第157話、ダンジョンマスター、初めてのダンジョン防衛戦にゴーサインを出す
一方その頃。
『第三ホーム』一階層、元『虚栄のフィルマウンテン』の入り口。
固く閉ざされている扉の向こうにはデーモン種めいた魔物と。
白塗り全身鎧を身に纏った、一見すると魔物か探索者であるのか区別のつかない軍勢が集まり出している。
全身鎧の軍勢は、『キヌガイア』の尖兵たちで。
デーモン種は、虚栄の極ダンジョンが乗っ取られた可能性に気づき偵察を差し向けてくる可能性が高いであろう、『慚愧の極ダンジョン』があると言う『ドォーミク』の軍勢だと思われる。
異変に気づいた、とは言ったが。
恐らく今回は定期的に補給されているはずの人員が滞っていたからこそ様子を見に来たのだと判断していて。
「ほほーう。別陣営同士が集まってきてる? 偶然鉢合わせたって感じじゃなさそうだケド」
「けっこうたくさん白いのと黒いのがいるねー。さんくちゅありたくさんはっつけたから入ってこられないとは思うけど」
「うう。せっかく人型になれるようになったのにぃ。いきなり実戦ですかぁっ」
あるいは、アオイやエルヴァがそうであったように。
日々『ジエン・ド・レギオン』の面々は、マイダンジョンにて探索、鍛錬を繰り返していたこともあって。
ちらほらと新たなるメンバー、『人型』に進化した者たちが現れるようになっていた。
様子見、偵察だろうと思われる割には中々の軍勢であったが。
『第三ホーム』をダリアとアオイに任せてその他の人員が出払えているのは。
それでも少し緊張した様子を見せている、健気さを擬人化したかのようなチェリーレッド・スライムのチェルを初めとした、そんな成長著しい面々が揃って来ている、と言うのもあっただろう。
「それにしてもよおく見えるねー。ダリアちゃんのはつめいひん。白いのと黒いのあんまりともだちって感じでもないみたい」
「確かによく見える。見た所入口の扉を開けられるような権限を持つものはいないようだが……」
「ちちっ」
「そのまま仲違いしてこっちに来なければいいんですけどぉ」
「こちらからは見えるケド、あちらさんからは見えない、魔法鏡仕様ダヨ。しっかし、これはこれで失敗だったカナ。向こうから見えていればこんな風に膠着状態にはなってなかったカモ」
現在、先に挙げた防衛メンバーな三人に加えてもこもこの見た目と相まって知性が滲み出ている『ビッグ・ウール』のエファと。
一見すると偽悪的な態度を取っているようにも見えてしまう、敢えて多くを語らない『アーヴァ・コボルト』のリウ。
更に未だ人型までは至らない、それぞれの長の元隊となって動いているテイムモンスターたちは。
第三ホーム一階層に陣取り、その入口周りに徐々に増えてきている魔物たちに対していた。
もっとも、ダリアが言うように。
ダンジョンギミック作成が得意な彼女がチューさんの許可を得て作り出した半分だけ透明化が付与されている壁……ダリアによれば魔法鏡と言うらしいギミックにより、こちらからは扉開けずとも外の様子が伺えるのだが。
あちらさんからすればただただダンジョンは固く閉ざされ、沈黙を保っているように見えるようで。
千にも届きそうな軍勢が集まってきているにも関わらず、あまり統制が取れていない……アオイの言うところの扉を開けられるような権限を持つもの、ボスクラスの魔物たちの姿は見えず。
白と黒の軍勢同士でいざこざ、小競り合いが起き始めている状況であった。
「でも、このままおうちの前でけんかがはじまるのもなー。マスターには誰かが入ってきたら丁重にお帰りいただいてくれって言われてるだけだしなー」
「ちっ」
「しかし、扉を開けて迎え撃つと言うのもいかがなものか。向こうからこちらが見えていない以上、
われらがここの支配権を握り座していることにも気づけまい」
「そ、それじゃあ相手に動きがあるまでこのまま見学ですよね、ねっ?」
「ギミックに内から遠距離攻撃を付加することも可能ではあるケド。確かにあの様子じゃあこちらの状況を把握しているようには見えないし、下手に攻撃したり出て行ったりするのは悪手カモネ」
実のところ。
ダンジョンであるからして、探索者であるのならばその来訪を拒む理由はなくて。
単純にダンジョンを楽しみたい、と思うものが現れたのならばその扉は開かれるわけだが。
見た感じ、そんな探索者の姿は見当たらない。
あるいは、魔物であったとしてもダンジョンを探索し攻略したいといった気概があるのならば入ることは可能なのだが。
未だ将、隊長クラスの魔物たちの姿は見えず。
当然俺と同等の存在、ダンジョンマスターがやってきている感じもないので。
ダリアやエファが言うように、ここは相手の動きがあるまで様子見が吉だろうと思っていると。
「ちちっ!」
「あっ、何だかとっても大きいのが来ますよ!」
「破砕槌に、攻城兵器かな。あれを扱いを命じているのがこの軍勢の将だろうか。どうやら入れないのならば壊そう、といった程度の頭はあるようだ」
「わわおっきい鬼さん! あれだけおっきければだんじょんの壁も壊せちゃう?」
「……ふむ。こんな事もあろうカト、直ぐに迎撃ギミックを組むことはできるケド。相手が攻撃してきたのならば前陣営だとて反撃くらいはするだろうし、ここは迎撃システム発動させちゃってもいいデスかね!!」
「わ、おっきい声。もちろんいいよーっ!」
やはりというか、ダンジョンボスクラスの魔物たちは控えていて。
無理矢理壊してでも入らんとする準備をしていたようで。
普通に考えれば、ダンジョンの外枠の壁は破壊不可なギミックであるから、とも思うが。
あるいはダンジョンマスターが生み出した、破壊不可ギミックにも対応している品を準備してくるのならば話は違ってきて。
もしかしなくとも俺が俯瞰しつつ覗き見している事に気づいているであろうダリアのそんな叫び声。
問題なし、よろしく頼むと何かしらの信号を送るよりも早く。
元気いっぱいにアオイがそう返したから。
ちゃっかりそれに、そのまま便乗することにしていて……。
(第158話につづく)
次回は、4月6日更新予定です。




