第147話、魔王、自分だけの勇者のありがたみをしみじみと思い知らされる
はてさていつまでも寝ている訳にはいかないと。
俺を看てくれていたピプルとともに、第三ホームの最下層、ノ・ノアのコアルームへとやってくると。
やはりそろそろ起きてくる頃だったの、とばかりにチューさん達が声をかけてくる。
「うむうむ。さすがは主どのじゃな。ちょうど良い頃合いよ」
「正直、大分キケンな状態デシたけど、マスターの契約とフェアリセンパイの物凄い治療魔法の甲斐もあって何とか、といったところデスね」
「ううう、本当に色々とありがとうございましたあっ! 先輩の皆さんのおかげで何とかこの世界へ戻ってくることができたんですっ。ありがとうございますぅっ!」
もしかしたら。
ラマヤンさんの過剰なほどの装備品など諸々付与されたものは。
保護色、カモフラージュの意味合いあったのかもしれない。
黒と赤の、どこか懐かしさを感じる着物姿に、ボブカットの黒髪。
黒紅王鬼と呼ばれる種を表している、一対の角と真紅の瞳。
いかにも歴戦のつわものであろう見た目と肩書きであったが。
当の本人は大分さっぱりとした生真面目なタイプのようで。
『ヴァルーノ(万能得)』……『ブレスネス(祝福息吹)』つきをまともに受けて。
全ての装備や付与アイテム、ある意味ラマヤンさんの呪縛から解き放たれたノ・ノア。
ラマヤンさんに囚われ人型になっても自由に動けなかったのは想像に難くなかったが。
それでもある程度は周りの状況を把握できていたようで。
この極ダンジョン……元、『虚栄のフィルマウンテン』の周りを取り巻く他の極ダンジョンの状況がある程度分かる、とのことで。
正直なところを言えば、既に第三ホームと化してしまっているマイ極ダンジョンをしっかり調整して作り上げた後に探索してみたかったのは確かだが。
自分で創って自分で探索するというのも正直なところ自業自得ではあるのだが、冒険心が薄れそうではあったので。
そんなノ・ノアさんの他の極ダンジョン情報は渡りに船であるのは間違いなくて。
本当はすぐにでもお話を聞きたかったのだけど。
ラマヤンさんの呪縛、その影響が大きに過ぎてすぐには動けないだろうことは予想できていたからこそ俺はしばらく寝こけていた(いいわけ)わけだけれど。
似たような体験をしてきていたダリア曰く、ダンジョンコアとして囚われ続け、死ぬこともままならず心壊れるほどであったはずだが。
フェアリやエルヴァ、そして頼もしいコアな先輩のチューさんやダリアの力添えもあって。
こうして普通にお話出来るほどにノ・ノアも元気になったとのことで。
奇しくも虚栄の極ダンジョンのマスターにもなってしまったわけだから。
是非にもそれに勝るとも劣らない他の極ダンジョンについて聞こうと思ったわけだけど。
「主様。このたびは危ないところを救っていただいてとても感謝しています! このご恩は一生忘れません! そんなわけでして、この身をもって主様のお望みを叶えさせていただきたいと思っています!」
あるいはダリアの時のように。
少し危うい感じと言えば語弊があるかもしれないが。
それこそプライベートスペースが狭くて、ぐいぐい迫って正面から抱きついてきそうな勢いがあった。
先輩コアな二人と比べても肌の露出も多くて。
なんと言いますか、色々なところが規格外に主張してきていて。
このままではさっき気絶したばかりなのにまたぶり返してしまうじゃないかと腰が引けているところをピプルに押し返されてアップアップになっていると。
すぐにそれに気づいてくれたらしいユウキが間に入ってくれた。
「ちょっとノノアさん! そんなことジエンに言ったらダメだよ! 調子に乗って何されるか分かんないんだから!」
「む、確かにこちらから仕掛けたところもあるけど、わたしのようにそれ相応の覚悟がないと、ちょっとたいへん」
って、二人共!?
言うに事欠いて何言っちゃってんの!?
チューさんもダリアも当然のように頷いているし!
……などと焦っていると、そんなユウキとピプルの説得? が効いたのか、はっとなってノ・ノアは少し離れてくれて。
「はいっ! もちろん先輩、お姉様方へのご寵愛、そのお邪魔になるようなことはいたしません!
私はいつまでも待ち続けますと、そういった決意を言葉にしたのです!」
「ちょっ……な、ななそんなんじゃないしっ!」
「はい。ユウキ姉様のお考えは理解しました! 時にはそうやって引くのも作戦のうちなのですね!」
「……オレ、ノノアさんちょっと苦手かも」
俺に限らずみんなとも大分距離の近いノ・ノア。
今までにいなかったタイプだからなのか。
ユウキも色々と突っ込まなければならないところがあるはずなのに、そんな雰囲気なることもなく苦笑していて。
「そ、そんな! 嫌いにならないでくださいい! ユウキ姉様!」
「いやや、別に嫌いとかじゃないよっ。むしろ元気いっぱいな娘は好きだし、ってうわわぁっ!?」
「ユウキ姉様! 私も大好きです! お陰様で元気になれました!」
「ほほ。主どのよりも早く、随分となつかれたの」
そうやって俺が抱きしめられたのならば。
ブラックアウトしてしまいかねないのに。
全然平気そうどころか邪なところ微塵もなく照れくさそうに笑っているユウキは。
やっぱり俺にとっても勇者そのものなんだなぁと、しみじみ思ったりなんかしたりしていて……。
(第148話につづく)




