第152話、ダンジョンマスター、自分を棚に上げて極ダンジョンは長時間いれるものではないと知る
「……ひひひひひっ!」
「っ、やっぱりね。もう復活してる」
フェアリが油断せずにいられたのは、やはりマイダンジョンでの経験が多分にあったのだろう。
現在進行形で攻略中である【嗜虐のカタコンベ】に限らず、極ダンジョンに出現する魔物たちは。
上層階に現れるものだけに限らず、ボスレベルの魔物も、基本的に倒しても復活する仕様であるようだ。
そんな中でも、この【嗜虐のカタコンベ】が魔物、モンスターたちを回復治療させる場所であるからなのか。
1階層に現れた彼らの復活の速さは尋常ではなかった。
おそらく、極ダンジョンが活動するためエネルギー、その源が近いのだろう。
つまるところ、【嗜虐のカタコンベ】のダンジョンコアがいる場所は。
基本的に99階層が到達点であるマイダンジョンとは違い、10階層もないのではないか。
そんな風にも想像できて。
そもそもが、此度の攻略、その目的がダンジョンコアとの邂逅であるからして。
復帰速度の早い彼らを放っておいてすぐさま次の階層へと向かうのが最上の策かと思われたが。
当然相手もそれが分かっているのか、中々にその隙を与えてくれそうになかった。
そんな風に後方司令官面してみんなの戦いを見守っていると。
いくつもの生成り色の触手からいくつもの水弾を打ち出し、腐液撒き散らし押し込んでくる人面犬Aと押し合いへし合いしながら、フェアリは俺をちらりと見やる。
草の弦をいくつも繰り出し気を吐くチューさんが首なし……襤褸をまとったデュラハンと相対しているのを。
いつでもフォローできるように後方待機しているのが見えただろう。
改めて人さまの極ダンジョンを攻略するにあたって思うところのあった俺は。
そうしてて手も出さずに腕組んで考え込んでいるようにも見える程度には余裕があると思われたのかもしれない。
実際、俺が手を出さずとも火力強めではあるがバランスも良い今回のメンバーならば問題なく攻略出来るだろうと思っていたのは確かで。
言葉交わさずとも、フェアリもその余裕を感じ取ってくれたようだった。
「はぁあああっ!!」
いざとなればなんとかなるのだと。
それが後押しとなって、普段は後方に留まることの多いフェアリは。
ノ・ノアが大技を発動するための隙をつくらんと、切迫の気合いとともに重心を低くして。
その儚げな見た目とは裏腹に、己の全体重で圧潰すがごとく、突進していく……。
※
「だんざっ……だんざをぉぉ……」
「む。復活が早いですね」
「わぁっ。くちゃいよぉっ。ぜんぜん新鮮じゃないし!」
『だんざ』ばかりを口にする、舌が二股に分かれた人面犬B。
二人の一ターン3回攻撃は当たり前な攻撃もってして跡形なく吹き飛んだかと思ったら。
一瞬で復活し、ぶよぶよで赤黒い地面を掻き掘る仕草をして見せた後。
極ダンジョンの強烈に肉酷なロケーションを生かして腐臭を撒き散らしつつ再度ディーとヴェノンへと向かっていく。
元はリビングアーマー……倒されても復活することには一家言あったであろうディーと。
吸血コウモリの血がそうさせるのか、血湧き肉躍る戦場が好ましいというヴェノン。
今の今まで二人共攻撃力が強すぎて、鎧袖一触な展開ばかりであったから。
自身の力が通用するが、同じことの繰り返しになってしまうその展開にやきもきしていることだろう。
ならばどうすればいいかと、考えているディーはともかく。
考えて行動することが苦手+新鮮でない血肉の匂いが充満するこの場所では、ヴェノンとしてはどうしたらいいのか分からない部分もあるようだった。
現在では、『デイ・ウォーカー』と成り、我が軍の特攻隊長的立ち位置にいるヴェノンであるが。
普通の吸血こうもり時代にマイダンジョンにて出会った頃から、とりわけ鼻が良いと自慢していたヴェノン。
そんなヴェノンの鼻は、スキルといっていいくらい、悪意や殺気、気配などを察する事ができる。
ヴェノンが無事マイダンジョンを突破して、今こうしてここにいるのは。
そんな危険を察する力があったからこそ、なのだろう。
それと同時に、ヴェノンはこの【嗜虐のカタコンベ】が人が長時間いていい場所でない事を理解しているようであった。
おそらく、長時間居れば環境的に身体的にも精神的にも負荷がかかりガタが来るだろう。
決して、人が適応できない場所。
平気で何だかんだで毎回ダンジョン攻略時についてこようとするユウキなどは。
正にダンジョン専用、ダンジョンのために在る勇者であることの証左なのかもしれない。
まぁ、何か状態異常があったりHPが減っていたりしたら俺やそれこそフェアリが治してしまうからこそ。
そう言ったダンジョンの危険に気づけることは良い事なのは間違いなかったが。
そのあまりにも効きすぎる鼻を思わず押さえることで両手装備を外す形になってしまったヴェノン。
故にこそ、既にそこまで迫ってきている人面犬Bの、毒そのものであろう前足の爪に対する対応が遅れてしまう。
「……とはいえ私も頭を使うことが得意と言う訳でもないのですが」
ヒュゥドッ!
「だんざげぎょぅっ!?」
まるで、こうなることが分かっていたかのように。
いつもは三回攻撃と言いながら威力が強すぎて、多くても二回でとどまっていたことで。
地味に一度も使う機会のなかった、ディーの全身鎧、その背中に装備装着されていた鉄製の弓。
いや、それは引く動作がいらないのでボーガンと呼んだ方がいいのだろう。
俺が渡したマイダンジョン産の装備品ではなく、ディーが初めから持っていたもの。
使う機会がとんとなかったものだから、鎧のデザインだと思われていたもので。
面差しから覗く銀に光る瞳。
僅かに金属が軋れる音がしたかと思うと。
ほとんど予備動作なしに、だた一つの矢を放つ。
射程は弓と考えればゼロに等しいが。
魔力をかなり持っていかれるぶん、掠っただけでも頼もしい結果をもたらしてくれるようだ。
事実、そのたった一撃で人面犬Bの頭を打ち砕いてみせた。
「はてさて。身体だけ残した状態ではどうでしょうか」
「うーっ、においがもっとひどくなったよぉ」
「発想は悪くない、と思う! だけどベストはするしないは別として俺がテイムできる状態に止めおくことじゃないかな」
「……なるほど。了解ですっ」
「てかげんはのんにとってみればいちばん遠いことばだよう……あ、でも。よく考えたらもうとっくにお鼻、ダメになってるし。動くだけなら動けるよ!」
「……だんざ、だんざぁっ!!」
「ふむ。やはり死霊の類ですか。ならば早速のん殿、彼奴らの足を封じましょう!」
「りょうかーい!」
やはり、極ダンジョンのコア、極ダンジョンそのものといってもいいその主か、それに類するものを滅しない限り、人面犬達は蘇り続けるのだろう。
彼らは復活は早いが耐久力も見ての通りで。
それをテイム状態で止め置くことは。
攻撃力パラメータ極振りな二人にとってみれば。
確かに良い経験、レベルアップに繋がっていくことは間違いなさそうで……。
(第153話につづく)




