第15話、目下ダンジョンマスターが怖いのは、フレンドリーファイア
そんなこんなで再びフィールドへ。
今度は、ただ我が家の入口を塞ぐだけでなく、簡単には入れないように『ばね(ホップ)』や『落とし穴』などの罠を念入りに設置した後、出発する運びとなった。
案の定、チューさんと外へ出た時とは逆方向、ちょうど我が家を外から迂回するようなルートである。
ユウキの、現在青くて丸いゴムまりのような背中を追うようにして、俺達は森の中へと入っていく。
「『ランシオン(幻影変化)』の魔法ってすげぇんだな。違和感なく飛べるししゃべれるし」
道中、器用に一頭身のからだを上半分だけよじりつつ、こちらを気にしながらそんな事を言ってくる、『ナクデス・ヴェイト』……吸血こうもりのヴェノンの姿をとっているユウキ。
魔法っていうか、俺にしか使えないらしいカード、なんだけどね。
「ふふ。元々ギャップはあったけど、のんが男の子っぽいの、不思議な感じだね」
「おかげで少なくともお互いを見間違う事がないのは確かじゃがな」
……そんな話題から始まって。
俺の頭上付近で三人でわいわい、なんていうかまた疎外感。
壁があるというか、会話に入りづらいというか。
まぁ、仮に入ってったって、彼女達が文句言うわけじゃなし、入ってもいいんだろうけどさ。
どっちかっていうと、入らずに見ていたいって感じなのかな。
親心でも芽生えたのだろうか。
そういうの、なかったと思ってたんだけどな。
きっとかわいいは正義ってやつだろう、うん。
「……『リングレイン』の街に行くのはこの際いいいけどさ、通行証とか持ってないよな?」
「つうこーしょう?」
「ふむ。確かにひと様のシマに向かうわけじゃし、あってしかるべきか」
首を傾げるフェアリに、どうするつもりじゃったのかと、視線を向けてくるチューさん。
どうやら、三人だけの楽しいおしゃべりはひと段落ついたらしい。
俺は喜々として(だけどそれを表には出さないようにして)それに応えた。
「失くしたって言えば、再発行とかしてくれるんじゃないの、普通」
「あー、確かにそうだけど、四人全員持ってないってのはなぁ。無理があるだろ。オレのはさすがに使えないだろうし」
ユウキはそう言って、たすきのようにかけたアイテムバッグに、器用に顔を伸ばして突っ込んでごそごそする仕草。
と言うか、三人は俺のテイムモンスター扱いってわけにはいかないのだろうか。
それとも、テイムモンスター一人一人にも通行証がいるってことなのか。
そうなると、うん。
確かに四人全員持ってないってのはちょっと怪しいかもな。
田舎から冒険者になりにみんなで来ましたってのはダメだろうか。
ダメならここは、ファンタジーのベタネタに助けを乞う以外にあるまい。
「あー、それならお約束の冒険者ギルド的なものはある?」
「うん? そりゃもちろんあるよ。一応、勇者も国のおかかえだけど所属してるし」
「なら、ギルドカード的なものは、その通行証の代わりになったりしないのか?」
「代わりっていうか、同じものだな」
「おお、じゃあギルド行って四人分作っちゃおう」
「オレは一応、その方法を聞いてたんだけどな」
「そりゃあ、様々な方法から一つ選んですっぱり侵入っしょ。中に入ってしまえばこっちのもんだろ」
「たくさんある中から選んでそれかよ……」
どこか呆れた、ジト目なユウキ。
無茶だと言わないのは、それだけ入る事は難しくないのか。
俺の魔王的すごさを理解していらっしゃるのか。
「侵入方法っていってもいろいろあるけど、どれにする? 街外から地面を攻めたりとか」
「……いや、うん。ジエンの好きなようにしてくれ」
ギフトやスキル、それにこの場合ならばチューさんの手を借りるのもありだろう。
どれにしようか解説しよかとマイバッグをあさっていると、そんなつれないユウキのお答え。
何、もうすでに荒唐無稽な俺(自覚あり)に慣れちゃってる感じ?
それとも面倒くさいだけなのかな。
となると、ベタな方法じゃ面白くないかしら。
魔王的なアクションが必要だろうかと考え込んでいると。
それまで微かな笑みを絶やすことなく俺の右肘に触手を絡めてご機嫌にふわふわしていたフェアリが、不意にぴたりとその場にとどまった。
「ご主人、その前にお客さんのようだよ」
普段、索敵と言えばヴェノンの仕事だったのだが、ユウキに『ランシオン』のカードを使う事によるメリットデメリットの説明をそう言えばしていなかったのを思い出す。
「お客さん、モンスター……いや、これは人だな。野盗か?」
しかし、無意識に『索敵』が使えるのか、ある方向……なんとはなしに、人が隠れるには持ってこいの茂みの向こうに視線だけで注意を促すユウキ。
「よし、ここはいただくものはいただいて、お客さんの姿を借りて街へ入るのがベストかな?」
「……どっちが野盗だかわかりゃしねえな」
呆れたような、だけどどこか余裕のあるユウキの呟き。
実際に野盗程度ならば、脅威にならないのは事実なのだろう。
俺達の所へ来るまで、同じような体験をしてきた可能性もある。
「ご主人、どうするんだい? 何ならぼくが行ってさくっと片付けてこようか?」
一方、敵を発見し戦になるかとみるや、すぐに懐に隠れてしまったチューさんとは対照的に、
こちらも余裕な様子で期待に笑みを浮かべているように見えるフェアリ。
リカバースライムと言う種族である彼女の真骨頂は、回復から始まる守りなのだが。
テイムモンスターの中ではその有用性もあって一番多く冒険をともにしていた事もあり、レベルが高くその触手の攻撃一つとっても侮れない。
実際、彼女と共に行動する事による一番のリスクは。
フレンドリーファイアや、所謂状態異常……混乱系のバッドステータスを受けた時の、こちらへの直接攻撃であった。
百回以上ダンジョンに潜る中で、彼女からの予期せぬ攻撃で攻略失敗した事は何度もあって。
魔王らしく死に戻りのやり直しのできる俺ならともかく。
隠れているのがバレバレな野盗さん(まだ確定したわけじゃないけど)達のレベルなら、触手のブロー一発でミンチになってもおかしくなかった。
何より考えるべきなのは、一度敵対してしまったら、当然容赦なんてしないんだろうな、という事で。
「うーん。何か理由があって隠れてるだけかもしれないからね。ここは俺に任せてもらおうか」
野盗じゃない一般人が。
そんなものはきっとないんだろう。
ただ、俺がスプラッタな光景を見たくないだけの理由で、フェアリやユウキの前に出た。
そしてそのまま、実は気づいてますけどって態度バリバリで何者かが潜む茂みへと近づいていく……。
(第16話につづく)
第16話は明日更新いたします。




