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エンドロールには早すぎる~一万回挑める迷宮に棲まう主(まおう)は、マンネリ防止、味変したいと人様のダンジョンに突貫す~  作者: 大野はやと
メイン:エンドロール前

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第163話、ダンジョンマスター、いないことで過保護さがより鮮明になる




驚きともつかない歯を軋ませる程の咆哮を、下の階層に落っこちながらユウキは上げていたようで。

いつの間にか手にしていた勇者然としていた雷迸る剣すら放り、それでも無意識に落下の衝撃に耐えうるべく、同じく声上げて落ちていく、襤褸をまとったデュラハンを離さぬまま、下敷きにする事に成功する。




「げぎょおはああっ!?」


ぐちゃりと、叩きつけられ押さえつけられ大地の染みと化し、文字通り断末魔の声を上げる襤褸のデュラハン。

何とも言えぬ嫌な感覚にユウキははっとなりつつも。

どうせ放っておいても復活するのだからと。

そのまま四点着地を決めたユウキは、ぐるりと辺りを見回してチューさんとピプルの姿を探し求めた。



「ほほ、ようやっときおったか」

「こんなにも頼もしいと思えるのは、ちょっとくやしい」

「くふふふっ。同じ、おなじぃだ、極ダンジョンぅの匂いがするぞぉ。ヤツがのたまっていた地下大陸の探索者……勇者だなぁ? 一度解剖してみたかったんだ。ちょうどよかったっ、そちらからきてくれるとはなーぁ」


 

結果的にチューさんに続いてひとり馳せ参じる事となったユウキ。

チューさんもピプルもほっとしつつも、特にピプルはうちの勇者さまがたいへん頼もしく見えたようで。

まったくもって悔しそうに聞こえない、そんなセリフをこぼしていて。


一方のギルデッドは、やはりなんとはなしに懸念していたように、

俺達についての情報が、ラマヤンさん配下の残党か、あるいはキヌガイア陣営辺りによって伝えられていたらしい。


俺たちがどちらかというかダンジョン側である事に気づいたように。

ラマヤンさんの極ダンジョンを乗っ取ってしまったことにもお気づきのようで。

むしろ、その口ぶりからすると、チューさんやユウキだけでなく俺をここへおびき寄せるのが目的であったのかもしれなかったが。




「……チューさんっ、ピプルさん! 二人とも怪我してるじゃないか! あ、そうかっ」


ユウキは、二人の名を呼びつつも、二人がそれなりに傷を負っている事にも気づけたらしい。

普段なら過保護に過ぎるダンジョンマスターが問答無用で回復してしまうので。

そうでないということは、俺がダンジョンコアがあるかもしれない更に下層へ先行していることにも気づいたようで。


そこで言葉を止めて。

ユウキはすぐに復活するだろう襤褸を纏ったデュラハンを警戒しつつギルテッドに相対する。

チューさんもピプルも、そんなユウキに反応したのは最初だけで、そのまま油断なくギルテッドを見据えていて。



「さーぁっそく、診させてもらおうじゃないか」

「邪魔だぁっ!……【カムラ・ソード】!!」

「ふぇぎゅぶおぉっ!?」



喜々として、鉗子とメスを振りかぶるギルデッド。

しかし、得物としてはリーチの無さ過ぎるそれらは。

当然のようにユウキに届くことはなく。

ユウキにしては珍しい怒りの篭った言葉と魔名で刹那の瞬間召喚された……

そう思えるほどに威圧感と存在感を放つ、透けたその身に虹を潜ませた水晶の剣が目の前にいきなり現れる。



それは、ユウキの本来の得物である。

今思えばこの極ダンジョン、『嗜虐のカタコンベ』へやって来る際にそれを持ってこなかったのは。

ユウキがガイゼルの剣(稲妻の刃型をした、勇者心をくすぐるもの)を持って行きたがったと言うのもあるが。

もしかすると、こうしていつでも呼び出せる……ユウキ自身の魂に依る武器となっていた事を、本能で分かっていたからなのかもしれなくて。

ステータスを開く事ができなのならば、きっと自身の魂が登録した得物一覧的なものがあるんだろう。



そんな益体もない事を考えてしまうくらいには。

それからの展開は、何故かスローで見えてしまうくらい、衝撃的なものであった。



ユウキ自身の成長と、細々していた強化により目を見張るほどに大きくなった……視界をほとんど塞いでしまうくらいの巨大な英雄ステューデンツの剣が。

尋常ならざる動きでもって、【カムラル】の魔力迸らせつつ、脳天から股下まで分かつがごとく、ギルデッドの身体を通過する。


それは、無慈悲に、何の感慨もなくあっさり受け止めたギルデッドすらもしばらく気がつかなかったほどで。

随分と遅れて聞こえる、ギルデッドの正しく断末魔の叫び。


しかしそれすらも、ユウキはまったくもって見てはいなかった。

むしろ、無意識のままに呼んだ英雄の剣の存在すら、それを豪放磊落に振るった事すら頓着していなかったのかもしれなくて。




「……チューさんっ! ピプルさんも、おいおいなんだよジエンのやつ! 今すぐ回復するからっ!」

「むむ。なんじゃ。ユウキがこれほどまでにうろたえるのを見るの初めてだの」 

「落ちついて。ただのかすり傷だから」


それはもしかしたら、故郷を思わせると言うこの場所のせいもあったのかもしれない。

まるで、何かトラウマを刺激されたかのように落ち着きがなくなるユウキ。


ユウキが言いかけたように。

二人を残して先行する形になってしまったが。

それこそ『リヴァ(復活蘇生)』が発動するような展開にならないように色々装備してもらったり持ってもらったりしていて。


しばらくすれば装備品の汚れすら綺麗にはなるのだけれど。

うちの勇者さまが手づから回復魔法を使うというのだから。

チューさんもピプルも空気を呼んでされるがままになっていて……。



    (第164話につづく)









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