第185話、ダンジョンマスター、ちゃっかり消えつつエンドロールのその先を見据える
―――それから。
今の今まで『ジ・エンド・レギオン』と言うか、俺とその仲間たちは。
『極ダンジョン』を突破し解放した際において、もらいたいかどうかはともかくとして、もらえるものをもらってさっさこその場から逃げ出すことで。
必要以上の歓待から始まるメンドくさい柵というか、ドンチャン騒ぎになりそうな空気を察し回避し続けていたわけだが。
ダリヴァとその四天王により支配されていた、天上世界における人族の国『キヌガイア』。
その全域に広がっていた『暴威のキヌガアイア』と呼ばれし『極ダンジョン』は。
生まれ運営するようになってから、実はそれほどの時間が経っていなかったようで。
ダンジョンマスターであるダリヴァが……一度『極ダンジョン』に染まれば元のあるべき姿へ戻るはずがないと思っていた人物……恐らくダンジョンの女神的なチューさんの力と、弟を思うメイテの力によりジード、と言う人格を奇跡的に取り戻したからなのか。
『キヌガイア』で暮らす人々にとってみれば。
正しく良くも悪くもそれまで支配していた者たちが急にいなくなってしまって。
街の周りで潜むようにしていた街の人々も帰ってきてはいるものの、徐々に街中に混乱が広がっているようで。
ここのダンジョンコアであるメイテさんとのお話が……当初の目的が済んだからといって、はいそれじゃあ帰ります、と言う訳にもいかなくなって。
加えて、俺たちがその場をすぐに離脱できなかった一番の理由は。
いつの間にやら密かにチーム対チームの決戦を期待していたわけでもなかった『暴威のキヌガイア』のダンジョンボス戦も、街中ダンジョン各地に散らばっていた頼もしすぎるみんなが倒してしまったらしく。
その流れでみんながあれよあれよと駆けつけ集合してしまって。
申し訳なくも魔王化する事もなく、気絶してしまったからだろう。
その結果、いつぞやはチューさんに任せっきりであった大役。
ダンジョンを攻略、新たに権限を得たと言う下手人として、あっという間に囲まれ追い詰められ祭り上げられて。
気づけば俺は。
キヌガイア王城の一番高い所でキヌガイアの町並みが一望できる、
王族やそれに類する者達のみが立つことを許されるバルコニーに立たされていた……。
「くっ。これは一体全体どういうことなのッ!? そのへんの門番モブで極ダンジョンの如きヘドロに塗れていた俺がどうしてこんな目にぃぃっ」
「まだそんなこと言ってるの、ジエンってば。いい加減諦めて年貢の収め時……じゃなかった。遅かれ早かれ世界の英雄として知られる日が来たってことでしょ」
その身に秘めし救世しうる力がある割に、こんな機会などとんとなかった俺は。
未だ戸惑いと混乱の真っ只中で、そのしなやかに過ぎる体躯を、今この時この瞬間のために用意された礼服装備に仕舞って、実に立派な風体……まさに英雄、勇者らしき状態になっているユウキに。
最早一連の流れのごとく泣きつくも、ユウキ自身がそんな俺に慣れて……呆れてしまっていてにべもなかった。
「だいたいさぁ、今回の『極ダンジョン』を解放っていうか、これもダンジョン踏破になるかわからんけど、俺たちだけの功労じゃないだろう? そもそもが、国の周りに陣取って、いつか生まれ故郷を取り戻そうと頑張っていた探索者が多くいたそうじゃないか。この国の頑張ったみんなが英雄ってことでいいと思うんだけどなぁ、俺は」
「そうは言ってもこの国のみんなはこの国を救ったのが誰だってよく分かってないみたいだし、救ったのが誰だって知りたいと思うのは仕方ないんじゃない? 誰かがい……その代表として立たなきゃ、示しがつかないんじゃないかな」
「おいぃ、今いけにえ的なこと言いかけてませんか!?」
「……言ってないよ。きっとそれはジエンの気のせいだから」
みんながみんな勇あるもの、だなんて。
言葉通りのいいものは今更通用しないところまできているようだ。
いい加減、そのいけにえ的存在……じゃなかった、ダンジョン権限を得たもの。
その長たる存在に一番相応しいのが俺自身であると自覚して欲しい、なんて思いつつも口には出さず軽くあしらうユウキがそこにいて。
そんな俺たちは、現在他の『ジ・エンド・レギオン』のメンバー……女性陣の準備、英雄のお披露目のための着付け待ちであった。
俺が気絶してしまっているうちに、逃げようもない状況になってしまっていたのはもうひとつ。
俺としては、ダンジョンの権限を奪ってしまったからには、『第四ホーム』として『キヌガイア』で暮らす人々や魔物魔精霊さんたちのためにと。
いい感じにダンジョンをつくり変えつつ俺自身もダンジョンを堪能したいと思っていたわけだけど。
そんな『第四ホーム』の運営の方は、メイテかジードに任せるつもりでいたのに。
