第175話、魔王、ちゃっかり観戦しつつ4度目、5度目の魔王的行為に走る
「ふうっ、スライムボディでもけっこう遠かったけど、助けに来たよエルヴァねぇ! シラユキねぇ、スーイちゃん!」
「アオイさん! ダリアさん! とっても素敵なタイミングですね」
「はは。ほんとは移動用の魔道機械で馳せ参じたかったケド。こんな事もあろうかって早めにマスターにこっちに来るように言われてたからネ」
「これで5人、あちらもボスが5人みたいだしちょうどいいね~」
「わたしだけちゃん付けなの納得いかないけど。よく考えたらアオイって誰よりも先輩だものね」
そもそもがキヌガイアの城下町型ダンジョンへ向かった面々はあくまでも偵察で。
今まであまり体験したことのないタイプのダンジョンであるからして、よく精査した後、探索メンバーを改めて選抜して向かう予定だったのだけど。
『嗜虐のカタコンベ』と言うこれまた珍しい構成の極ダンジョン探索が思ったより楽しかった……じゃなかった。
時間がかかってしまったので、『第三ホーム』に残った待機組、アオイやダリアにキヌガイアの方へ向かってもらえるよう連絡しておいたのだ。
(ちなみに、人型になりたての進化したてのみんなにはそのまま『第三ホーム』の防衛をお願いしている)
「フム。天井や壁のない街型でのダンジョンボスバトル、といったところデスかね。
まだまだひよっ子なワタシとしては、せいぜいみなさんの足を引っ張らないようにしないト」
「ふふっ。ダリアちゃん張り切ってたくさんわなアイテムもってきてるもんね。
ボクはごしゅじんさまに好きなように走り回ってって言われたから、がんばるよー」
「ダンジョン探索において幸運を振りまくことは何より大事、ということよね~」
「確かにお二人が来てくださったことでとっても安心感がありますけど。ご主人様が到着なさる前に戦いを始めてしまっても良いのでしょうか」
「勇ましくあのトロールと1対1持ち込んでたエルヴァがそれを言うの? って言うかマスターの事だから今の状況だってつぶさに観察してるでしょ。ほら、見て。あっちのダンジョンマスターまで痺れ切らせて出てきてるわ。待ってる時間はなさそうよ」
別にみんなが心配だからって、基本探索や戦闘をみんなに任せて出歯亀しているわけじゃないんだからねっ。
俺が動くといろいろ台無しになっちゃう事をいい加減学習したから一歩引いているだけなんだからっ。
……なんて、自分で言って切なくなってくるのはともかくとして。
スーイがそう言う通り、人間族がダンジョン探索で装備する武器がモチーフとなっているらしい、
『暴威のキヌガイア』と呼ばれる極ダンジョンのボスたちが5体、もはやほとんど意味を成さなくなっている正門を挟んで布陣している中。
更にその奥からまんまとのこのこと……なんて言う表現はブーメランであるからしてここだけにとどめておくが。
『暴威のキヌガイア』の魔王にしてダンジョンマスターであるダリヴァが。
何やら怒り心頭な様子で微かに見える王城の方やら配下らしいモンスターたちを騎獣として率いやってきているのが見える。
「……ちぃっ、ギルデッドめぇ! この期に及んでしくじりおったかぁ!」
もう既に『嗜虐のカタコンベ』が落とされた事が伝わっているのか。
そこから定期的に派遣されてくるキヌガイア兵と呼ばれるらしい全身鎧付きのフレッシュゴーレムが一向に補充されないことで異変に気づいたか。
一見するとキヌガイア兵とは色違いの黒の鎧をまとった騎士らしき人物が、正しく後方指揮官面している俺と同じように、この極ダンジョンの主戦力であろうダンジョンボスたちの背後に布陣しつつも周りに当たり散らしているのが見える。
「っ! 完全に背中を預け信頼しきっている者に刃を向けるなんて、到底許せるものではありません!」
「あんなのがここのマスターだなんて、このダンジョンの底も知れてるね~」
「そうやって考えると見てるだけでもうちのマスターは全然ましね」
「見てるだけ、デスかねえ。あんなにも過保護な人、ほかにいないと思いますケド」
「ようっし、はりきってやっつけちゃうぞー!」
そんな、確かに底が知れなくもない相手のマスターの行動に気勢の上がるみなさん。
そのまま殲滅命令がくだったのか、進軍を開始する五天王に対して。
それぞれに信じて委ねてもらっている得物をざっと構えて。
いよいよ、『暴威のキヌガイア』ダンジョンにおけるダンジョンボスバトル、決戦が始まった……。
一方その頃。
『虹泉』と呼ばれる魔道機械……転移ギミックにてキヌガイア軍の背後を取ったはずの俺たちは。
戦いの気配をそう遠くない場所から感じ取ったことで、すぐさまそちらへ向かわんと駆け出していったわけだが。
今度こそ一番槍は私のもの、とでも言わんばかりに。
俺がエルヴァたちに見とれ気を取られている間に猛然と駆け出していってしまったことで、偶然か必然かいくつかのグループに分かれてしまっていた。
キヌガイアの王城自体も、ダンジョンんの範囲内のようで。
どこにみんながいるのかはわかるものの、すぐその姿が見えなくなっていて。
唯一残ったチューさんが、テンジクネズミモードに戻ってお鼻をひくひくさせたかと思うと。
「ふむ、わしらはこっちへ向かうぞ!」
なんて言って肩に乗っかってくるから。
気づけば俺とチューさんは、いつの間にやらみんなとは目的地を違えてしまっていて。
あぁ、こりゃ肝心の戦いには間に合わないかもしれないな。
きっと勢ぞろいした我が軍の精鋭たちが相手のボスモンスターを見せ場たっぷりなかっこいい感じで次々撃破していくのだろうと。
間に合わなくても俯瞰して出歯亀できるからいいか、なんて気楽なことを俺が思っていた時である。
「……むむ、これはちいとばかり急がねばの、かなり弱ってるようじゃ」
「む、それってもしかして、このダンジョンのコアさんだったりするのか?」
確か、ノ・ノアによればメイテと言う名前だったはずだ。
同級のダンジョンコアの中でも早くから期待されていた子で、
ダンジョンコアを座してこなし続ける精神力は十分に持ち合わせているだろうとのことだったが。
ダリヴァの様子を見ていると、あまり境遇がいいものではなかったのかもしれない。
ある意味で囚われてから、結構な時間が経っている。
ダンジョンコア、ダンジョンのギミックに過ぎないと思っているのならば。
健やかさを保てるよう、お世話するなどといった殊勝な感情は持ち合わせてなどいないだろう。
俺はチューさんと頷きあってすぐさまその気配のする方へと駆け出していく。
「……」
「って、これは。どこの極ダンジョンもみんなこうなのか。全くもって許しがたいな。チューさん、すまないがいつものように開放した後のフォローとケアを頼む。とりあえず俺は、勝手にマスター権限を奪い取るぞ」
「わかっておるよ。もう4度目、じゃからのう」
するとすぐに。
すえた臭いのする、いくつも連なる牢屋があって。
その一番奥に、最早虫の息と言ってもいい、長い黒の混じった緋色髪の少女がひっそりと横たわっているのが見えて。
最早一刻の猶予もないとばかりに。
チューさんは今までどおり介抱の準備を。
俺は、この極ダンジョンの楔から解放するための準備を始めるのだった……。
(第176話につづく)
次回は、8月10日更新予定です。




