第162話、魔王、居ぬ間に勇者はばりばり成長中
時は少しばかり遡る。
第一階層に残ったユウキ、フェアリ、ディー、ヴェノン、ノ・ノアといった過剰戦力すぎる面々は。
『嗜虐ノカタコンベ』の中ボスモンスターであるらしい襤褸を纏いしデュラハン+人面犬三体に対して。
終始優位なまま、しかし終わりの見えない戦いを続けていた。
アンデッド系のモンスターであり、彼らにとっていくらでも復活できるホーム。
ユウキとしてはいい鍛錬になるし、続けるだけ続けていてもとは思っていたが。
『第三ホーム』や街自体が暴威の極ダンジョンと化しているらしいキヌガイア国へと偵察に言っている面々の事も気になるわけで。
この状況を打破することは、先行して下の階層へ降りていったジエンたちにかかっているのだろう。
「げははぁっ!」
「はっ、倒れても倒れても懲りないなぁ! 歯ごたえがあっていいけど!」
まるで自分に注視しろとでも言わんばかりの。
野武士なデュラハンとお決まりの掛け声と、一層苛烈な斬撃。
であるのにも関わらず、人面犬たちからかわってデュラハンの相手をしていたユウキは。
ほとんど無意識のまま、今まで以上の威力を持って無造作に押し返していた。
「げっはぁぁっ!?」
「おっ、フェイントか? やるなっ」
それは、ここに来てすぐ襤褸をまとった首なしに対した頃と比べてもスタミナが切れるどころか、明らかに気勢が増していたが故の結果であった。
実際は野武士のデュラハンが巧みに引いたのではなく。
ユウキ自身も気づかぬ程、あるいは異常な程あらゆる経験を糧にして成長し続けていたからと言ってもよかった。
それは、この世界に来てからのユウキの特性でもある。
ここに来るまでのユウキは……最早そのことすら徐々に薄れ忘れ出しているという弊害もあるが。
日がな病室か保健室で過ごすばかりであったわけだから、その成長性は目を見張るものはあった……自身で気づけなかったのも無理からぬことであった。
やはり、故郷では燻っていただけで、元々素養……勇者としての資質があったといってもいいのかもしれない。
「よっし、たまには勇者っぽい魔法でもいってみようか! ……【ガイゼル・ライン】っ!」
「げぇはああっ!?」
勢い余った……わけではないのだろうが。
ジエンとピプルとチューさんが事を済ませるまで膠着状態が望ましいと考えていたのにも関わらず。
故郷でも気づかずとも得意属性であった『雷』の付与魔法を剣にまとわせ、横一閃のなぎ払い。
襤褸の甲冑のごとき鎧ごと、野武士のデュラハンを胴体から二つにわかつ。
しかし、それでも撃退に至らず、あっという間に胴と胴がくっついて再生を初めているわけだが。
ユウキとしてはそれも予想の範疇であったのか、
ろくに一瞥すらもくれず、その代わりにジエンがピプルとチューさんをつれて降りていった不気味としか言いようのない階段を注視していた。
「ああ、それらしいところ見つけたんだね。確かにあの頸がなってる樹、怪しいもの」
「うう、囚われていた自分を思い出してしまいます」
「すぐに追いかけたい所ですが。鎧を着たままで通れるかどうか」
「ちょっとぉ! 気づいたらのんばっかりくっちゃいわんちゃんあいてにしてるじゃんかぁ!」
どうしたっておどろおどろしい、ノ・ノア自身が囚われていたものと似通った悪趣味な樹木。
どうやらそれは、極ダンジョンにとってみればよくあるギミックらしく。
正しく下層へ行くための階段のごとくで大地にしっかり根を張っていて。
その先に極ダンジョンのコアであり、ノ・ノアの幼馴染みにして友人であると言う『セイカ』が囚われているのか。
既にジエン達が向かっているのだから、コアを囲っているダンジョンマスター、あるいは魔王がいたとしても何とかなるんだろうと。
ユウキだけでなくフェアリたちも確信持っていたわけだが。
いい加減終わりのないだろう戦いが嫌になったら、強引にでもそちらへ向かってしまえばいい。
病院に縁があるというか、この極ダンジョンのモデルが病棟であるとすぐに気づけたユウキは。
そんな馴染みのある場所に足を踏み入れたからなのか、あるいは別の要因があるのか、すこぶる調子が良かった。
バーサク状態というか、あまり考える思考がなさそうに見える人面犬たちや、襤褸をまとったデュラハンが、共に現れたのにも関わらず、連携する素振りを見せなかった事もあるだろうが。
火力過剰に過ぎて満足に戦えた試しのないフェアリヤヴェノン、ディーにしてみればこの膠着状態はただストレスが溜まるものなのかもしれなくて。
「……んっ!?」
「げははははっ!!」
なんて思っていた時だった。
色々と思考が横に逸れ片手間に相手をしているようにも見えたユウキであったが、決して集中を切っていたわけではない。
しかし、下層で何か動きでもあったのか、襤褸をまとったデュラハンの押し込む力が急激に上がったではないか。
そのまま押し倒されそうになるところを。
ユウキは体を投げ出すように……転がるようにして回避する。
「……【ヴァレス・バレット】っ!」
そして、その状況からの追撃を読み、ユウキは不可視の風の弾丸を打ち出す魔法を繰り出す。
案の定、体勢を低くして首の断面図を見せつけるようにして突っ込んでくる襤褸のデュラハン。
「げぇごうっ!!?」
どうやらどこから出ていたかも分からなかった声は、断面図のそこにあるいろいろな管器官が空気を押し出す事によって出しているらしい。
それを押し潰される形になったデュラハンは、驚愕めいた声をもらしたが。
やはり何かあって急激に力が上がったらしく、そのまま突っ込んでくるではないか。
「さてはジエンたちがやってくれたかな? きっとオレと一緒で、相棒っていうかマスター的な存在に救援に行きたいんだ、ろっ!」
「げっ、はああっっ!」
まさかユウキのように戦いの最中で成長し続けているわけでもあるまいし、そんなユウキの予想は大きく外れてはいないように思われた。
きっとジエンたちが、この極ダンジョンのダンジョンコアを見つけたか、それに類するボス、ダンジョンマスターを発見したのだろう。
一層激しくなる鍔迫り合いの中、首と首を近づけ挑発しつつ反応を見るに、どちらかから救援の合図でもあったのかもしれない。
一刻も早くかけつけなければという士魂めいた意思により力が増したというか、焦っているようにも見えて。
そのような気概なら負けてられないと。
ならば余計に押し返してやろうとユウキが勢い込んだ時だった。
見目のよろしくない、あまり長時間視界に入れたいとも思わないロケーションの向こうに。
間違いなく襤褸を纏ったデュラハンがないはずの視線を向けていて。
次にユウキが我に返ったというか、僅かばかり視界が開けたのは。
クリンチするように押し込んで押し込んでもろとも道連れにするがごとく。
襤褸のデュラハンもろとも樹木でできた階段の下へと真っ逆さまに落ちていく、その瞬間であった。
「げっはぁっ!?」
「ま、マジかぁあああっ!!」
ないはずの視線に誘導されて、その隙に掴まれたか。
思わず驚愕の声を上げるユウキであったが。
それでも無意識に落下の衝撃に耐えうるべく。
軋む声上げて襤褸を纏ったデュラハンを離さぬように。
下敷きにするみたいに下層へ転がり落ちていく事となって……。
(第163話につづく)
次回は、5月11日更新予定です。




