第154話、ダンジョンマスター、千里眼をお願いしつつ鷹の目出歯亀する
「それで、はるばる、でもないけどやってきたわたしは何をする?」
「ぬぅん、【ピアド・ウェイブ】じゃぁっ!」
「げはぁっ!?」
組み合わせの妙と言いますか、発動時間のかかる瞳術使いなピプルが持て余しているようだったからちょうど良かったのですなどとは。
ここへやってきてずっと後方司令官面している俺が言うのは申し訳がない気がもしていたけれど。
そんな俺よりも早く、軟体動物……火の星の人のようなトリッキーな動きをしつつのチューさんの蔦攻撃が襤褸をまとったデュラハンに直撃。
倒すと言うよりも間合いを開ける意味合いがあったようで。
襤褸をまとったデュラハンを、大きく一歩二歩引かせ、たたらを踏ませる事に成功する。
さすがのチューさん、これはちょうどいいと。
そうは言ってもこの『嗜虐のカタコンベ』の攻略を開始してから1階層へ止め置かれていることに憂慮し、せっかくだからその先への道行き見つけんと、そんなピプルに言葉返す。
「よし、それじゃあピプルにはこの極ダンジョンのコアさんがいる場所、あるいはそれを守っている魔王的ボスの存在を探し出して欲しいんだ。今いる一階層に中ボスレベルの連中がいることを考えると、ここも重要な場所なのかもしれないけれど。うちみたいに3桁目前の階層を擁しているようにも感じられないから、恐らくコアのギミックもここからそう遠くない所にはあるはず。ピプルには得意の瞳術でそれを見つけてもらいたい。もし見つけたら俺もそっちにって言いたいところだけど、ここの魔物たちってすぐに復活するみたいだから、みんなですぐにこの場を離脱したいと思う」
「わしらはそれまでの時間稼ぎってことじゃ、な!」
「……分かった。そういうことならわたしの中でも数少ない攻撃性のない瞳術を使う。名前ままの【サウザンド・アイズ】。……ああ。ここのコアのひとを探すにあたって何か手立てというかヒントはないの?」
「おお。アイテムもギミックもモンスターもなんでもござれな千里眼かな、そりゃあいい。これはあくまでも俺の感覚だけれど、恐らくここは5階層あるかどうかのダンジョンだと思う。ここのダンジョンコアの『セイカ』さんは、ノ・ノアによれば【光】と【木】……うちで言うならエルヴァと似た魔力構成かな。見つけたらすぐに教えて欲しい」
「……任された。何とかやってみる。それじゃあ、補助瞳術……【サウザンド・アイズ】っ!]
4すくみの戦いはどちらもこちらが有利に動いていて。
皆の成長っぷりに感心しつつも、いまの膠着状態を打破するための最重要ミッションの開始である。
それじゃあ任せたぞと、再び襤褸のデュラハンに突っ込んでいったチューさんを脇目に。
ピプルはそんな風に歌い唱えた後、深く深く集中して潜り込んでいく……。
※ ※ ※
―――『キヌガイア』王国、外門前広場。
二階層、天上世界において数少ない、未だ人間族が支配する地域。
『虚栄のフィルマウンテン』が『第三ホーム』へと変わり果ててしまった事に気づくのが。
恐らく一番早いのが、少し前まで『虚栄のフィルマウンテン』から魔物たちを補充、スカウトしていたという『暴威のキヌガイア』ダンジョンの陣営であろうということで。
『第三ホーム』の防衛に割く人員とは別に、こちらへも情報収集に出向いてもらっていた。
その人員とは、正しく聖女然とした雰囲気纏いしエルヴァと。
大魔導士の名を冠するのも近いであろうスーイ。
自由自在に動ける範囲はもはや海だけにあらず、陸海空自由自在なシラユキの三名である。
(アオイとダリアには、それぞれの部隊の若き人員たちとともに『第三ホーム』の防衛を任せてある)
「いやぁ、ここまで来るのに時間がかかったね~。エルヴァさんがいなかったら日が暮れてたよ~」
「本当にね。エルヴァさまさまだわ。わたしとてはほうきやじゅうたんも使ってみたかったけれど」
「恐縮です。久しぶりに働いた気がしますわ」
どうやら、極ダンジョン『暴威のキヌガイア』とはキヌガイア王国そのものがダンジョン化したものであるらしい。
ある意味でダンジョンと共生といった究極の形ではあるが。
当然魔物たちが闊歩し、罠が張り巡らされ、定期的に地形が変わると言うことであるのでそこで普通に人々が暮らすのはむつかしいことではあるのだろう。
よって、『キヌガイア』の人々は、今エルヴァたちのいる外門周りにてキャンプなどを張り、日々門内へとゲリラ戦、攻略を仕掛けているような状況のようで。
そんな常在戦場のような状況であるのならば。
他所のダンジョンの事を気にかけている余裕も無さそうにも思えるが。
『虚栄のフィルマウンテン』に用があったのは、『キヌガイア兵』と呼ばれる魔物たちをスカウト、召喚、あるいは招いているとのことで。
『暴威のキヌガイア』を運営している魔王とその陣営ならば『虚栄のフィルマウンテン』の異常に気づくだろう、とのことだったわけだが。
「本当に戦場じゃない。意外と探索者たちがおしてるってことかしら」
「下からあがってきた人たちはみんなここに集まってるのかな。どちらもあまり余裕はなさそうだけれど~」
「あくまでご主人様の命として偵察ではありましたけれど。これは、動くに動けませんね。もどかしいです」
立場的に探索者と運営、そのどちらの味方とも言えないわけだけれど。
どちらも等しく傷つき疲弊しているその状況に、特にエルヴァは思うところがあるようであったが。
この状況で、三人だけで攻略を始めてもらうわけにもいかず。
後方どころか鷹の目状態で見守っている俺としては。
やはり手早くこの膠着状態から脱しなければ、なんて思っていて……。
(第155話につづく)
次回は、3月16日更新予定です。




