第186話、ダンジョンマスター、今更ながらダンジョンを管理する側だと気付かされる
それは、今日も今日とてマイダンジョンへと、楽しみながら鍛錬して。
次なるダンジョンのための準備のためにと、ひとりで潜っている時の事だった。
本気本域の探索出なかったのにも関わらず。
調子がよくて、もうすぐ25階層に辿りつこうかといった頃合いだろうか。
偶然か必然か、『ディネン(掘削貫通)』のカードを手に入れた事で。
壊し掘れる壁という壁を破壊して回っていると、不意にマップに現れるのは、青色の円。
「おっ。何だか凄く久しぶりだ」
思えば、『ガルゲ・ボウ』なども、マイダンジョンの壁の中産だったんだよなあ、などと思いつつ。
拾得できるアイテムのもとへと駆け出していくと。
そこには、マイダンジョンでは珍しい、宝箱があった。
少しばかり小さめではあるものの、何やら魔力が込められているのが分かって。
「罠は……なさそうだけど、この魔力はなんだろう?」
見た感じその魔力は宝箱の中身を守っているようにも感じられた。
基本的に、アイテムがそのままの状態で配置されている事の多いマイダンジョンにおいて。
こう言った宝箱に入れられていると言うことは、それだけ貴重なアイテムであるか。
素のままでは置いておけないタイプのものなのだろう。
何とはなしに後者であろうと予想しつつ、このタイミングでしか使う機会のなさそうな、『オブギィル(開錠開帳)』のカードを、ちょうど同じくらいの大きさの鍵穴へと差し込むと。
抵抗なくそんな宝箱を開けることができて。
「お、冷たい」
その途端、噴き出してくる薄く白い水蒸気。
外気と混ざってすぐに消えてしまった事を考えても、纏っていた魔力は。
やはり中のものを冷やすためのものだったんだろう。
そこに入っていたのは、透明な箱。
いわゆるところのパックに入れられた、携帯食料であった。
「ええと、なになに? おにぎりとおかずせっと、か……」
その時思い出したのは、ダンジョン探索以外での、我らがふところマスコット、チューさんのお願い事であった。
世界各地の、世界中のお米かお米料理が食べたい。
このおにぎりおかずセットは、その範疇には入っていないのだろうか?
マイダンジョン産であるからして、そもそもチューさんが創り出したものである可能性もあって。
「よし、今回はこれくらいで切り上げて、そこのところチューさんに詳しく聞いてみよう」
今回手に入れた、携帯食料の一種。
『おにぎりとおかずせっと』。
今のところ、これ一つしか持っていないから、貴重品であることは確かで。
そんな貴重品を所持した状態で攻略失敗になってしまっては忍びないと。
すぐに『セシード(内場脱出)』のカードを使い、ホームへと帰還する。
最近はふところマスコット状態で俺のダンジョン探索についていく事も減っていたチューさんは。
今は前線に立つ事もあって、マイダンジョンで訓練したり、
ダリアやノ・ノアを始めとした続々と加わった元ダンジョンコアたちとお茶会……会議的なものをしたり、『モンスター(魔物魔精霊)』バッグの内なる世界にて過ごす、かつてテイム、あるいはチューさん自身がスカウトした、もう少しで『人型』になれそうな子たちの様子を見に行ったり、忙しくしていたけれど。
ちょうど休憩時間であったのか、ユウキと一緒にまったりしつつお茶を飲んでいて。
「お、ちょうどよかった。チューさんにユウキ、早速だけどこれを見てくれ。久方ぶりにニューアイテムを手に入れたぞ」
「おおっ、それはもしや、握り飯ではないか!?」
「あ、これ、ちょっとラインナップは違ってるけど、売店で見たことあるよ。赤ウインナーとかハンバーグも入ってる」
「これ一つでひとりのお腹が八分ほどまで回復するとともに、ランダムで能力値が僅かばかり上がるみたいだ。『ブレスネス(祝福息吹)』を使った後に、『ドゥヴェルダ(分裂模倣)』のバッグで増やしたら、大変なことになるぞ」
他にも『グラグロウス(共生進長)』のバッグで一度にみんなへと補給する手立てもあるが。
そちらの方は、すぐに使用禁止になってしまって地味に初出な『フォートナ(幸複満葉)』カードともども、使おうとすると滅茶苦茶怒られるので口には出さなかったけれど。
そんな、ドーピングレベルアップ的欲が滲み出てしまったからなのか、チューさんもユウキも嫌そうな顔をしていて。
「ほんとにジエンってば懲りないよね」
「増やすのはまぁ良いとしても……いや、待つのじゃ。あまりにも主どのが探索者として馴染みきっておったから失念しておったわ。主どのはダンジョンマスターなんじゃし、こういったアイテムを用意するなど、意のままであるはずなんじゃがの」
「言われてみればそうだよね。物資の補給にもジエンが自分で行ってる事が多いけどさ、ダンジョンクリエイト? の力で、わざわざダンジョンにもぐらなくてもいろいろ用意できるんじゃないの?」
「え、それじゃあダンジョン探索を楽しめないじゃないか」
「……ダンジョンコアとしては複雑じゃのう。少なくともマスターから聞ける台詞ではないの」
チューさんは、そうぼやきつつも何だか嬉しそうでもあって。
返すようについて出た言葉は、紛れもない本音であった。
俺自身、探索者としてダンジョンに潜っている時は、ダンジョンを管理する側である事を極力考えないようにしていたのは確かで……。
(第187話につづく)




