第190話、ダンジョンマスター、家族愛溢れし聖女に心打たれ意識保ったまま
マイダンジョンでは、10回挑戦して1度出現すればいいくらいの頻度である、ダンジョン内ショップ。
それが、エルヴァをお供に挑戦した回に現れてくれたのも。
きっとこうして下層を探索するためのお導きではあったのだろう。
ちなみに、ダンジョン内ショップの番人、店主は。
翼あるもの……エンジェル族っぽい人たちがやってくれている。
昔はどこにいるかも分からないダンジョン神、運営さんからの出向で来てもらっていると思っていたけれど。
実際は、ダンジョンクリエイトにおけるオプションであり、チューさんがスカウトしてきた人たちのようで。
アクマ種と一緒になってダンジョン的タブーを犯したものに襲いかかってくる人たちと違って。
テイムを試みて我が軍に加わってもらう事も可能ではあるそうなのだが。
チューさん曰く、故あって前線には出られない人たちばかりであるとの事であるし。
現在の状況としてスターティングメンバー不十分どころかエルヴァと二人きりであるし。
テイムするための武器防具アイテムスキルも十分とは言えなかったので、今回は諦める事にしていて。
それはともかくとして。
そんな運良く発見したダンジョン内ショップに宝箱の状態で『青のなんでも屋』シリーズの、魔法効果つきのお弁当が置いて……売っていたのは。
今まさにこの先を乗り越えるためにと。
エルヴァに元気になってもらいたいからこそだったのだろう、なんて思ってもいて。
「よし。ここまで来たらダブってる『サンクチュアリ(破魔聖域)』を使って、がっつり休憩してしまおうか」
「……」
先ほどの回復系アイテムスキルを使う使わない、ではないけれど。
そう言って今いる32分の1フロアの入口を塞ぐように『サンクチュアリ』のカードを設置しても。
もったいない、後に取っておいた方が、などと言った声すら上がらず。
エルヴァは壁にもたれるように座り込んで、押し付けるようにしていたお弁当を見つめている。
「さあさあ、マイダンジョン攻略もあと少しだ。一気に駆け抜けてしまうためにも、ここでしっかり腹ごしらえをして身体を休めてもらうと助かるな」
「……はい、いただきますね」
擬似的安全地帯を作り出し。レジャーシート的なものもなかったので。
いつかユウキにもあげたことのある白紙のブックを広げて改めてそこに座ってもらう事にすると。
改めて人型なまま洗練された仕草で正座なんぞしつつ、改めていただきますと呟き、『青のなんでも屋』シリーズのお弁当に手を付ける。
何やら申し訳ないが、ミスマッチにも見えてしまうのは。
やはり人型のエルヴァが高貴な家の出のご令嬢、あるいは聖女然としているから、なのかもしれなくて。
そんな事を考えつつ対面する形で腰を下ろし、しばらくはもくもくと食事をしていると。
ふと目を離した隙に、一つ目を食べ終わってしまったようで。
そんな彼女に追加のお弁当を差し出すと、優雅に刹那の早さで口をつけながらエルヴァはおもむろに口を開いた。
「……みなさんは、これほどまでに苦労してダンジョンを突破し、ご主人様の元へ参られたのですね」
「ん? 何やら他人行儀だけれど、エルヴァだっておれと一緒に今、こうしてここにいてくれるじゃないか」
「きっとわたくしは幸運に恵まれていたのでしょう。今回のようにみなさんに守られ、脱出できたのですから」
やはりエルヴァは、今回の探索で出会えテイム仮契約ができたものの。
ダンジョンを脱出して本契約に至ることができなかったみんなの事を気にしてしまっているようだ。
実のところ、他所さまのダンジョンと違って、マイダンジョンを攻略していく上で儚い犠牲となってしまった者達にもう二度と会えない、と言う事はなかったりする。
それを知ってしまうと、マイダンジョン攻略にあたって緊張感が薄れてしまうことは否めなかったが。
背に腹は変えられない。
エルヴァの憂いをそそぐためにと、俺は改めて口を開く。
「チューさんの手前、マイダンジョンは鬼仕様だって毎度のように口にしているけれど。本当は、世界一甘くてやさしいダンジョンだって思っているんだ。その理由はいくつかあるけれど、やっぱり一番はマイダンジョンでの出会いが一期一会に留まらない事かな」
「……っ、それは」
マイダンジョンで得られるアイテムが、識別さえしてしまえば規格外にこちらに有利なものが多かったり。
たとえ攻略失敗しても、何回も挑戦できたりと。
チューさんの優しさを上げ始めたのならばキリがないけれど。
『獣型』、それこそチューさんにスカウトされたばかりの頃のエルヴァは。
群れて暮らす、多くの家族と過ごすタイプの魔物魔精霊であったようで。
故にこそ一度縁を持った、今この階層へ到達するまでに一度別れる事となってしまった、
いつかテイム、本契約することになるであろう子たちの事が気になってしまっていたのだろう。
俺は、チューさんが甘くてやさしいだなんて聞いたら拗ねてしまうかもしれないからと。
これから話すことは内緒で頼むと前置きしてから更に続けることにする。
「エルヴァはきっと、ダンジョン攻略における運を持っているんだろう。俺がエルヴァに初めて会った時に、マイダンジョンを脱出してすぐに本契約できたから気付かなかったんだろうけれど。フェアリだって本契約できたのは、偶然ヴェノンと一緒に探索できた6回目だったし、中層にいたピプルやシラユキは、本契約にまでいくのに10回は挑戦している。幸いにもチューさんにはマイダンジョンを1000回越えようとも挑戦できる機会を与えられているから、エルヴァが気にかけていた子たち、今回の周回で出会った子たちとも、いつかは必ず、再会できるはずさ」
「……ああ、そうでした。わたくしはたくさんのお友達、家族とともにあるのが好きだったのです。今はもう、とっくの間にその夢は叶っていると言うのに、昔の一人だった自分を思い出してしまって、寂しくなってしまったのかもしれませんね……」
余韻を持ってしみじみと。
エルヴァはそんな言葉たちをこぼして。
いつの間にやら二つ目の野菜たっぷりハンバーグ弁当(状態異常回復、持続微回復つき)を平らげていて。
ごちそうさまでしたと、綺麗な笑みを浮かべて一礼する様は。
正しく洗練されていて。
へたれな俺が反応しないくらいには神秘的ですらあって……。
(第191話につづく)
次回は、11月23日更新予定です。




