたケド」
そこに加えて三人、ノ・ノアとスーイとダリアまでもが現れる。
一体全体、このメンツで何がこれから行われようとしているのか。
そう思って、今回のギミック、イベントとも言えるものを俺に秘密のままで生み出したチューさんを伺うも。
「ふほほ。これから始まるものはさすがのエルヴァといえど、そう甘くも容易くもないぞ。この長い長い階層を抜けるまでに間接的な魔法やスキルの妨害もあるし、トラップも満載なフロアじゃからのう。だというにエルヴァときたら主どのを背負うときた。かっかっか。これは見ものじゃのう!」
留守番が正しくお気に召さなかったのか。
何やら少しばかりおかしなキャラ付けしつつ高笑いなんぞしているチューさん。
なんとはなしに、そこまでくるとみんなのそれぞれの願い、エルヴァにとっての願いをチューさんが叶えようとしていることは理解できて。
「望むところです。むしろご主人さまが背中にいてくれることでどんな困難も乗り越えられることでしょう」
「そっか。エルヴァがそう言うのならばうん、引き続き背中を借りさせてもらおうかな」
「はい! よろしくお願いいたします」
「……話はまとまったようじゃの。それではしかとわしのダンジョン、楽しんでもらおうかの」
そして。
そんなチューさんの言葉を始まりの合図として。
ずらりと並び立つワクワクドキドキなメンバーたち。
これから、一体何が始まってしまうのかと。
思わず手に汗握り息をのみつつも。
促されるままにエルヴァの背中へと……。
「って、だからせめて『獣型』でお願いしますってえええぇぇ!!」
開幕する。
そんな世にも情けない号砲とともに。
チューさんが考えたダンジョンギミック、もといイベントは正しく好評を博して。
幾度となく開催される運びとなったのは、けっしてみんなが俺を背負いたいから、と言った理由でない事を祈りたいところである……。
(第192話につづく)
次回は、11月30日更新予定です。




