第173話、魔王、あまりに白々しいクソボケ朴念仁を披露する
再び場所が変わって、『暴威の極ダンジョン』キヌガイア、城門前広場。
そこでは、ダリヴァ率いるキヌガイア軍の剛の者……四天王の一人である、『カイザートロール』のエリザベートと。
我らが『ジ・エンド・レギオン』においても成長著しい、『カムラル・ユニコーン』にまで進化に至ったエルヴァとの一騎打ちが始まっていた。
「さぁさぁサァサァっ! ポニーちゅわんはどこまでワタシの愛に耐えられるのかしらねぇぇっ!」
「ふふ。愛の大きさでしたら、わたくし、負けません!」
エリザベートは、その場……大地を穿つだけに留まらず、空間ごと切り裂きかねないその身一つの拳を、絶え間なく連続で繰り出してくる。
エルヴァは、それをまともに徒手空拳で受け打ち合うのはよろしくないでしょうとばかりに。
そのお嬢様然とした佇まいに合わぬ軽快なステップで間を取りつつ。
握った拳から正しく手品のように生み出した『フレイル・セザル』+6(もちろんオレが作り出し合成したりして装備してもらったものである)を振りかぶり凪いで、絡め取る勢いで側面へと回る動きを見せる。
その瞬間、ガガガチィン! と、まさに金属めいたもの同士が軋れ擦れ合う音が木霊した。
エルヴァの棍節棒と、エリザベートの巌のような節くれだった拳。
一見、互角どころか得物ありなエルヴァの方が有利にも思えたが。
「ほらほらほらぁ! そのカワいらしい顔、もっともっと見せなさぁぃっ!」
「そんなっ、可愛いだなんて、嬉しいこと言ってくれますねっ!」
鼻と鼻が触れよといった間合いに詰められてしまえば。
エリザベートのその身一つに対して、エルヴァの得物は余りにも軽かった。
その実直すぎる拳をかわし、カウンターを狙ったのにも関わらず、受け流しきることもできずにそのまま拳の進行方向に流され吹き飛ばされるほどで。
「まだまだマダマダぁぁっ!」
「……っ! 不謹慎ですが、少し楽しいですっ!」
今の今まで、『ジ・エンド・レギオン』に加わってからもこんな熱く滾るような触れ合いなどしたことがなかったから。
そんなエルヴァにすかさず追随する勢いのエリザベート。
どうやら、あくまでも自身が優位となる間合いを意識しているらしい。
濃いキャラが先行していて、とにもかくにも力任せなイメージがあったが、存外冷静と言うかクレバーな戦い方を好むようだ。
とはいっても、肉体言語を駆使したガチンコではあるが。
そうなってくると、距離を保った戦い方が基本であるフレイルではいずれ押し切られ押しつぶされること必至であろう。
ご多分に漏れず、そのフレイルには発動できる魔法スキルが付与されているわけだが、どうやらその余裕もなさそうで。
エルヴァはすかさずフレイルの鎖の部分をフィストのごとくに巻きつけて、迫り来る拳をたなごころで包み込むように……がっぷり四つの形をとって迎え撃った。
「いいわいいわいいわぁっ! そう、こなくっちゃああぁぁっ!」
「っ、そのダンジョンにふさわしい武具を、とのことですのにっ。まだまだ力が足りないと言う事ですかっ」
体格としては、エリザベートの方が一回りは大きかったが。
希少なる【火】に愛されしユニコーンの獣人種であるエルヴァの生まれ持った自力は負けていないようで。
こんな状況を待っていた、とばかりに。
乱戦状態から、一騎打ちの様相を呈してきている状況すら忘れて、エリザベートは歓喜の声を上げる。
対するエルヴァは、慣れない触れ合いながらも楽しい、といったスタンスを外さないままも、そんな彼女のことをいなすことなく受け止めていた。
まるで綱引きのような、引き合いへし合いの、筋肉と筋肉が軋む音がするほどの拮抗。
当然、お互いの距離が更に縮まって、分かりたくもない、知りたくもないことすら知り得てしまうほどで。
「……っ! これは。エリーさんもしや、命の火を?」
「いやぁねぇ。愛したヒトのためなら極ダンジョンの沙汰までも、よぅ。アナタも乙女なら、わかるでしょう?」
「そう言われてしまえば、否定できませんね。失礼な問い掛け、失礼しましたっ」
衝撃の事実がエリザベートの口から発せられたのに。
そんな二人のやりとりがしっかり聞こえる距離にいたのは、ふたりの一騎打ちに水を差さないように取り巻きのトロールたちを押し返し立ち回りっていた、スーイとシラユキくらいのもので。
俺あたりが耳にしていたら、さぞ望むべきリアクションをしたことであろう。
言葉にするなら、『なんだって!? 全然気付かなかったぞ、エルヴァにそんな大切な人がいたなんて!?』などといった感じだろうか。
しかし、その場にそんな横槍を入れるものは存在せず。
見た目はともかく心は乙女なふたりの戦いは、いよいよ佳境に入ろうとしていた。
「ならばっ! こちらも全身全霊で行かせていただきます!」
「いいわいいわ、いいわぁ。これよ、ワタシの望んでいたものはぁっっ!」
全力同士のぶつかり合い。
お互いの軋れるほどに絞られた力の終着点にある拳は、その一撃一撃がかんなのごとくお互いの身を削っていく。
煙る血潮。
飛び散る汗。
気づけばエルヴァとエリザベートは。
まるで永久に続くかもしれない友に出会えた喜びを感じあっているかのように、笑顔を浮かべていた。
事実、血で血を洗うような触れ合いをしているのに。
これからの勝敗……結果がどうあろうとも、受け入れてもいいと思えるくらいには。
体と体のぶつかり合いで、二人の乙女は通じ合っていたくらいで。
「……っ!? ふっ、ざけんじゃないわよぉぉぉおっ!!」
「何を……ッ!?」
と、そんな時であった。
エルヴァは始め、その流れ的にそぐわない突然のエリザベートの激高に。
タイミングを外されたと、虚を突かれしてやられたと、驚嘆したほどであったが。
そのまま覆いかぶさるようにしてくるエリザベートの行動が理解できずに。
避けることもできずに、そのまま抱きとめるように受け入れる羽目になっていて……。
(第174話につづく)




