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エンドロールには早すぎる~一万回挑める迷宮に棲まう主(まおう)は、マンネリ防止、味変したいと人様のダンジョンに突貫す~  作者: 大野はやと
メイン:エンドロール前

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第19話、ダンジョンマスター、最後の秘薬系レアアイテムを惜しみなく使う



そんなやりとりをしつつ。

『リングレイン』の街へ続くだろう街道を進んでいると、道の周りの植生が若いものに変わり見晴らしがよくなり、いつの間にやらだいぶ人通りが増えてきていて。


もう街が近い、と言う事なのだろう。

ここまで来れば山賊野盗めいた輩に襲われる事はそうそうあるまい。

加えて、行き交う人々も、こちらを注視する人はいても特に咎めるような……さっきみたいにいきなり襲いかかってくる事はなさそうだった。 


 

となると、先ほどの山賊まがいの人たちの行動指針はなんだったのだろう。

魔王の棲まうダンジョンのある方から歩いてきたからって、襲いかかってくるものなのか……などと思っていると。

前方……街の方から砂煙上げて文字通り、馬に乗った騎士っぽい人々が駆けていくのが見える。



有無を言わさず通行人を避けさせているのを見ると、相当に急いでいるらしい。

今は右肩に陣取るチューさんに促され、フェアリに引っ張られる形で脇に避けると、五、六人はいただろう騎士達は、避けた俺達に目もくれず街道を駆けていってしまった。



「リングレイン王国の馬廻りの騎士だな。王城から出てくるなんて珍しい」

「さっきの野盗もどきたちが目を覚ましてSOSしたんじゃない」


軽い口調でそう言ったが、恐らくは間違ってはいないだろう。

『プレッツェン(広範催眠)』の本は、問答無用で視界に入った一フロア分の意思ある者達を昏倒させる変わりに、目を覚ますと寝貯めしていたぶん動けるようになるのか、機動力……俊敏性、素早さが倍増してしまうという副作用がある。

特にダメージを与えたわけでもないので、この様子だとすぐ戻って来る事だろう。



「ご主人、きゃつら戻ってきたらまずいのでは? 姿を変えたわしらはともかく、あるじの顔、覚えられているやもしれぬぞ」


肩口から聞こえてくる、幼いながらも年季の入った、アンバランスな少女の声。

確かにもっともで、そう言えば顔バレしていないと思って変化『ランシオン(幻影変化)』のカードを自分に使っていなかった事に気づかされる。



「んじゃ、今のうちに変わっておくかな」


街道を外れていたのをいいことに、人通りのない事を確認したので、草場の影でさっさと自分に『ランシオン』のカードを使ってしまう事にする。


額へとカードを貼り付けると、それが沈み込んで消えてゆく感覚。

街行く人や、騎士様達に化けると鉢合わせが怖いので、人畜無害そうな仲間モンスターに化けるのがいいだろうか。

そう思いつつも『ランシオン』の手応えのないまま皆のところへ舞い戻る。



「ん? なんじゃあるじ、さっさとせい。本当にきゃつら戻ってきよるぞ」


かと思ったら、手応えがないってのはそりゃ当然で、俺は俺のままらしかった。

幻術幻惑系の魔法、スキルが効かないのはやっぱり確からしい。

曖昧な笑みを浮かべ、草陰に戻って改めて取り出したるは先述したレアカード、『ルシドレオ(透過透明)』のカードを取り出した。



有能なレアカードで、ゲットしてももったいなくてあまり使わず、使わないまま攻略失敗で水の泡になってしまうという、『異世界への寂蒔』あるあるネタな、いわくつきのアイテムだ。


効果は先述した通り、カードの効力を受けたものを透明化する。

気配察知の能力や、千里眼系のスキルでも使われない限り、一方的にあれこれし放題な代物だ。

攻撃を受けても、流れ弾を受けても解ける事はなく、実は例の魔王コンボ(『デ・イフラ・カード(幻惑混乱)』と『イロトラン(硬化不動)』の薬)と同じように、『ルシドレオ』を使用後に『イロトラン』の薬を使うと凶悪なコンボになったりする。



