第180話、魔王、ダンジョンコアのスカウト手腕に喝采し打ち震える
自身の身体の一部が、不意に欠け、どこかへいってしまったかのような。
そんな表現し難い喪失感を、いの一番に感じたのは。
その生まれによる在り方、役どころによって形作られた……
殺戮ばかりを好む、『暴威のキヌガイア』のダンジョンボスの中でもバトルジャンキーで知られるグロクであった。
それは。
ダンジョンマスターのダリヴァのもと、魂めいたもので武具精霊同士繋がっていることを自覚し、それを一切表に出す事無く気を張っていたからだろう。
「……っ、この感じは。ギュナのやつか。ある意味予想外というか、うちらの中では一番慎重なやつだと思ってたんだけどねぇ」
思わず城内……主のもとへ向かう足を止め、状況を整理せんとするグロク。
主……ダリヴァのもとにはハマとガヌが向かっている。
現在、そんな主の周りに、嫌な感じのする存在はいないだろうと判断していた。
ギュナを討った下手人のように、不意に突然現れる可能性はあるだろうが、とりあえずは彼らに任せておくべきであろうと。
一方、ギュナを滅した要注意人物。
幸か不幸か、グロクとは位置が離れていて。
今から向かっても、それ以外の邪魔だてが入り、戦いが楽しめない可能性がある。
「……となると、比較的近い、もう一つのいやらしい気配のもとへ向かうとするかね」
恐らく、ギュナを倒した相手と同等かそれ以上の相手。
そして、同じく今までそこにいなかったはずなのに、不意に現れたかのような存在。
だが、その気配は。
「……覚えがあるっていうか、ワタシが求めていた相手だったと思うんだけど、これは一体どういうことだい?」
まるで、そこに今までいた人物が。
その、魂ごといきなりぐるんと入れ替わってしまったかのような感覚。
あまりに、不可思議な状況に。
グロクは逆に、バトルジャンキーな興味が掻き立てられて。
そんな疑問を呈しつつも、嗜虐的な笑みをこらえきれず、すぐさまその場所へと駆け出すことにして。
そんなグロクが辿り着いたのは。
城内にあって、薄く煤けた空の見える、庭園めいた場所。
その中央には、実のところ国外を砂漠に囲まれているキヌガイアにおいては贅沢に過ぎる噴水があって。
その向こうに、グロクが嫌な気配、と称した自身の脅威となりうるであろう人物が佇んでいる。
その出で立ちと戦闘スタイルを目の当たりにしていくうちに気づいたのは。
当の人物があるいはグロクと故郷を同じとする、主に重火器を扱い戦場を駆ける兵士である可能性が高い、と言う事であったが。
その、噴水越しからもはっきりとわかる、まるで自分たちにも似た禍々しい魔力の気配は、一体どう言う事なのか。
グロクと故郷を同じくするもの。
死を齎す存在でありながら光であろうとしていた、終わる事なく敵対していた者達。
生まれついて【水(ウルガヴ】と【金】の魔の力をその身に秘め。
あるいは【火】と相性がいいことで、共に棲まわせるものが多かったはずで。
事実、ついこの間邂逅した時は、その通りであったのに。
そこには、物理的にも触れることあれば影響のありそうな、【闇】の魔力と、【月】らしき得体の知れない妖しい魔力が蟠っている。
(ちっ、この感じは。忌々しい。ラマヤンを思い出しちまうね)
奇しくも、グロクが感じ取ったのは、ギュナが感じ取ったものと同じもので。
そうであるからこそ、ギュナと同じくして、相手から何かリアクションがあるより先にと。
グロクも、騙し討ち、奇襲を選択していて。
「……シィッ!」
ほんの僅かな呼気のみの、ギュナの射出に勝るとも劣らない、無音の投擲。
刹那の瞬間生み出されたグロクは。
一見すると、受けたものを傷つける事がないように見える、丸くなった先端、その内に、凶悪に過ぎる殺傷能力を秘めた爆発物が内包されている。
いとも容易く噴水をぶち抜き、その癪に障る小生意気な顔を再び見る事もなく、柘榴の花が咲く。
あるいは、ギュナと同じように。
グロクは、そんな油断、満身めいた確信を持っていたのに。
「……ナァッ!?」
正に、その瞬間。
噴水を後ろに、グロクの目前に。
この世のものとは思えない、化生が。
まるで百鬼夜行とでも言わんばかりに。
犇めき夥し、存在していて……。
(第181話につづく)
次回は、9月14日更新予定です。




