第178話、ダンジョンマスター、頼もしき少女たちの戦いをまたしても見守る
ダリヴァVS俺&チューさんによる改めての初撃による軋む鍔迫り合い……戦いの音は。
城門前で乱戦に塗れていた役者たちと。
俺たちと違って迷うことなくそちらへ向かっていた仲間たちにも届いていたことだろう。
くしくもそれに最初に気づいたのは、身代わりの影武者を旗印に留め置いて。
そのまま出撃の命を受け、すぐに後に続くと耳にし、その絶対的な言葉通りになっていないことに。
密かに焦り、『暴威のキヌガイア』武具精霊……ダンジョンボスのひとりとしてはありえない不安を覚えていたザガであった。
「……ムゥッ!? この感覚はっ、地下世界からきた勇者どもかぁっ! よりにもよってこのタイミングで主の元へ向かうだとぉっ!?」
「もう、やーっと来たのね。このわたしの大魔法で一掃する様を見ているといいわ」
「何やら少しばかり勘違いされてるようだけど~」
「あら。あのようなひどい横槍を入れてきたと言うのに、あっさりみなさん引かれていくのですね」
幽鬼のごときキヌガイア兵を従えた、四体のダンジョンボス。
そのうちの一人、槍斧の武具精霊であるザガは。
癇癪の咆哮を上げたのと同時に、背を向けぬまま戦線を離脱する。
そうは言いつつもじりじり、じわじわと数の圧に押されていたスーイ達は、あまりのも急なザガの引き様に、戸惑いつつもすぐさま俺のしわざであると理解したようだったが。
ザガのその咆哮は、キヌガイア兵達に自身の退路のあとを塞ぐように命ずるものであったらしい。
長引けば不理であっただろう戦線が、ある意味俺の見えない力のようなもので、一変したので。
迫り来るキヌガイア兵達を蹴散らしつつ、スーイ、シラユキ、エルヴァの三人は。
すぐさまザガの後を追って遠目に見える魔王(身代わり)が座するキヌガイア王城の方へと向かう。
そのようなダンジョンボスたちが一斉に撤退していくがごとき状況の変化は。
主であるダリヴァと繋がっているその他のダンジョンボスたちにも起こっていた。
「……シィッ!!」
魔弓の武具精霊であるギュナは。
驟雨とも呼ばれる、天に向かって無数の矢を放つ技を繰り出して。
地上をキヌガイア兵で塞ぎ、中空を矢の雨によって覆う事により相手の追撃を遅らす算段のようだったが。
「敵を欺くのには味方カラ、じゃないでしょうケド。マスターはいきなりチェックメイトに入ったようデスね。ノノアさんによれバ、ココのコアさんは、同世代でも憧れの強い人、とのことデスが」
「メイテさん、だよね。みんなみたいにもうごしゅじんさま助けちゃってて。ここのひとたち、焦ってるのかも」
『ジ・エンド・レギオン』の目的はそもそも、ノ・ノアの願いでもあるダンジョンコア、メイテとの邂逅、お話し合いである。
魔王以外のダンジョンボスに構う事なく、その目的を達成する。
そのためには、正しく先行していた仲間たちが、彼らを引きつける必要があると。
そうであるならばと。
先行偵察組の三人とは別行動で、ダリアもアオイも挟み込むようにして王城への入口へ。
降り注ぐ矢の雨をもれなく避けつつも。
キヌガイアの魔王のもとへ向かわんとする配下たちの邪魔をするべく文字通り横槍を入れることにしていて。
一方、破砕槌の武具精霊であるガヌは。
比較的王城の近くにいたこともあって、一足先に王城へと入り込んだことで。
これを不運と言えばいいのか。
見事に鉢合わせする形で『嗜虐のカタコンベ』から帰還してきた精鋭たち……
ユウキとディーと対する羽目になっていた。
「ちぃっ、ちょこまかと動きおってぇぇ! いや、待てっ。直撃しているはずっ、一体どう言う仕組みだっ!?」
「おお、オレ確実にレベルアップしてる! 当たる気がしないというのはこのことかっ」
「ふふ。やはりユウキには防具がない、身軽な方が良さそうですね。少し憧れます」
ガヌのイライラが頂点に達しつつあるのは。
ユウキ自身が言うように、ここにきて急に覚醒したというよりも、
ディーが言うように相手の得物が素早い立ち回りを得意とするユウキとって相性がよく、受け流しやすいからというのもあっただろう。
「ぬぅん! うざったいわぁぁっ! いい加減にさっさと沈めぃっ! 我は王のもとに向かわねばならんのだぁぁっ!」
「わあっ、な、なんだかモグラたたきのモグラになった気分!」
「これはこれでいい鍛錬になりそうですが。お邪魔して倒してしまってもいいのですかね」
魔王同士の戦いに水を差さぬようにと。
その他のダンジョンボスの相手を頼むと、明確に指示を出したわけでもないのだけど。
メインとなるダンジョンバトル会場へ向かわんとする帰還組は。
お休みする暇もあらばこそ、各々の役割を理解しつつダンジョンボスに相対する事にしたらしい。
王城にまで入り込んでいるガヌに対しては、ここで足止め。
故にこそ、ユウキの立ち回りは正しくはあるのだが。
ディーにしてみれば禁断の三回攻撃の三回目を披露したい……じゃなかった。
それであっさりカタをつければいいのではないか、なんて思ってしまったからでもないだろうが。
どうやら、こちらでも本格的に戦いが始まっている事に。
ディーたちだけでなくガヌの方も、改めて気づかされたようで。
「……ぬっ、ぬぅぅっ!? 主どのの危機かぁっ!? ちぃぃ。ここは一旦、勝負は預けておいてやるぞぉぉっ」
不自然なほどに急激に制動をかけたガヌは。
そのまま自身の身体と引けをとらぬ程に大きなハンマーを忽然と消し去ったかと思うと。
そんな憤懣やるかたなさそうな言葉を残しつつも。
二人が思わず呆気に取られてしまうほどに、あっさりと踵を返していくから。
「え、ええっ!? 向かうなら逆じゃないの!?」
「私たちがこうしてここにいるように、何か移動手段があるのでしょう。追いますよ!」
驚きの声を上げつつも。
ガヌがその鈍重そうな見た目の割に一番乗りできていた理由に気づかされ。
二人は頷きあって、すぐさまそんなガヌの後を追いかけていく……。
(第179話につづく)
次回は、8月31日更新予定です。




