第17話、ダンジョンマスター、効果範囲の広い本を使ってみる
「……っ!」
案の定、目と鼻の先まで相対していたAさんBさんの戸惑う気配。
俺は、それを気にせず手に持った『プレッツェン(広範催眠)』の本を開く。
この状況で俺に示されし選択肢はいくつもあって。
飛んできたファイア・ボールも、避けるなり打ち消すなりできたんだけど。
魔法攻撃に対し、耐久力はどうだろうかと思いたち、『プレッツェン』の本の準備だけして、あえて一ターン様子見をすることにする。
ボウ! と音がして突っ立った俺に、炎弾がが直撃する感覚。
炎の耐性のあるものや、ダメージを跳ね返したり吸収したりするのもあるにはあるんだけど。
素の状態を知っておきたかったんだ。
「ば、ばかなっ」
その時、初めて聞こえた、盗賊風魔術師、Cさんの声。
多分それはきっと、直撃下のに焦げも延焼もせず、炎弾が散ってしまった事によるものなのだろう。
俺の素の防御力に、炎が耐えられなかったわけだな。
まぁ、ダメージがなかったわけじゃないけどね。
3ダメージってとこかな。
例のごとくベルトの効果で一瞬にして回復しちゃったけど。
「それじゃ、『プレッツェンの本』、発動っ!」
そして、お返しだとばかりに一フロア分の、視界に入ったもの……意思あるものを催眠状態にするブックのスキルを発動する。
視界に入っていれば、敵味方関係なく眠っちゃうから、敢えてフェアリやユウキを下がらせたのだとは、まぁ結果論ってやつだね。
もし目の前に味方がいたとしても、それならそれでやりようがあるんだけど、そんな事を考えているうちにも糸の切れた操り人形のごとく、バタバタと倒れていく野盗風の五人組。
「……殺した、のか?」
「いやいや、ただ……ではないけど、眠らせただけだって」
息をのみそんな事を聞いてくるユウキに、そんなわけ無いでしょと否定する。
「問答無用で攻撃してきたのはあちらさんじゃし、文句は言えんと思うがの」
「またぼくの出番がなかった……りかば~」
ひょっこり顔を出したチューさんは、頬を膨らませてもっともらしいことを。
フェアリは、カムラルベルトの力に嫉妬しているらしく、口癖になっちゃってる回復魔法のフレーズを呟いていた。
そんな三者三様に曖昧に苦笑していると、恐る恐る盗賊風Aさんに近づき、眠っているのを確認したユウキが聞いてくる。
「多分だけど、この人達リングレイン王国のお抱えの騎士か冒険者だぜ。もしかしたら、オレが帰ってこないからって派遣されたのかも」
「ふむ。しかしだからと言って問答無用でしかけてくるものなのじゃ?」
「ぼく達が魔物だからなのかな。ご主人のような魔物使い(テイマー)は、他に見た事がないからね」
「う~ん。やっぱりきゃつらのリリースの仕方、まずかったかな」
ユウキとともに我が家へとやってきた三人の男達。
ある意味魔王的な仕打ちで追い払い突き返してしまったので、警戒していてもおかしくないかもしれない。
何せ、いかにも気をやってしまった様子で、鋼鉄の像と化してしまった一人に、いつまでも狂ったように群がってるわけだからな。
ダンジョン内で大勢の魔物達相手にするなら俺にとっては結構日常な光景だけど、人に対してのそれは明らかに未知と言うか、異常事態だからな。
その原因があるかもしれない方からやってきた不審人物+ポケットなモンスターっぽいの三びきを目の当たりにして、勢い込んでしまうのは……まぁ、仕方のない事なのかもしれない。
「とりあえず眠りから覚めちゃうまえに、トンズラしようか」
この『プレッツェン』の本、ほぼ確実に眠らせられるのを引換えに、副作用があるからな。
味方に使えばうまくすればプラスなんだけど。
『デ・イフラ(幻惑混乱)』カードと『イロトラン(硬化不動)』の薬の魔王コンボな惨事を考えると、また困った事になるかもしれない。
こうなったら見なかったフリをして立ち去ってしまうのも吉だろう。
「まぁ、襲って来たのは向こうだからな」
俺の言葉に人の良いユウキは不承不承といった感じだったけど。
起きたら面倒なのは分かったんだろう。
『リングレイン』の街はこっちだ、とばかりに先導してくれて……。
(第18話につづく)
次回は、2月1日更新予定です。




