第１６９話、魔王、やっぱり神だなどと認めず下っ端ムーブする
「おーい、ジエン！ 何だか今にも建物……ダンジョン崩れそうな雰囲気だし、みんなつれて来たぞ！」
今の今まで戦っていた敵性の消失とともに『極ダンジョン』の崩壊と言うか改変が始まったことで。
『嗜虐のカタコンベ』と呼ばれる極ダンジョンのマスターを撃破、あるいはダンジョンコアの確保を俺たちが成し遂げた事に気づいたらしいユウキたち。
思わず俺が良い判断だと頷いていると。
ユウキのそんな声とともに上層階にいた仲間たちがこちらへと降りてきていて。
「ちょっとぉ！ ごしゅじんさまってば危なかったよお！ いきなりくちゃいわんこが消えるもんだからあやうくみんなを穴だらけにするとこだったー！」
「ふふ。のんってばあんなに匂いに困ってたのに。でも、空を駆るのんを見ていると、あれこそが本来の……のんの真骨頂なのかもね」
「ふむ。あれだけの死の匂いが無くなっていますね、今回も私の『三回目』をご披露する事叶いませんでしたか」
「おお、おそかったねみなのしゅう。わたしの大活躍をその目に焼き付けられなかったようだね」
「見てないからと何を云うておると言いたいところじゃが、改めて地に足をつけての攻略、皆が皆頼もしかったのう」
今にもダンジョンが崩れかねない揺れが続いてはいたが。
極ダンジョン攻略で数えても二度目であるせいなのか。
それが『嗜虐のカタコンベ』から『第四ホーム』へと変わっていくためのものであるとみんな理解しているからなのか。
俺が思わず一歩引いてしまうくらい賑やかなやり取りをしている中で。
今回の探索メンバーが勢ぞろいした事で恥ずかしくなったのもあるんだろう。
それまでチューさんのむちむち膝枕にて、ここまでのダンジョンコア活動の疲れを癒していたセイカさんは、慌てふためいて起き上がって。
久方ぶりであろう親友の姿を目の当たりにして言葉が出ないでいたノ・ノアとの再会、対面を果たす。
「あっ、ノノアちゃん！ 魔力が途絶えちゃっていたから心配していたのよ」
「……もう、セイカちゃん！ それはこっちのセリフだよう！ 無事で良かった、本当にっ」
かと思ったら、かしましい輪はすぐに解け開けて。
一流のダンジョンコアになるための異世界の学園にて同級生で幼馴染で親友であるという二人は。
そんな言葉にならない言葉をこぼしつつ抱き合っていた。
「やっぱりノノアちゃんもダンジョン……ジエンさまのお力によって極ダンジョンコアの柵から開放されたのね？」
「うん、うん！ ずっと夢見ていた、ここだけじゃなくていろんな世界にいけるんだよ！ まあ、一流のダンジョンコアとしては、とは思っちゃうけど」
「それは……私たちはダンジョンコアとして動かず命を全うしなくても良いってこと？」
「うん。あ、そうだよ。良く考えたら私たちってもうダンジョンコアじゃないんだよね。『ジ・エンド・レギオン』のダンジョンコアはあくまでもチュートさんだけだから。引退ってわけじゃないけど、普通のデーモンに戻っちゃったってわけ」
「どう見ても普通の、ではないがの。まぁ。つまるところ、セイカには選ぶ権利があるというわけじゃな」
「あ、そっか。よく考えたらここにはダンジョンコアのセイカさんと、お話し合いをしにきたわけだしね」
「はいっ。だから、その……セイカちゃんがしたいようにしてくれていいんだよ。ここのダンジョンはもう変わっちゃうけど、故郷に帰るっていう選択肢もあるし、そのあの、ええと。私といっしょにいてくれないかなぁって」
極ダンジョンのコアのみなさんは。
それぞれが極ダンジョンコアとして誇りを持っているはずだからと。
極ダンジョンを攻略する事となっても、そのコアの去就と言うか扱いは。
それぞれの考え、意思に従うというのが、ノ・ノアの初めの強がりだったけれど。
こうして実際に幼馴染みで親友のセイカさんと顔を合わせて、思わず本音が出てしまったらしい。
それで言うのならばダンジョンコアを引退してしまうと。
あるいは完全攻略を意味する破壊などをしてしまうと。
そのダンジョンを楽しめなくなってしまうわけだから。
是非にでもこの『第四ホーム』の担当コアになって欲しいといった、俺の本音もあったわけだけど。
「え？ いっしょも何も……まさかダンジョンしん……ジエンさまっ！ 私はここでコア引退なのですか！？ 実家に帰らねばならないのでしょうか？！ いち、天使として生まれ落ちた時からあなた様に付き従うと決めていましたのに！？」
「わ、セイカちゃん？」
「ふむ。【光】の天使種の一族であったか。今更過ぎるが、ここまでやっておいてじゃあさようならとはいかぬぞ、主どの？」
「いやいやっ、俺そんな事も一言も……って、そもそも喋らせてもらってませんが！？ と言いますか、ノ・ノアに『第三ホーム』を任せているように、この『第四ホーム』（仮名）をお任せしたいって思ってたんですけど！」
ユウキの故郷にたくさんあったという治療院風の建物群によって構成されている、世にも珍しいダンジョン。
未だ楽しみ尽くしてはいないのだから、当然のようにそのつもりだったわけだけど。
どうやらチューさんもセイカも、そんな俺の言葉を敢えて待っていたようで。
「ありがとうございます！ ダンジョン神……ジエンさま！ 不肖セイカ・セザール、『第四ホーム』の担当として、誠心誠意お務めさせていただきたいと思います！ そう言うことだからノノアちゃん。いっしょに頑張りましょうね」
「あ……う、うん！ ジエンさま、セイカちゃんも採用してもらって、ありがとうございます！」
「天使と悪魔かあ。ますます本当に神様じみてきたねえ、ジエンさま？」
「くうっ、何だかよくわからないうちにはめられているような気がする！ ここは戦略的撤退！ しがない下っ端荷物持ちな俺はとりあえず先行して偵察しに行くことにするぜ！」
「む。まだその設定引きずってるのかの」
「また息するように罠をこわしよる」
「わぁ、ずるいー、はやいーっ」
ただのダンジョン好きな言葉通りの男なのに。
何やら訳のわからないうちに祭り上げられそうだったから。
それは勘弁……キヌガイアへ向かっている面々の事もあるからと。
取り急ぎ、文字通り逃げるようにして更にここから下層へと向かえるだろう通りへ駆け出していく……。
（第１７０話につづく）
次回は、６月２９日更新予定です。