問題は、これが俺に効くかどうかだ。

これが幻覚幻惑系扱いになるのなら、スキルギフトは使わず変装でもするしかない。

仮面系の防具とか、フルフェイスの鎧とかあったりするけど、いろいろ問題があるんだよなぁ。

かつらとか、『リングレイン』の街に売ってればいいんだけど。


なんて思いつつも、額に『ルシドレオ』のカードをぺたり。

瞬間、カードから魔力めいたものへと変わり、すっと額に吸い込まれていくカード。

効果はすぐに現れるはずなのだが、無意識に確認した手はばっちり見えていた。

……いや、心なしか透けているだろうか。


あ、そうだった。

味方と言うか、『ルシドレオ』のカードを使ったものには薄ぼんやり見えるんだっけか。

このカード、『異世界への寂蒔』にてソロで使う事が多かったから失念していたよ。

とりあえずこの状況でみんなに確認してもらおう。




「おーい。『ランシオン』のカードは無理だったけど、こんなん使ってみたよ、どうよ」


俺の予想通りなら、パーティやテイムモンスター……俺が仲間だと思っていれば、こちらの姿は微かな透明となって見えるはず。

そう思い声をかけると、最初に反応したのはチューさんだった。


「お、あるじようやく戻って。……って、何だか透けとる? 存在感が希薄というか」

「あ、ホントだ。ユウレイ、ゴースト系に変化したのか? 確かに雰囲気変わってるけどさぁ」

「やっぱりみんなには見えるみたいだな。フェアリには使った事あるからわかるだろ? 『ルシドレオ』のカードを使ってみたんだ」

 

ユウキだけは、何だか心配げだったのだが、特に問題はなさそうだった。

『ルシドレオ』のカードは、主に回復役を務めていたフェアリに使う事が多かったので確認がてらそう聞くと、フェアリも得心したように頷いて。



「なるほど。透明化か。……ふふ。そうやって透けているのを見ると、何だかより親近感があるね」


今は違うようだけど、透明でお揃いなのが嬉しかったのか、儚くも淡い笑みを幻視させつつ流れるような動きでニノウデにくっついてくる。


「ほう、これが例の。とっておきを使わずにいて、結局終わってしまうっていうあれじゃの。しかしフェアリよ、傍から見ると何もない所を掴んでいるのは、少々不自然じゃないかのう」

「何が言いたいんだい?」

「離せってことじゃ。透明化に気づくものがおるかもしれん」


まるでフェアリが俺にくっついているのを見たくないかのような、ぴりっとした空気。

さっきまでそんな事なかったのに、急にどうしたんだろう。


まぁ、せっかく使ったんだし、へたこいてバレるのももったいない。

チューさんの言も一理あると、俺はフェアリの手……じゃなくて触手をやんわりと離した。

その途端、あっと悲しそうな声とともに、突き放されて呆然とする黒髪おさげの少女を幻視する。

俺はそれを誤魔化すようにして、慌ててフォローの言葉を口にした。



「後でいくらでも繋ぐからさ、今はほら。怪しまれないように俺を囲む陣形にしてくれないかな」


透明になった以上、喋るのも控えたいと言う、ほとんど無意識についてでた言葉に、しかしフェアリは納得してくれたようで。

 

 

「いいね。帰ったらお願いするよ。ついでに懐マスコットの役、たまにはぼくに与えてくれると嬉しいな」

「なにおうっ。それはわしだけの特権じゃぞ!」

「まぁいいじゃないか、たまには」

「そ、そんな!? せっしょうな!」


それ以前に、フェアリじゃ少々大きすぎてふところには入れないんだけどね。

チューさんもそれを分かってるだろうに。

そんな大げさに驚かなくても。



「……ふところ、懐かぁ。この場合どうなるんだ?」

「ん? なんだって、ユウキ」

「い、いや。なんでもないって。ほ、ほら、行こうぜ。まずは城か、冒険者ギルドか?」


何やらブツブツ言っているユウキの言葉が聞き取れなくて聞き返すも、何だか慌てた様子で。

ようやく見えてきた町並み、外界と中を隔てた背の高い壁の方へと駆け出していってしまう。



いつの間にやら到着していたみたいだな。

最初はここに来るの渋っていたのに、あの様子だとやっぱりユウキも気になってたんだろう。


体よく彼女の元仲間達を追い返したはいいけど、今思えば調子に乗っていたと言うか、一体どんな騒ぎになっているか想像もつかない。

いくら一度試してみたかった魔王コンボとはいえ、結構えぐい感じだからなぁ。

果たしてどうなっているのか、急いだ方がいいのは確かで。



「二人共先導頼むよ。俺、しばらくはだんまりだから」


至近距離で、ちょっと険悪な空気で見つめ合っているチューさんとフェアリを促し。

そんな感じで、俺達は走っていってしまったユウキを追いかけるのだった……。



    (第20話につづく)








次回は、2月5日更新予定です。

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