肝心な時に限って魔王化もしなかったものだから、気づけばその辺りのことに関しても、門番モブな俺に一任されてしまったようで。
しかし、何とかどちらともつかないような衣装、装備をちゃっかり身につけて。
俺が逃げ出さないように監視している? ユウキはともかくとして。
いつものキュートなふところマスコットに戻っているはず(俺にはそう見える)のチューさんは、流石に裸んぼう……自前の一張羅だけではいかんじゃろうと。
他のみんなに混じって着付けに付き合っているのを見るに。
もうあの頃……純粋にふところマスコットしてチューさんを抱いて頃には戻れないんだろうなぁ、なんて思ったりもしていて。
「あ、どうやらみんなご到着のようだね」
「うっ。やっぱり『獣型』なみんなの姿は幻だったんだ。ただ、戻っただけとも言えるけど。何だか未だに緊張するんだよなぁ」
「これからお披露目する民衆の皆さんに対してじゃないところがジエンらしいと言うかなんというか……」
まだ彼女たちに対し慣れていないのかと。
あるいは、今まで彼女たちに対しての想いのようなものを自覚……思い出したからなのかと。
やれやれ、いくら何だか気まずいというか意識しちゃうからって、何だか安心できるからと言う理由で自分ばかりに構うのは、彼女たちが非常に機嫌が悪くなるというか、何故かライバル認定されて怖いからやめてくれないかなとぼやきつつ溜息をついてみせて。
そんな俺の混乱恐慌っぷりにもすっかり慣れてしまったユウキは。
これから国を救った英雄としてみんな一緒にお披露目されると言うのにその時はどうするんだよ、なんて考えていたようで……。
そんな舞台裏があっただなんて、知りうるのは本人たちのみで。
『ジ・エンド・レギオン』と呼ばれる後に『極ダンジョン』を軒並み走破する英雄たちとして。
この世界の歴史書にも記載されるほどに代々語り継がれていくなどとは。
思えば咄嗟に口走ったにしては意外と悪くないパーティ名じゃないかな。
なんて思っていた俺も知る由もなく。
遠くも近くもない世界の狭間……俺がこの世界にやって来たきっかけ、道行きとなった場所で。
そんな新たなる英雄の誕生の瞬間を眺めていたラマヤンも、知る由もなかった……と言うよりは未来視にも近い予感めいたものからくる震えのようなものに対し、
自分自身が信じられなくなるような感情に陥っていた。
(なんですか、この感覚は? あの、泥まみれの極ダンジョン漁りに対しこの私が怖れを抱いているとでも?)
狭間の世界を通って故郷へ異なる世界へそのまま逃げ出していたのならば。
まるで神の存在に恐れおののくような感情に支配される事もなかったのかもしれない。
極ダンジョンの主のひとりであるというプライドが邪魔をして。
いずれその泥まみれの極ダンジョン漁りが現れ落ちてきたこの場所へ還ってくるであろうと見越して自身の城とも言うべき『極ダンジョン』、ダンジョンを創ってなどいなければ。
しっかりきっかり攻略されたあげく滅びの運命を辿る、ある意味パーティ名通りの事を成されることもなかったのに。
「馬鹿馬鹿しい。であるのならば今まで保留していた我が城にて歓待しようじゃありませんか。泥まみれの泥あさりらしく、みじめにはいつくばって絶望する様を見るのが、楽しみですねぇ……」
ユウキがそんなセリフを聞いていたとするのならば。
随分とまぁ盛大な『フラグ』を立てたもんだなぁ、などと。
呆れて苦笑いしそうな台詞を呟いて、ラマヤンは言葉尻通り何だかとても楽しげに愉悦込めて。
ダンジョンマスターとして、あらたなダンジョンクリエイトを開始するのであった……。
どこに、そんな多くの人々がいたのか。
うねる波のような群衆の中。
あらゆる種族の見目麗しい少女たちが姿を見せる。
「……って! ジエンは!? こっ、このタイミングでまさか透明になってる!?」
世界が揺れるほどの歓声と、そんな世界が奏でるエンドロールによって。
そんな今回改めましていけ……かわりをつとめてくれる事となったユウキの声もかき消されていて。
俺はずらりと並び立つ、頼もしきダンジョン攻略における同士、仲間たちにして家族な面々を。
その時ばかりは充足感とともに眺めつつも。
この世界で言うところの第三階層、新たなる攻略のしがいがあるダンジョンが生まれようとしている事を感じ取っていた。
それは。
そんな世界中に自慢したい『ジ・エンド・レギオン』が。
ラマヤン謹製の新たなる最終ダンジョン、『この世の果て』を。
紆余曲折の果てに完全攻略するまでの。
エンドロールが流れ出すのにはまだ早いと言わんばかりの。
とっても楽しみで、嬉しい、世界の福音のようにも思えて……。
(第186話につづく)
次回は、10月19日更新予定です。




